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「盗たんぱく質」~餌生物から酵素を盗み利用する生物~

>☆進化⇒変異の仕組みは、大・中・小の3段階
小:紫外線で傷いたり、分裂時のコピーミスで起きる変異
中:駆動物質の指令による漸進的進化
大:他の生物(ex.ウイルス)が飛び込んできて、そのまま遺伝子を蓄積していくことによる劇的な進化
真核生物は、自らとは別の起源を持つ微生物やウイルスを自らの細胞内に取り込み共生することにより、劇的に進化したと考えられます。リンク [1]

他の生物を自らの細部内に取り込み共生することにより生物は大進化を遂げますが。なんと、餌由来のたんぱく質を消化せず特定の器官の細胞内に取り込み、本来の機能を保ったまま利用する盗たんぱく質」という現象があるようです。

JST科学技術振興機構プレスリリース [2] https://www.jst.go.jp/pr/announce/20200109-2/index.htmlより。

餌生物から酵素を盗み利用する生物を発見

~キンメモドキは食べたウミホタルの酵素をそのまま使って発光する~

ポイント

・発光魚キンメモドキ(Parapriacanthus ransonneti、スズキ目ハタンポ科)は自前の発光遺伝子を持たず、餌であるウミホタルから発光酵素を獲得して利用していることを明らかにした。

・これは、餌由来のたんぱく質を消化せず特定の器官の細胞内に取り込み、本来の機能を保ったまま利用することを示した世界で初めての例であり、この現象を「盗たんぱく質」(Kleptoprotein)と命名した。

・キンメモドキにおける「盗たんぱく質」の進化プロセスとそれに関わる遺伝子メカニズムの研究を始め、キンメモドキ以外にも(生物発光に関わらず)盗たんぱく質現象が普遍的に生物界に存在するのかについてなど、さらに今後の研究の展開が予想される。

・生物が持つこれらの仕組みを解明し、それに倣う(バイオミメティクス)ことでさまざまな応用展開(例えば、たんぱく質性医薬品の経口投与方法の開発などの医学分野への貢献)も期待される。

中部大学 応用生物学部の大場 裕一 教授は、米国 モントレー湾水族館研究所 博士研究員の別所-上原 学 博士、名古屋大学 大学院生命農学研究科の山本 直之 教授らと共同で、魚類で初めて、ルシフェラーゼの由来の解明に成功しました。生物発光はバクテリアから脊椎動物まで広く見られる形質であり、生命の歴史の中で、何度も独立に進化してきました。発光反応は一般に「ルシフェラーゼ」と総称される酵素たんぱく質と「ルシフェリン」と総称される化学物質による生化学反応であると説明できます。それぞれの発光する生物群は起源が異なる独自のルシフェラーゼを進化させてきたと考えられています。しかし、発光する魚類の中で、ルシフェラーゼの正体が解明された例は、全くありませんでした。

キンメモドキのルシフェラーゼのアミノ酸配列を解析したところ、驚くべきことに、発光する甲殻類のトガリウミホタルのルシフェラーゼと同一であることが分かりました(図1)。さらに、ウミホタルを与えずに長期間飼育すると、キンメモドキは発光能力を失い、その後、ウミホタルを餌として与えることでウミホタルのルシフェラーゼを体内に取り込んで発光能力を回復させることを明らかにしました。

生命現象をつかさどる酵素はたんぱく質でできているので、通常ならば食物として体内に入ると消化器官で分解され、本来の機能は失われてしまいます。ところが、キンメモドキはウミホタルを捕食し、未知の仕組みにより、ルシフェラーゼを消化せずに細胞に取り込み、本来の機能(発光)の用途に使っていることが分かったのです。

~中略~

ある生物が持っている特殊な能力を、それを食べることでそのまま獲得する生物は非常に珍しいですが、いくつかの例が知られています。例えば、ミドリチドリガイというウミウシの仲間は葉緑体を持ち、光合成をすることで数ヵ月間も太陽光だけで栄養を自給自足できることが知られています。しかし、このウミウシは生来の葉緑体を持たず、餌である藻類から「盗む」ことで「盗葉緑体」を獲得し、利用している ことが知られています。また、ミノウミウシはクラゲなどの刺胞動物を捕食することで、刺胞細胞を獲得します。このような盗刺胞はウミウシの仲間だけでなく、ある種のクシクラゲ(刺胞動物ではなく有櫛動物)やヒラムシなどでも見つかっています。

通常ならば、摂食された細胞やたんぱく質は分解されて本来の機能を失います。そのため、私たちが海藻やクラゲ、ウミホタルを食べても、葉緑体や刺胞、ルシフェラーゼを取り込むことはできません。

今後、これらの生き物が、どのようにして必要なたんぱく質だけを消化せずに取り込んでいるのか、その取り込みを可能にする分子機構の解明が待たれます。

葉緑体、刺胞、そして発光といった複雑な形質を進化させるのは、自力で一から作るよりも、餌から盗んでしまった方が簡単なのかもしれません。今後、「盗たんぱく質」という視点を持ちながら、複雑な生態系の一部である生物を見直すことで、新しい発見が生まれてくるかもしれません。

また、特定のたんぱく質を消化せずに体内に取り込む仕組みが解明されれば、さまざまな技術に応用できることが期待できます。例えば、糖尿病の薬であるインスリンなどのたんぱく質性医薬品は経口投与すると分解されてしまうため、現在では注射により投与されています。盗たんぱく質の取り込み機構を応用することで、飲み薬としてのたんぱく質性医薬品の実現が期待されます。

~以下略~

<参考図> リンク [2]

(以上)

[3] [4] [5]