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大脳皮質の入り口で、すでに多種の感覚情報が処理されていることを発見

20万年前に誕生したホモサピエンス(現代人)は、抽象的な思考が可能になったと言われている。具体的には動物の骨や牙での装飾や楽器制作、25000年前には洞窟の壁画を描くようになっている。他の霊長類と比べても大脳容量はさほど大きくなってないにも拘らず、視覚・聴覚という膨大な外界情報を基に認知・思考・判断そして抽象化する機構は解明されていなかった。

事実として、ヒトは無数ある自然現象等を数式等でモデル化する能力(法則化、構造化を大脳連合野で行う)を持っていると考えられる。これにより大脳容量は大きくしなくても対応できる。膨大な情報(無数の式)を簡単な式で表し、将来予測をして対応する。これは、生物そのものが持っている情報エントロピーの収束化機能(外界適応機能)と言える。

その大脳構造「五感で捉えた多数の感覚情報を大脳皮質で統合する機能:大脳皮質の入り口で、すでに多種の感覚情報が処理されていることを発見」とのプレス発表がありましたので転載します。

奈良先端科学技術大学院大学のプレス発表

http://www.naist.jp/pressrelease/2018/12/005468.html

大脳皮質の入り口で、すでに多種の感覚情報が処理されていることを発見~「早い情報処理」の謎解明に期待~

【概要】

知覚を担当する脳の大脳皮質のうち、その入り口にある初期大脳皮質では、視覚など複数の感覚情報それぞれに対応する神経細胞が別々に処理するだけで、複数の情報の統合は高次の部位にまかせる、とされていましたが、詳細は不明でした。奈良先端科学技術大学院大学(学長:横矢直和)先端科学技術研究科バイオサイエンス領域神経機能科学研究室の駒井章治准教授は、初期大脳皮質にも複数の情報に同時に反応して統合する神経細胞があり、素早く情報処理していることを明らかにしました。

私達が受けるほとんどの情報は脳の深いところに位置する視床を通り、例えば皮膚感覚は一次体性感覚野、視覚は一次視覚野というように初期大脳皮質にまず送られます。様々な情報は分解されそれぞれの担当部位に送られ処理されるわけです。視覚情報の場合は幾つかの部分に分解され、これが統合されて様々な物体や顔を認識しているとされています。また幾つかの異なる種類の情報が互いに影響し合うことも報告されていますが、脳のどの領域で統合されているのかについては未だ不明な部分が多く残されています。

今回の研究では生体脳に対してパッチクランプという電気生理学的な方法を適用することで、単一の神経細胞がどのような情報を受け応答しているのかを詳細に検討し、初期大脳皮質においてすら複数種の情報が数百ミリ秒の早さで入力された後、統合されていることを明らかにしました。今後のより詳細な脳の情報処理の在り方に関する研究により、脳の情報処理、特に「早い情報処理」の理解の一助になると考えられます。

今回の研究結果は米国の専門誌”Plos One”に2018年12月20日付で掲載されました。

【解説】

私達の脳は五感や運動など私達が意識するしないに関わらず、私達に働きかけてくる身体の内外の様々な情報を処理しています。一般にそれぞれの情報は脳内で個別に分類され細かく処理されていきます。例えば音の情報は耳に入ると内耳の蝸牛管で周波数ごとに分類され、それぞれの周波数に選択的に反応するように配置された神経細胞を通して対応する初期大脳皮質の領域に送られ処理されます。視覚情報も部分に分解され、それぞれの部分に対応した脳部位で処理されるように調整されています。さらに他種類の情報が相互に影響し、どちらかの感度を上げたり下げたりするような事例も報告されています。しかし一方でこの様に分解された情報がどの様に統合され認識されるのかについては不明な部分が多く残されています。

【実験結果】

通常初期大脳皮質ではそれぞれ対応する感覚情報のみを処理し、より高次に進むにつれ様々な情報が統合的に処理されるとされていますが、今回の研究ではバレル皮質と呼ばれるマウスのヒゲの感覚情報を処理している一次体性感覚野の一つの神経細胞が耳からの音の情報により反応することが明らかとなりました。さらにその音反応が始まるタイミングはヒゲ刺激による反応に比べて遅く、長く続くこと、また、ヒゲの感覚情報と相加的に作用しうることがわかりました。この様な脳の情報処理の仕組みを少しずつ解明することにより、「早い情報処理」の特性を明確にする一助となることが考えられます。

図:初期大脳皮質の一つの神経細胞で観察されたヒゲ体性感覚応答(上)と音応答(下)図:異種感覚応答の相加作用

算術的に加算したもの(青)と異種感覚のタイミングを合わせて実験的に加算させたもの(赤)はほぼ同じ大きさを示すことが示された。右のグラフは複数のデータを示した。

【背景と目的】

私達の脳、特に大脳皮質では情報はどのように処理されているのであろう。ノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンは脳のシステムには「早い情報処理」と「遅い情報処理」があることを提唱している。「早い情報処理」は系統発生的にも早いもので、多くの動物に保持されていると考えられる。「早い情報処理」システムではどのように情報が処理されているのであろうか。今回はネズミの体性感覚を処理している初期皮質のバレル皮質において、別の感覚である音応答が見出されたので、これを報告した。

【今後の展開】

今回の研究はマウス一次体性感覚皮質において多種情報が処理されており、それぞれの情報は相加的であることが示された。今後のより詳細な脳の情報処理の在り方に関する研究により、いわゆる「早い情報処理」システムの情報処理の理解の一助となると考えられる。

【用語解説】

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