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DNAオリガミを融合した分子人工筋肉を開発!~分子ロボットの研究成果と可能性~

機械によるロボットではなく「化学的な部品(分子)」を組み立てた「分子ロボット」をつくり、生体内での任務を行うことを目指した研究が進められています。その研究の結果、世界最小の分子ロボットを作ることに成功したそうです。
小さなロボットが命を救うか 分子ロボットがもつ無限の可能性

以下、北海道大学・関西大学・東京工業大学プレスリリース [1]https://www.hokudai.ac.jp/news/190507_pr.pdfより研究の概要を紹介します。

世界初!DNA オリガミを融合した分子人工筋肉を開発
~ナノからマクロスケールまで広範に適応する再生可能なソフトアクチュエーターとして期待~

【ポイント】
・バイオテクノ口ジーとDNAナノテクノ口ジーの融合で自在にサイズ変更できる分子人工筋肉を開発。
・再生可能な化学エネルギーを力学エネルギーへと高効率に変換可能。
・医療用マイク口口ポッ卜や昆虫型ド口ーンなどへの動力源として期待。

【概要】
北海道大学大学院理学研究院の角五彰准教授、関西大学化学生命工学部の葛谷明紀教授、東京工業大学情報理工学院情報工学系の小長谷明彦教授らの研究グループは、モータータンパク質*1 とDNA*2 からなるオリガミ*3 を組み合わせることで、化学エネルギーを力学エネルギーに直接変換する分子人工筋肉の開発に世界で初めて成功しました。

モータータンパク質は,化学エネルギーを力学的な仕事へと変換するナノメー卜ルサイズの分子機械です。バイオテクノ口ジーの発展によりモータータンパク質の合成が可能となり,優れたエネルギー変換効率と高い比出力特性( 般的な電磁モーターの 20 倍)を有しているため,マイク口マシンや分子口ポッ卜の動力源として期待されています。しかし,ナノメー卜ルサイズのモータータンパク質を秩序立てて目に見える大きさにまで組み上げることはこれまで不可能でした。

本研究では,バイオテクノ口ジーにより合成されるモータータンパク質と DNA ナノテクノ口ジーにより合成される DNA ナノ構造体(DNA オリガミ)を組み合わせることで,自在にサイズを制御可能な分子人工筋肉の開発に成功しました。これにより,化学エネルギーで駆動するミリメー卜ルからセンチメー卜ルサイズの動力システムが実現し,将来的には医療用マイク口口ポッ卜や昆虫型ド口ーンなどの動力源として期待されます。

図_190507_北大プレスリリース_pr [2]

分子人工筋肉のイメージ図

【背景】
現在,超スマー卜社会*4 に向け,人工知能(Al)や情報通信技術(lCT)により進化するサイバー空間(仮想空間)とマテリアルの革新によるフィジ力ル空間(現実社会)の融合が求められています。特に、仮想空間からの情報を現実世界に作用させるアクチュエーター*5 技術の開発が強く望まれています。

これまで、有機材料を用いたソフ卜アクチュエーター(人工筋肉)が数多く開発されてきましたが、比出力特性(重量当たり出力)や設計サイズの自由度の低さ,電気エネルギーへの依存などが課題でした。

これらの課題を解決するキーマテリアルとして、再生可能な化学エネルギーを高効率で力学エネルギーに変換する生体由来の分子機械「モータータンパク質」などが,近年特に注目されています(発動分子科学“http://www.molecular-engine.bio.titech.ac.jp/”)。

しかし、ナノメー卜ルサイズの分子機械を巨視的(マク口)な構造にまで組み上げることは大変難しく,高いスケーラビリティやデザイン性, 造型性を有する合理的な設計法の確立が望まれていました。

研究チームはこれまでに、口ポッ卜の三要素であるアクチュエーター、センサー、プ口セッサーをそれぞれモータータンパク質と DNA を化学的な手法で組み合わせることで,外部からの信号に応答して自発的に群れをっくる世界初の”分子群口ポッ卜”を開発してきました(Nature Commun. 2018,9,453)。

本研究では,この分子群口ポッ卜と同じ素材を用い,分子パーツから組み上げることで,数千倍までスケールアップし,実際に駆動可能であることを実証しました。

~(中略)~

【用語解説】
*1 モータータンパク質 … アデノシン三リン酸(ATP)の加水分解によって生じる化学エネルギーを運動に変換するタンパク質。生物のほぼ全ての細胞に存在しており,物質の輸送や細胞分裂に関わっている。アクチン上を動くミオシン,微小管上を動くキネシンやダイニンが知られている。本研究では微小管とキネシンを使用した。

*2 DNA … デオキシリポ核酸の略。ATGC の四種の塩基配列情報に基づく高度な分子認識能力をもち, 生体内で遺伝子情報の保存と伝達を担っている。近年,DNA の化学合成が容易になってきたことから,この分子認識能力を活用して,複雑なナノ構造体(DNA オリガミ)やデジタルデータの記録のほか,数学的問題を解くことのできるDNA コンビューター(計算機)などへも応用されるようになった。

*3 オリガミ … 非常に長い 本鎖の DNA を 筆書き状に折りたたんで,これを多数の短い相補的なDNA でかたちを固定化することにより,メゾスケール(サブミリメー卜ル)の望みの構造体を作る技術。2006 年の発明当初は平面構造しか作ることができなかったが,近年は複雑な立体構造を作ることもできるようになってきた。

*4 超スマー卜社会 … 必要なもの・サービスを,必要な人に,必要な時に,必要なだけ提供し, 社会の様々なニーズにきめ細やかに対応でき,あらゆる人が質の高いサービスを受けられ,年齢, 性別,地域,言語といった様々な制約を乗り越え,活き活きと快適に暮らすことのできる社会。

*5 アクチュエーター … さまざまなエネルギーを機械的な動きに変換し,メ力卜口ニクス機器を正確に動かす駆動装置。

*6 アデノシン三リン酸(ATP) … 動物,植物,菌類からバクテリアまで全ての生き物が利用する 再生可能なエネルギー。筋収縮だけなく,細胞内物質輸送やイオンポンプ,発光などにも使われ, 生体のエネルギー通貨とも形容される。

【参考図】

図1_190507_北大プレスリリース_pr [3]

図 1.分子人工筋肉の概略図

DNA 修飾微小管と DNA オリガミ構造体を混合させることでアスター構造が自発的に形成される。さらに,ス卜レプ卜アビジンタンパクで四量化したキネシンを加えると,アスター構造がさらに自発的に組織化し,ミリメー卜ルサイズの網目構造が形成される。ここにアデノシン三リン酸(ATP)を加えると,アスター構造同士がキネシンにより引き寄せられ収縮が起こる。
(右) ATP の導入により収縮する分子人工筋肉の蛍光顕微鏡写真。スケールバー:500 マイク口メー卜ル(=0.5 ミリメー卜ル)。

(以上)

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