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水と石油の起源に新説 ~星間有機物が地球の水と石油の起源か?~

現在、地球の水の起源 については、
>他の物質と結びつきやすい性質を持つ酸素が、酸化物(炭素や鉄やケイ素などと結びついた状態)として地球に存在し、それが高温の熱=マグマ・オーシャンによって分解し、酸素が還元して、重力によって引きつけられた大気中の水素と結びつき、水(H2O)ができた<リンク [1]と考えられています。

また、石油 については、
>実は石油は無尽蔵にあることがわかっており、ロシアはそのことを50年も前から知っていた<リンク [2]とのことですが、その起源については諸説あり未解明な状況です。

この度、北海道大学らの研究チームにより、星間分子雲のチリに含まれる有機物を加熱すると水(と石油)が大量に生成されることが発見され、有機物が水(と石油)の源となり得ることが提示されました。改めて、地球及び地球型惑星の 水や有機物の起源、そして石油の起源についても解明が期待されます。

以下、研究チームのプレスリリース [3] より。

 

星間有機物が地球の水の起源に ~地球型惑星の水の起源解明に期待~

ポイント

・星間分子雲のチリに含まれる有機物を加熱すると水が大量に生成される ことを発見。
・氷がない 2.5 天文単位より内側の領域でも有機物が水の源になり得ることを提示。
・地球型惑星の水の起源解明に期待。

概要

北海道大学低温科学研究所の香内   晃教授,桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部の中野英之教授,岡山大学惑星物質研究所の山下 茂准教授,奥地拓生准教授,九州大学大学院理学研究院の奈良岡浩教授,海洋研究開発機構生物地球化学センターの高野淑識主任研究員,東京大学大学院理学系研究科の橘 省吾教授らの研究グループは,星間分子雲*1 のチリに大量に含まれている有機物を加熱すると, 水が大量に生成される ことを発見しました。

これまで,地球に水をもたらした物質としては,彗星の氷や,炭素質隕石に含まれる水を含む鉱物などが候補になっていました。しかし,チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の探査によって彗星の氷の寄与はほとんどないことがわかり,また,炭素質隕石では地球の水が多くなりすぎるなどの問題があり,地球の水の起源はわかっていませんでした。
星間分子雲由来の有機物は,氷がなくなってしまう,太陽から 2.5 天文単位の距離より内側の領域でも残っているため,有機物から水ができるという結果は,地球のみならず,火星や小惑星の水の起源を解明する上で,重要な成果です。「はやぶさ 2」によって採取された試料中の有機物の分析と相まって,地球をはじめ,地球型惑星の水や有機物の起源が解明されることが期待されます。

なお,本研究成果は, 2020 年 5 月 8 日(金)公開の Scientific Reports 誌に掲載されました。

【背景】
宇宙には大量の有機物があります。たとえば,彗星やそのもとになった星間分子雲のチリでは,氷と鉱物と有機物の比は 1:1:1 です。また,炭素質隕石にも有機物が含まれています。しかしながら, これまでの惑星の起源論では,惑星の材料物質は鉱物と氷だけであると仮定していました。地球の水の起源を議論する際も同様でした。惑星の材料物質として全量の 1/3 もある有機物を無視すると誤った結論を導く危険性があります。そこで,氷が蒸発してなくなった雪線*3(2.5 天文単位)より内側の領域において,星間有機物が普通隕石*4 母天体でどのように変化するかを実験で調べました。

【研究手法】
星間分子雲のチリに含まれる星間有機物を直接手に入れることはできません。星間有機物は,星間分子雲で氷(水, 一酸化炭素, アンモニアなどからなる)に紫外線が照射されてできたと考えられています。そこで,このようなプロセスを実験室で再現し,生成された有機物の化学分析結果をもとに, 試薬を調合して出発物質(模擬星間有機物)を作りました。それをダイヤモンドアンビルセルで加熱し,顕微鏡で加熱過程を観察しました。また,反応容器で加熱する実験も行い,回収した生成物を各種化学分析法で分析しました。

【研究成果】
ダイヤモンドアンビルセルを用いた加熱実験の写真(p.1 図)のとおり,100℃では一様な有機物ですが,200℃では2相の有機物に分離します。350℃で水の生成がはっきりし,有機物は赤茶色のものだけになります。400℃では有機物が黒くなり石油のようになりました。これらの過程の動画がScientific Reports の Web サイトにありますので,是非,ご覧になってください。

また,反応容器を用いて 400℃で加熱した時に得られた生成物の写真(図 1)のとおり,上の黒い部分は石油で,下側の半透明な液体が,有機物が少し溶けた水です。各種化学分析の結果から,石油は地球上で産出するものによく似ていることがわかりました。
以上の2つの実験から,模擬星間有機物を加熱すると,水と石油が生成されることが確認できました。出発物質の組成を大きく変えても,水と石油ができるという結論は変わりませんでした。以上の結果から,星間有機物は 2.5 天文単位より内側の領域(普通隕石母天体や地球型惑星)の水の起源になり得る ことが明らかになりました(図 2)。これまで考えられてきたような炭素質隕石がなくても地球の水の起源を説明できる可能性がでてきました。また,小惑星や氷衛星の内部には大量の石油が存在している ことが示唆されます。

【今後への期待】
「はやぶさ 2」が試料の採取に成功し,2020 年末に地球に帰還予定です。本研究グループの研究者がその試料中の有機物を分析しますので,地球型惑星や隕石中の水や有機物の起源が,より明確になることが期待されます。

【用語解説】
*1   星間分子雲 ・・・ 極低温(10K=-263℃)でガスの圧力が非常に小さい星雲。径 0.1m 程度の固体
(珪酸塩,有機物,氷)とガス(水素分子)からなる。オリオン座の馬頭星雲などが一例。

*2 ダイヤモンドアンビルセル ・・・ 小さな穴のあいた金属板を 2 個のダイヤモンドではさみ,金属板の穴に入れた物質を高圧にする装置。ダイヤモンドは透明なので,加圧・加熱中の様子を顕微鏡で観察できる。

*3 雪線 ・・・ Snow line とも呼ばれる,原始惑星系(太陽系)円盤で水が気体(水蒸気)から固体(氷) に変わる場所のこと。太陽系では,おおよそ 150K (=-123℃)で太陽からの距離は 2.5 天文単位である。

*4 普通隕石 ・・・ 主として珪酸塩鉱物からできている石質の隕石。雪線の内側の小惑星帯で形成されたと考えられている。

 

(以上)

 

[4] [5] [6]