- 生物史から、自然の摂理を読み解く - http://www.seibutsushi.net/blog -

[性の進化史] 「性」はなぜ存在するのか? 2~雌雄の役割分化

前回は、無性生殖と有性生殖という2つの生殖方法から「性」について考えました。今回は、「雌雄分化」という切り口から追求を深めてみます。
生物史上の大進化はいくつもありますが、中でも生命の誕生に次ぐ様な最も劇的な進化(=極めて稀な可能性の実現)が光合成であり、それに次ぐのが「雌雄分化」です。

■ゾウリムシの生活サイクルから見る「有性生殖」の意義

真核生物が性を獲得し有性生殖を行うよになった意義とは何なのでしょか。それを見事に示してくれる例がゾウリムシという真核単細胞生物です。ゾウリムシは通常は無性生殖によって増えますが、時々異なるゾウリムシ同士が接合し、とても奇妙なことが起こります。

無性生殖と有性生殖の両方を行う点では、前回取り上げた酵母と同じですが、有性生殖がおこる状況が大きく異なります。酵母の場合、環境が劣化すると有性生殖を行います。一方、ゾウリムシの場合、六百数十回ほどの分裂すると有性生殖を行います。正確言うと、接合せず分裂し続けると老化して死んでしまいます。つまり、ゾウリムシにとって、有性生殖は種の保存のためには必要不可欠なものなのです。

ゾウリムシは「分越」に関わる栄養核と呼ばれる大きな核(大核)と、生殖に関わる小さな核(小核)を持っています。接合すると大核が消失し、小核は減数分裂によって4個の核を作ります。そして、そのうちの3個は消滅して1個だけが残ります。この1個はもう1度分裂して2個になり、うち1個は、2匹のゾウリムシが接合して接触している面を通って相手の体内に入って相手のもう一つの核と合体します。

同様に、相手の核の一つも逆の方向に移動して、もう一方のゾウリムシの核と融合します。その後、消失した大核は小核をもとにして、新たな大核に作り直されます。このようにしてゾウリムシは、二つの異なる個体が接合して核を交換し、互いの遺伝子を混ぜ合わせることによって、接合する前とは遺伝的に異なる新たな生物体に変身することができます。そして元気な個体として生き返ることができるのです。このようにゾウリムシは単細胞生物ですが、生殖細胞と体細胞が分かれている多細胞生物の原型とも呼べるしくみを持っています。

 

zouri2 [1]

画像はコチラ [2]からお借りましした

無性生殖は、子孫を残すという意味ではとても簡単で効率の良い方法ですが、作られる子孫はすべて同じ遺伝的組成を持つクローンであるため、無性生殖の個体が遺伝的に変化するには、1遺伝子当たり1/20,000~1/1,000,000くらいの頻度で起こるまれな突然変異に頼るしかありません。もし生存に有利な遺伝的変化が起こったとしても、無性生殖の場合、それらの有用な遺伝的変異は特定の個体で独立して起こるため、それらが異なる個体間や集団内で広まることはほとんどありません。そのため無性生殖は、既に述べたように遺伝的多様性を生みだすという点では不利益が大きく、周りの環境に大きな変化が生じた場合、適応できずに絶滅してしまう危険性を秘めています。

多様な環境条件の変動に適応し、種を存続するには、子孫を増やすと同時に、多様な遺伝子の組み合わせを持った子孫をつくらことが必要です。遺伝物質を混ぜ合わせて遺伝子の組成を変える、そして多様な遺伝子の組み合わせを作りだす生物の出現によって、有性生殖という新たな生殖様式が始まったと考えられています。

■雌雄の役割分化
真核生物が誕生し、そして性が出現したのはおそらく太古の昔の海の中であったと考えられています。広大な海の中で、異なる性の配偶子が巡り合うことは極めて低い確率になります。そのため、性を獲得した後は、サイズも形も大きく異なる異型の配偶子が作られるようになります。それが、雄のつくる精子と雌のつくる「卵子」とオスがつくる「精子」です。広く大きな海の中で異なる配偶子が巡り合い、受精卵が育っていく繁殖の効率を極力まで高めるために、運動性がなく大きくて栄養を蓄えた配偶子である「卵子」と、極力、無駄なものを排除し海の中を泳ぎまわって卵子にたどり着くためだけに特化された、小型で運動性に富んだ「精子」が作られたと考えられます。異なる性の個体の配偶子(精子と卵子)が受精することによって雄と雌の異なる遺伝子が混じり合い、多様な遺伝子構成を持つ個体を産み出すことを可能にしたのです。

(以下、るいネット「実現論前史ロ.雌雄の役割分化」 [3]より引用)
『それ以降、雌雄に分化した系統の生物は著しい進化を遂げて節足動物や脊椎動物を生み出し、更に両生類や哺乳類を生み出した。しかし、それ以前の、雌雄に分化しなかった系統の生物は、今も無数に存在しているが、その多くは未だにバクテリアの段階に留まっている。これは、雌雄に分化した方がDNAの変異がより多様化するので、環境の変化に対する適応可能性が大きくなり、それ故に急速な進化が可能だったからである。

事実、進化の源泉はDNAの多様性にある。つまり、同一の自己を複製するのではなく、出来る限り多様な同類他者(非自己)を作り出すことこそ、全ての進化の源泉であり、それこそが適応の基幹戦略である。しかし、同類他者=変異体を作り出すのは極めて危険な営みでもある(∵殆どの変異体は不適応態である)。従って生物は、一方では安定性を保持しつつ、他方では変異を作り出すという極めて困難な課題に直面する。その突破口を開いたのが組み換え系や修復系の酵素(蛋白質)群であり、それを基礎としてより大掛かりな突破口を開いたのが、雌雄分化である。つまり、雌雄分化とは、原理的にはより安定度の高い性(雌)と、より変異度の高い性(雄)への分化(=差異の促進)に他ならない。従って、雌雄に分化した系統の生物は、適応可能性に導かれて進化すればするほど、安定と変異という軸上での性の差別化をより推進してゆくことになる。(注:本書では差別化という概念を、優劣を捨象した客観的な概念として用いる。)』

 

参考
・るいネット「実現論前史ロ.雌雄の役割分化」 [3]
・松田洋一著「性の進化史」

 

 

[4] [5] [6]