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進化生物学から見た「カタワのサル(人類)が生存出来た理由」その1

実現塾で、「カタワのサルは、母子で安全性の高い海岸線の洞窟に住んでいたが、食料は調達できたのか?」との設問については

カタワのサルの母子は単独では生存できず、「共同繁殖社会に属していた」からこそ生存でき、集団(共同繁殖社会)が子供を育てた。】と考える。

又るいネットに、丁度

密着充足こそが認知発達の基盤 http://www.rui.jp/tb/tb.php/msg_354213

との記載が有りました。

ついては、類人猿の子供についての記事を紹介します。

>霊長類の成長プログラムを哺乳類全体と比べると、まず胎児があって、赤ん坊があって、大人があるというのは、どの哺乳類も大体似たタイプなのですが、そこに子どもと、若者と、老後というのが入っているのがヒトの特徴です。

>子どもというのは離乳後という意味で、離乳後で性成熟開始以前を子どもと呼びます。その他の哺乳類では存在しません。また、若者というのは、性成熟は開始しているけれども、まだすぐには繁殖にいかない、こういう時期があるというのも、多くの哺乳類には存在しません。チンパンジーやゴリラには多少この時期がありますが、哺乳類一般は、こういう時期はスッと通り抜けて、あっという間に大人になるわけです。また、老後というのも、哺乳類全体として普通は存在しません。死の直前まで繁殖が可能で、繁殖終了が死に時です。だけど、人間は繁殖終了後の時間が、それまでの2倍ぐらいあることがあるのです。これがヒトの特徴です。

>原始社会では、子供を母一人では育てられない。共同繁殖社会が「子ども」を育てる

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「進化生物学から見た”子ども”と”思春期”」

師:長谷川眞理子(総合研究大学院大学教授)https://www.blog.crn.or.jp/kodomogaku/cafe1-1.html

■生活史戦略のトレードオフ

生物学では、生まれてから死ぬまでの時間配分やエネルギー配分等のあり方を生活史、ライフヒストリーと呼ぶんです。最初にドーンとエネルギーを使ってしまって、すぐ死んでしまうのもあるし、次の年に余力を残しておいて長生きするというものもあるし、いろんな戦略があります。エネルギーをどのくらい体に投資するか、し続けるか、し続けないかということで、体を大きくするか小さくするかも生活史戦略だし、すごく早く成長するか、ゆっくり成長するか、毎年つけ加えていく分を多くするのか少なくするのかということもあります。

生活史戦略で大事なのはトレードオフで、すべてを満たす最大化というのはできないということです。限られた時間で、限られた量のエネルギーしか投資できないわけですから、多産にしたら多死になるし、少産にしたら少死になる。1個が大きくなると数は少なくなるし、数をたくさんにすれば1個が小さくなる。さまざまな面でのトレードオフがあります。

最近、生態学ではあまり言わないのですが、トレードオフを考えると、大ざっぱにr-Kという2つのタイプがあります。昆虫などがそうですが、r型は体重が小さくて、多産多死で、成長速度が速いものは、予測不可能な、ランダムな環境飽和状態に住んでいる。だから、空きが見つかったら、わっと増えることができる。そのような動物は、たくさん産んで、たくさん死んで、明日は明日の風が吹くで、世話も余りしない。

それに対して、体重が大きくて、少産少死で、成長が遅いものは、大体、飽和環境に住んでいる。収容力がいっぱいのところにいて、変動が少なくて、増加率は低い。哺乳類はだいたいKで、霊長類、特に類人猿が強いK型だと言えると思います。でも、哺乳類の中でもばらつきは大きく、有袋類のアンテキヌスは、1年に1回しか繁殖しなくて、オスは1回繁殖で死にます。メスは都合がよかったら2年目も繁殖するんですけれども、オスは繁殖期になるとオスオス競争といろんなストレスで、毛も抜けて、目も取れ、指も折れてしまって、全滅。だから、最後の年に生きているオスを見つけることができません。ですが、一般に有袋類は、1産1子で子どもを大事に育てます。

サル類、霊長類というのは、非常に強いK型なのですね。体重が大きくなればもちろん成長が遅いし、寿命は長いしというように、ゆっくり投資をする。そうやって大きくできたものは、それから先に使うから、全部が長いのです。妊娠期間も体重の割には一番長いし、初産年齢も体重の割には一番遅いし、寿命も体重の割には一番長い。ですから、私が調査していたチンパンジーなども含めて、動物界としては最も長い時間をかけてゆっくり育てるというのがサル類なのです。

■ヒトの成長プログラム

(中略)

ヒトは、子ども、若者、老後という非常に長い期間を持っている不思議な動物です。子ども学会はここに注目しているわけです。しかし、子どもというのを取り出すだけではなくて、生活史戦略全体としての成長プログラムがどう配分されているかを考えたときに、ヒトというのは、この3点が非常に長く延びているということが特徴であると思います。

■ヒトの赤ん坊期・子ども期

赤ん坊というのは、栄養と保護とを完全に母親に頼っている時期で、この時期は哺乳類のお母さんたちはみな大変です。ただ、人類学的、進化生物学的に見て、ヒトの赤ちゃんがすごく変わっているのは、ものすごく体脂肪が多い点です。

(中略)

子どもというのは、栄養、移動に関しては自立しているが、心理的保護面においては母親に頼っているというのが、動物での「子ども」の定義です。ニホンザルもチンパンジーも、離乳さえ終われば自立します。1人で動くし、1人で群れの移動についていくし、1人で巣をつくって寝るし、1人で全部食べますから、母親から子どもへの食料エネルギーの流入はありません。でも、まだ心理的に親がいないと嫌なので、お母さんにくっついているし、そこでお母さんが死んでしまうと、死亡率がガッと上がるという意味で、栄養、移動に関しては自立しているけれども、心理的に自立していないという意味で、子どもという言葉が使われています。それが、ニホンザルでは1~3歳、チンパンジーは5~10歳ぐらいだろうと言われているのですが、その年齢で、ヒトは全然自立していません。ヒトの子どもは、3~7歳が準備の間で、7~12歳がチャイルドフッドなどと分けたりしている人もいますけれども、とにかく離乳が終わったからといって全然終わらない。

チンパンジーは体の大きい大型類人猿で、388㏄と霊長類の中で一番大きい脳を持っていますが、大きい赤ん坊を育てるために、母親は子どもが5歳になるまで授乳しています。一方、ヒトの子ども、アフリカの狩猟採集民などの子育てを見ていると、子どもが3歳になる頃までしか授乳しません。平均で、2年10カ月ぐらいで離乳してしまうんです。人間は最終的に脳の大きさが1,200~1,400㏄になり、体重も65㎏ぐらいになるにもかかわらず、赤ん坊の離乳が2年近くも早い。これはあり得ないことです。ヒトは、赤ん坊の時期が短く、それに対してめちゃくちゃ長い子ども期というのがあるのです。本来なら、赤ん坊期というのはもっともっと長くあるはずで、そこでたくさん母乳をあげなくてはいけないのに。

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その2へ続く

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