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葉緑体と共生して光合成を行う動物

ウミウシ [1]
画像はこちら [2]からお借りしました。

多細胞生物の動物であるウミウシの中には、藻類を摂取して体内に葉緑体を取り込み、光合成を行って生成した糖をエネルギーとして生きる種があります。

葉緑体は自身が存続するのに必要なタンパク質全てを作り出すことができないので、藻類細胞核で作られるタンパク質によって活動を維持しています。
光合成を行うウミウシは、藻類が持つ葉緑体へのタンパク質の供給に関わる遺伝子を自らの遺伝子に組み込むことで、体内に取り込んだ葉緑体の活動を維持しているのです。
また、この遺伝子はウミウシの生殖細胞にも存在しており、葉緑体を受け入れる機構は適応手段として定着している事がわかります。

動物なのに光合成して生きてゆける不思議な生き物が存在している [3]
<Buzzap!>より

先日、太陽光のみで生きようとして餓死した女性に関して報じましたが、この地上には実際に光合成を行なって生きてゆける動物が存在しています。いったい、どんな生き物なのでしょうか?

この生物の名前はエリシア・クロロティカ(Elysia chlorotica)。アメリカ東海岸の浅い海に広く分布するウミウシの一種。全長2cmから最大で6cm程度、緑色の体色と葉っぱのような薄く平べったい外見が特徴です。

エリシア・クロロティカは生まれつき葉緑体を持っているわけではありません。成長の過程の中でヴァウチェリア・リトレア(Vaucheria litorea)という名前の藻を食べることにより光合成という「技能」を獲得します。

まず幼生のエリシア・クロロティカはヴァウチェリア・リトレアを探し求め、発見するとこの藻に吸い付きます。そして、細胞の中身を吸い出してしまうのです。この時、葉緑体だけは消化せずに消化管の中に保持し、これを使って残りの一生の間ずっと光合成を行い続けて生きてゆきます。観測された中では、9ヶ月から10ヶ月にも渡って光合成で作られた糖のみを養分として生き続けています。

メイン大学のメアリー・ランポ氏はエリシア・クロロティカ研究の第一人者で、これらの事実を明らかにしてきました。ランポ氏によると、現在最大の謎として残されているのは、なぜ動物の体内で葉緑体がずっと働き続けられるのかということです。

葉緑体は独自の遺伝子を持っていますが、その遺伝子によって作られるのは葉緑体の活動を維持するのに必要なタンパク質の10%に過ぎません。他の90%は藻の細胞核で作られるタンパク質によって賄われていました。いったいどのようにしてエリシア・クロロティカの中で葉緑体は一生の間働き続けられるのでしょうか?

最新の実験で、ランポ氏のチームはエリシア・クロロティカの餌となるヴァウチェリア・リトレアの遺伝子配列を調べました。それによって、やはり藻の細胞抜きに葉緑体単体では活動を続けられないことを確認。

一方、エリシア・クロロティカの遺伝子を調べたところ、その中から極めて重要なヴァウチェリア・リトレアの遺伝子を発見したのです。その遺伝子配列は藻の配列と完全に一致しました。

ランポ氏は「どうやったのか分からないから仮説としてしか言えないけれど」としつつ、このウミウシは食べ物の遺伝子を盗んで自分のものにしてしまったのではないかと考えています。

一つの可能性としては、食べられた藻の遺伝子が消化管の中で葉緑体と共に吸収され、エリシア・クロロティカ自身の遺伝子に組み込まれ、それによって必要なタンパク質が葉緑体に供給されるようになったのではないかと考えられます。

別の仮説としては、エリシア・クロロティカの体内から発見されたウィルスが遺伝子を藻の細胞からエリシア・クロロティカの細胞に運ぶのではないかとのこと。ただ、どちらにせよランポ氏のチームはまだこの件に関して確たる証拠は掴んでいません。

また、驚くべきことに、この藻の遺伝子はエリシア・クロロティカの生殖細胞からも発見されました。つまり、体内で葉緑体の活動を維持させる能力を次世代にも伝えていけるということです。

~後略~

藻類由来の葉緑体へのタンパク質供給遺伝子が生殖細胞にも存在しており、葉緑体の取り込みは各個体(世代)で行っている事から推測すると、藻類の供給遺伝子の取り込み(水平伝播)が先に実現して、その遺伝子を獲得した系統が、葉緑体を取り込んでのエネルギー取得により適応してきたと考えられます。

ウミウシの光合成獲得は一例ですが、異種生物間の水平伝播により蓄積された遺伝子変異は、外圧の変動時に適応可能性(多くは不適応→淘汰)として顕在化しているのではないでしょうか。

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