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生物の“知能”の原型

347fb9c7 [1]画像はこちら [2]からお借りしました

生物が知能(ex.判断力や記憶力といった能力)を行使できるのは、神経細胞の集合体である脳によるところが大きいです。

しかし、脳はおろか神経細胞すら全く持たない単細胞生物が、判断力や記憶力を備えているかのような行動をとることがわかっています。

生物が備えている“知能”とは何なのでしょうか?

※以降の引用は特記なき限り「脳や神経がないのに迷路を解き、融合することで記憶を共有する黄色いスライム「モジホコリ」の不思議な力 <Gigazine> [3]」からのものです。

落ち葉や朽ち木の表面などに生息する黄色い色をした菌の一種「モジホコリ」は、人間などに備わっている「脳」を持たないにもかかわらず、高度な知能に匹敵するような判断力や記憶力が備わっていることがわかってきています。

モジホコリは日陰で湿潤な環境を好む菌で、目に見えている全体が1つの細胞である多核体の単細胞生物です。細胞を形成する原形質が移動する原形質流動を行うことで、元あった場所から別の場所へと移動できる性質が備わっています。

単細胞生物であるモジホコリには、人間などの生物が持つ臓器や脳といった高度な器官は存在していません。そのため、人間が頭を使って考えるような問題や、過去の記憶をもとに判断する能力は持ち合わせていないと考えられているわけなのですが、実際にはどう考えてみても判断や記憶を行っているとしか思えない行動を取ることが知られています。

○2つの地点を最短で結ぶ能力

その1つが、迷路の入り口から出口までを最短距離で結んでしまうという現象です。以下のムービーには、そんなモジホコリの動きをタイムラプス撮影した様子が収められています。

※ムービー [4]

用意されたのは、シャーレの中に作られた迷路状の通路と、その中に入れられた複数のモジホコリの塊。

モジホコリは組織を動かして隣接する塊と融合していき……

迷路がビッシリとモジホコリで埋め尽くされた状態で実験スタート。今回は「A」から「B」への最短経路を結ばせるという実験です。

次に用意したのは、モジホコリのエサ。実験の際にはオートミールがよく使われているそうです。

オートミールをAとBの地点におくと……

モジホコリが動き、オートミールの存在に気づきました。

餌を見つけたモジホコリは、徐々にエサのある場所へと集中するような動きを見せます。前述のようにこれは1つの細胞でできた生き物であり、考える力を持つ脳は備わっていません。

モジホコリは効率よく栄養を得られる場所に集中している模様。そのため、このような袋小路に入っている部分からは……

原形質が去ってしまい、色も黄色から透明に変わってしまいました。

最終的には、モジホコリでビッシリと埋め尽くされていた迷路が、一本の線で結ばれることに。

そしてこの線こそが、AとBを結ぶ最短距離となっている、というわけでした。

上述のモジホコリは多核体の単細胞生物で、脳は備えていませんが、栄養を摂取するにはどうすればいいかを考え、判断しているような動きを見せています。

通行の障害物に対しても、記憶に照らし合わせて安全性を判断しているような様子が伺えます。

また、細胞同士が融合した際には、片方の細胞が持っていた記憶が共有され、行動の判断軸になっています。

○あるはずのない「記憶力」が備わっている

さらに、脳を持たないモジホコリには存在しないはずの、「記憶する力」が存在しているとしか考えられない事象も確認されています。動物学者のオードリー・ドゥストゥール博士は、移動するモジホコリの経路上に塩やコーヒーといった嫌悪物を置く実験を行うことで、モジホコリには「学習」する能力があることを明らかにしています。

経路上に障害物を置かれたモジホコリは、最初はその場所で明らかな反応を示し、動きが非常に遅くなってしまったとのこと。しかし、同じ行動を何度も取らせるうちに、モジホコリは障害物の存在を記憶し、そのまま通過しても問題がないことを学習することで、動きを遅めることなく移動できるようになったそうです。ドゥストゥール博士は「多くの人は『細胞が学習するなどあり得ない』と言いますが、私たちの研究では同じことを2000体以上のモジホコリで確認しました。偶然の出来事ではあり得ません」と、記憶・学習能力の存在を確信しています。

さらに興味深いのは、この「記憶」が別の細胞と融合した際にも受け継がれるという事実です。ドゥストゥール博士は、上記と同じ状況において、まったくの新しいモジホコリと、障害物を経験済みのモジホコリを並べて置き、どのように移動を行うのかを観察しました。すると、2体のモジホコリはまずお互いにくっついて1つの細胞体に融合しました。その後、同じように移動を開始したのですが、その際にはすでに学習済みの記憶がそのまま受け継がれ、障害物に阻害されることなく移動できたとのこと。このように、モジホコリには、細胞レベルで記憶する能力が備わっており、さらに別の細胞体にも情報を伝達するような能力があることが確認されています。

このように、脳を持たない単細胞生物の中にも、知性を感じさせる判断力と記憶力に類する能力が備わっていることがわかっています。シドニー大学のターニャ・ラティ氏は「私たちは、脳だけが複雑で知的な行動の必要条件ではないことを認識し始めているのだと思います。地球上の生物の大部分は脳を持っていませんが、私たちはそのような生物がどのようにして変化する環境に順応するのか理解できていません。この研究によって、この分野がさらに研究されることを期待しています」と、研究結果の意義を語っています。

こうした単細胞生物の行動から考えると、生物が外圧に適応していくために、集団を形成しその中での情報共有や行動統合を実現することが“知能”の原型であると言えます。(神経細胞やその集合体である脳は、その高度化の中で獲得されたものに過ぎない)

とりわけ人類は高度な“知能”を獲得した生物のひとつですが、その使い方が本来の集団としての適応可能性を高めるベクトルに合致しているかは検証が必要なのではないでしょうか。

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