- 生物史から、自然の摂理を読み解く - http://www.seibutsushi.net/blog -

Y染色体なしで繁殖機能を持つ“オス”

20081013162802 [1]
画像はこちら [2]よりお借りしました

多くの哺乳類は、遺伝子により性決定を行っており、X染色体、Y染色体がその決定に関わっている。そして、Y染色体を持つ個体がオスとなる。
しかし、Y染色体を持たずとも繁殖機能を持つ“オス”が確認されている。

オスの「Y染色体」は生殖に必須ではない:研究結果 [3]<WIRED>より

性決定遺伝子などの必須な遺伝子セットが哺乳類のY染色体上にあり、そのY染色体をもつ個体がオスとなる。というのが、生物学の常識だ。しかし、そのY染色体がないマウスでもオスとして繁殖機能をもつという結果が科学誌『Science』に発表された。
mice-e1454562040631 [4]
画像は本文引用元よりお借りしました

この写真の白いマウスは、ごく普通のネズミに見えるだろう。
だが実はこのマウス、生物学においてオスという性を決定づけるY染色体を受け継ぐことなく生まれた初めてのオスマウス、なのだ。Y染色体が無いにもかかわらず、このオスマウスは父親にもなった。

これは、これまで考えられてきた「X染色体は女性(XX)、Y染色体は男性(XY)」という生物学の常識を覆すものだ。

科学誌『Science』で発表されたこの研究は、ホノルルのハワイ大学のモニカ・ワードの研究チーム(論文筆頭者は、日本人の山内氏)によって実施されたもので、Y染色体の機能は、「Sox9」[訳註:原文では「SRY」。論文によるとSox9とあるため修正)と「Eif2s3x」という2つの遺伝子によってすべて置き換えられるというものだ(つまり、Y染色体が無くても生物個体としては生存し、機能する)。研究チームは、2種の異なる野生マウスでY染色体無しで繁殖することも併せて報告している。また複数種の鳥類を例として挙げ、Y染色体の脆弱症を指摘している。

Y染色体をもたないマウスは、通常より睾丸が小さく、成熟した完全型の精子をつくることができない。研究チームは、Y染色体をもたないマウスは成熟する前段階の「尾のない精子」までしかつくれないことを確認し、その未熟な精子を使って体外受精を行った。その結果産まれたのは、繁殖力の無いオスと繁殖力の有るメスのマウスだった。彼らはオスであるが、まったくY染色体上にある遺伝子情報をもっていない。

今回得られた結果が示唆するのは、Y染色体がいずれ退化するということではない。Y染色体自体はより機能的で優れており、この実験で行われたような別の遺伝子に置き換えることによって生物学的進化のメリットは少ないという。

ここで研究者たちが示している重要なことは、「わたしたちがいま重要と考えている遺伝子も、将来的に無くなる可能性がある」ということだ。

興味深いことに、今回置換のターゲットとなったY染色体上の遺伝子・精原細胞増殖因子「Eif2s3y」は、人間を含む霊長類のY染色体上には存在しない。このことが示すのは、Y染色体も含め生物界の重要な遺伝子のいずれでさえも永遠はなく、いつかその進化の時が訪れるかもしれない、ということだ。

紹介文にあるように、Y染色体がなくとも“オス”として存在し、繁殖機能を持つマウスの存在から、「現在重要と考えている遺伝子も将来的に無くなる可能性がある⇒進化のときがくる」ということも考えられる。
また、それ以上に重要なことは、「変異と安定を両立する雌雄分化」は、たとえ現在その機能を担っている染色体が変化・消滅したとしても放棄できるようなものではなく、生物にとって極めて重要な適応戦略≒可能性であるということではないだろうか。

[5] [6] [7]