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触覚の不思議2~他人に触られると「くすぐったい」のに、自分で触ってもなんとも感じないのはなぜ?

親子間の「くすぐり遊び」は、子どものコミュニケーション能力を高める効果があると言われます。かつて日本には「くすぐる育児」という育児が行われていました。日本人は伝統的にスキンシップの効用を、身をもって知っていたようです。

くすぐり [1](写真はコチラからお借りしました)

 

外界の状況を認識する「温覚」や「冷覚」、身体の危機を認識する「痛覚」。それらの『触覚』は、自然外圧に適応するために不可欠な感覚です。「くすぐったさ」も『触覚』の一つですが、それは「温覚」「冷覚」「痛覚」などとは異なり、自然外圧を認識するような機能はありあせん。

こうして比べると「くすぐったさ」は本質的にあまり重要な意味を待たないような気がしてきます。この「くすぐったい」という感覚は、私たちにとってどのような意味があるのでしょうか?

似ているけれど異なる、「こちょこちょ」と「なでなで」
親子の温かいスキンシップには「こちょこちょ」や「なでなで」があります。
「こちょこちょ」と「なでなで」はどちらも効果的なスキンシップですが、それらは似ているもののかなり異質な行動です。

似ているのは、どちらも親密で温かい人間関係にはつきもののスキンシップだという点。親子関係に限らず、友達や恋人、夫婦など、大人でも親しい間柄にあれば「くすぐり遊び」をすることこがある。

一方、異なる点は、くすぐられたときに生じる「こそばゆい」感覚。心地よさと、もぞもぞとした不快な感覚の両方を併せ持っています。それが「くすぐり遊び」の「遊び」という要素を成り立たせています。

■自分でくすぐってもあまりくすぐったくない、という不思議
道具を使った実験で次のことが確かめられています。
・自分自身で道具を動かしてもあまりくすぐったくない
・相手が道具を動かす場合にはくすぐったいと感じる
くすぐったさを感じるか否かは、刺激がいつくるかを予測できるかどうかが重要で、他人がくすぐることで初めて「くすぐったい」という感覚が生じるようです。

生まれて間もない赤ん坊には、くすぐったいという感覚が無いようです。生後7~8ヶ月ころから、くすぐったいという感覚が芽生えるので、そのころから自他の区分を開始していると考えられます。

■くすぐったがる動物は、哺乳類以降の動物に限られる
くすぐりは人間だけに見られる行動ではなく、チンパンジーなど霊長類にもよく見られます。その他、イヌ、カバ、ブタなどほとんどの哺乳類は、くすぐると反応しますが、ワニやトカゲのような爬虫類は全く反応しません。

くすぐったがる行動は、進化的には哺乳類以上に限られ、また群れ社会をつくって生活する動物ほど、よりくすぐったがるようです。

■「くすぐったい」はコミュケーションのための感覚
くすぐったいという感覚が生じる場面には、必ず人と人のコミュニケーションが存在します。くすぐり遊びをすると、それを楽しんで必ず笑いが起きます。笑いというのは、一人で笑い話を読んでいるときはあまり笑わないことからも分かるように、社会性の強い行動です。

このように、くすぐったいという感覚は、人と人との関係を深めるたにこそ存在すると言えそうです。

 

参考文献:山口創著『子供の「脳」は皮膚にある』

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