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五感の内最も原始的な感覚「触覚」について

人には、五感があり、「五感には、活用するにあたって優先順位が存在する」との事です。

活用できる優先順位の高い順番に並べると下記のようになるそうです。「触覚」>「聴覚」>「視覚」>「臭覚」>「味覚」これが何を意味しているのかと言うと、「優先順位の高い感覚を活用しているときは、下位感覚を活用できない(活用しにくい)」ということなのです。

優先順位の離れた感覚である「触覚」及び「聴覚」を活用しているような状況下においては、正直「味覚」を活用することは出来ないのです。”人に腕を掴まれていたり・触れられていたり”したら、食べ物の味などわからないものなんですね。”寒い・暑い”を触覚で感じているときも、「味覚」は上手く働かないということなのです。

最強で最も原始的な触覚について調べてみました。

>触覚は五感のうち最も原始的な感覚であり、外界を感知する基本機能として生物の生存に不可欠です。例えば、ヒトの皮膚は、体表のあらゆる部位に幾万もの「触覚受容器」を配置している人体最大の感覚器官です。触覚受容器は、体表で生じるさまざまな物理刺激を化学シグナルに変換し、その情報を、感覚神経を介して中枢神経系に伝えることで触覚を生み出しています。触覚には、対象に接触しなければ感覚を得られないという欠点がありますが、多くの動物は、表皮細胞から毛や羽などを作ることで、外界から体を保護しつつ、知覚可能な空間領域を拡張しています。毛は皮膚表面から突出したセンサープローブとして機能し、そこから生じる物理刺激を、毛を作る器官である毛包内の触覚受容器に伝達します。(http://www.riken.jp/pr/press/2018/20181128_1/ [1])より

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“感じる脳”のメカニズムを解明

-皮膚感覚を司る神経回路の発見-(http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150522_1/ [2])より転載します

要旨

国際共同研究グループは、皮膚感覚を知覚する脳の神経回路メカニズムを解明しました。

私たちが物に触れた時に得られる皮膚感覚の情報は、脊髄や視床を経由し大脳新皮質の第一体性感覚野(S1)に到達した後、より高次な脳領域に伝わります。この低次領域から高次領域に向かう入力を「ボトムアップ入力」と呼びます。一方、高次から低次に向かう入力を「トップダウン入力」と呼びます。従来の仮説では、外界の情報に由来する外因性のボトムアップ入力と、注意や予測といった内因性のトップダウン入力とが脳のある領域で連合することで、皮膚感覚は知覚されると言われてきました。しかし、この仮説が正しければ、外因性のトップダウン入力だけでは皮膚感覚は知覚できず「注意して物を触らなければ何も感じない」ことになります。しかし、実際には特に注意せず、ぼーっとしている状態でも皮膚感覚の知覚は可能です。このように、皮膚感覚の知覚を形成する基本的な神経回路とそのメカニズムは全く分かっていませんでした。

国際共同研究グループは、マウスの肢を刺激した時に脳内で起こる神経活動を単一神経細胞レベルから回路レベルまで包括的に測定しました。また、マウスが皮膚感覚を識別する課題を行っている最中の行動を解析しました。その結果、内因性トップダウン入力と外因性ボトムアップ入力が同じタイミングで連合する神経活動は観察されませんでした。一方で、皮膚感覚の情報が外因性ボトムアップ入力としてS1から高次脳領域に送られた後、再びS1へ「外因性のトップダウン入力」として自動的にフィードバックされる反響回路を発見しました。また、外因性トップダウン入力だけでも、従来提唱されてきた内因性トップダウン入力と外因性ボトムアップ入力の連合入力と同等な機能を担っていました。さらに、光遺伝学的手法を用いてこの外因性トップダウン入力を抑制したところ、マウスは皮膚感覚を正常に知覚できなくなりました。

(中略)

研究手法と成果

国際共同研究グループは、マウスの皮膚感覚の知覚を司る神経回路を探るため、神経活動を広範囲に捉える膜電位イメージングを大脳新皮質に対して行いました(図1 [3]A)。マウスの後肢を刺激すると、まず後肢に対応したS1の領域が活性化し、その後、第二運動野(M2)が活性化しました(図1 [3]B)。次に神経活動を抑える薬をS1またはM2にそれぞれ投与し、その効果を観測しました。その結果、S1を抑制した場合はM2 の活動が、逆にM2を抑制した場合はS1の遅い活動(遅発性神経活動)が抑制されました。これらの結果は、後肢からの情報はS1→M2→S1と流れることを示します(図1 [3]C)。これは、皮膚感覚が外因性ボトムアップ入力としてS1から高次脳領域であるM2に送られた後、再びS1へ「外因性のトップダウン入力」としてフィードバックされる反響回路が存在することを示します。

次に、反響回路における神経活動を詳細に調べるため、シリコン電極を用いて活動電位応答を測定しました(図2 [4]A)。大脳新皮質は層構造をなしており、それぞれの層は異なる役割を担います。まず、S1における神経活動を皮質の全1-6層から記録したところ、全ての層において早発性神経活動と遅発性神経活動の2つのピークが記録されました(図2 [4]B)。一方、M2からの神経活動の記録では、S1のような2つのピークではなく1つのピークが観察されました。そのピークは、S1で観察された早発性神経活動と遅発性神経活動の間で見られました(図2 [4]C)。また、膜電位イメージングと同様にM2の活動を薬で抑制すると、S1の遅発性神経活動が有意に減少しました(図2 [4]D)。S1の早発性神経活動が外因性ボトムアップ入力、S1の遅発性神経活動がM2からの外因性トップダウン入力と考えられることから、膜電位イメージングで示された反響回路の存在を支持する結果と言えます。また、全6層のうち5層での遅発性神経活動が特に活発であることが分かりました(図2 [4]E)。これは、樹状突起が他細胞からの情報を受容し統合する役割を持つことから、全6層のうち最も長い樹状突起を持つ5層神経細胞では、より多くの情報を、より長い時間統合することが可能なためと考えられます。国際共同研究グループは、S1における5層での遅発性神経活動は、M2からの外因性トップダウン入力のみで引き起こされていることを解剖学的・生理学的に解明しました。5層での遅発性神経活動に対する外因性トップダウン入力単独が、従来提唱されている内因性トップダウン入力と外因性ボトムアップ入力の連合入力(図3 [5]A)と同等の機能を担うことが分かりました。この結果は、皮膚感覚の知覚における従来の神経回路モデルとは異なる新しい神経回路モデルを示したと言えます(図3 [5]B)。

さらに、国際共同研究グループは、光遺伝学的手法によりM2からS1への外因性トップダウン入力を特異的に抑制し、マウスの皮膚感覚の知覚における外因性トップダウン入力の役割を調べました。具体的には、マウスに対して皮膚感覚を手掛かりとする2種類の床面の識別する行動課題を行いました。1つ目の課題では、四角い箱の床面に紙やすり(ザラザラ)と、それを裏返した面(ツルツル)を半分ずつ敷き、その箱の中にマウスを置きました。マウスの脳には小型光刺激装置を設置し、外因性トップダウン入力を光刺激で抑制できるようにしました(図4 [6]A、B)。マウスはザラザラ、ツルツルの床面のどちらか一方を好む傾向があるため、光刺激をしないマウス群では、ザラザラ、またはツルツル床のどちらかに滞在時間が偏りました。しかし一方で、光刺激をしたマウス群では、その偏りが減少しました(図4 [6]C)。2つ目の課題では、Y字迷路の分岐点の手前の床面でザラザラ、またはツルツル床を提示し、ザラザラなら右方向、ツルツルなら左方向に進むよう訓練した後、光刺激の有無が正解率に与える影響を調べました(図4 [6]D)。光刺激をしないマウスは約80%の正解率を示しましたが、光刺激をしたマウスの正解率は約65%まで減少しました(図4 [6]E)。以上のことから、M2からS1への外因性トップダウン入力が、正常な皮膚感覚の知覚に必須であることが分かりました。

今後の期待

国際共同研究グループは、正常な皮膚感覚の知覚には、S1への外因性ボトムアップ入力だけでなく、その後のM2からS1への外因性トップダウン入力が必須であることを発見しました。また、今回発見した神経回路は、従来の回路とは異なり、注意をしなくても知覚できる回路として利用されている可能性があります。脳は2つの異なる神経回路を状態によって使い分けているかもしれません。神経科学者にとっての最重要課題の一つは、知覚などの「主観的な体験」を神経活動で説明することですが、本研究結果はその可能性を示しました。

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