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クマムシの異種生命体由来のDNA比率

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※写真はこちら [2]からお借りしました。

非常に過酷な環境に対する耐久性を持つ動物として挙げられるのがクマムシです。
乾燥や絶対零度の高温、150℃の高温、高放射線量環境などに対して、無代謝状態となる能力(乾眠)によって生き延びることができます。
※クマムシの特性については過去記事「最強生物 クマムシ!? [3]」参照

そのクマムシのDNA構成において、約17.5%が異種生命体に由来するという解析結果が発表されました。

「最強生物」クマムシ、衝撃のDNA構成が判明 [4]
<National Geographic日本版>より(本記事の引用文は全て左記による)

11月23日付の科学誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された論文によると、クマムシには全体の17.5%にも相当する大量の外来DNAが含まれているという。

研究チームはドゥジャルダンヤマクマムシ(Hypsibius dujardini)という種のゲノム配列を解析した。米ノースカロライナ大学チャペルヒル校の生物学者ボブ・ゴールドスタイン氏いわく、「極めて過酷な環境でも生き抜ける動物の秘密を解明するため」だ。

ゲノム解析の結果、全く異なる複数の生物界に由来するDNAが含まれることが判明した。その大部分は細菌(16%)のものだが、菌類(0.7%)や植物(0.5%)、古細菌(0.1%)、ウイルス(0.1%)のDNAもあった。

「動物のゲノムにこれほど多くの外来遺伝子が組み込まれているとは全くの予想外でした」とゴールドスタイン氏は述べている。

クマムシは遺伝子の「水平伝播」によって外来DNAを獲得する。通常は親から子にDNAが受け継がれるが、水平伝播は異なる生物の遺伝物質が直接取り込まれる現象だ。

ゴールドスタイン氏の同僚にあたるトーマス・ブースビー氏は今回の発見について、「実に特異」なことだと述べている。「遺伝子の水平伝播は人間も含め多くの動物で少しは起きているようですが、クマムシのゲノムで判明した割合(約6分の1)には遠く及びません」

「これからは生命を系統樹ではなく、クモの巣のような形で考えることができるかもれません。例えば今回の場合、細菌の枝から動物の枝に遺伝物質が渡っているのです」

多くの動物では、異種生命体由来のDNA(以降外来DNA)があっても、その構成比率は1%未満であることを考えると、非常に高い割合と言えます。

ここまで高い割合で外来DNAを取り込むことが出来たのはなぜでしょうか?

では、クマムシはどのように外来DNAを獲得しているのだろう? それにはクマムシのある生存能力が関係しているかもしれない。乾燥した環境では自身も水分も乾燥して休眠状態になり、水分を得ると活動を再開する能力だ。(参考記事:「史上最強生物!?クマムシ」、「動画:乾燥してから水を得てまた復活するクマムシ」)

細胞が水分を失うと、DNAが断片化する。そして、「細胞が水分を取り戻すと、細部膜は一時的に物質を通しやすい状態になります」とブースビー氏は説明する。

タンパク質や外来DNAの断片といった大きな分子も通過できるようになり、その後、断片化したDNAが修復される。「損傷したゲノムを修復する際、外来DNAを組み込んでいる可能性があります」

※引用文中の「参考記事」へは引用元サイトからアクセス願います。

生命体として自身のDNA群が統合された状態で外来DNAを取り込むよりも、乾眠(体内水分脱水→DNA断片化)からの回復の際にDNA修復と合わせて外来DNAを取り込む方が、再統合はしやすいと思われます。

しかし、外来DNAを取り込むことができたとしても、構成要素として統合できなければ、生存に支障を来すリスクが高いと考えられます。
何らかの対策が講じられているのでしょうか?

ドゥジャルダンヤマクマムシを含む一部のクマムシが無性生殖することも1つの要因だ。今回の研究に使われたドゥジャルダンヤマクマムシは「すべて、20年以上前に英国の池で採取した1匹のメスの『娘』にあたります。クマムシは、基本的に自身のクローンをつくって繁殖するのです」とブースビー氏は話す。(参考記事:「女子会好きのヨコヅナクマムシ」)

無性生殖は外来遺伝子を安定させる。父親の遺伝子を受け継ぐことで失われる遺伝子がなく、同じ遺伝子が2組つくられるためだ。

※引用文中の「参考記事」へは引用元サイトからアクセス願います。

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※写真はこちら [2]からお借りしました。

次世代が親と同一DNAとなる無性生殖(単為生殖)は遺伝的な多様性が低く、大きな環境変化に対して不適応となるリスクが高いと言われています。
その壁を乗り越えるべく獲得したのが、有性生殖(→雌雄分化:安定の保持と変異の創出)です。

しかし、外来DNAを取り込むという極めて大きな変異(危険)に対しては、無性生殖が適応可能性を広げるというのは非常に興味深い視点です。

※クマムシの生殖は (1)有性生殖 (2)単為生殖 (3)雌雄同体 とあるが、(2)は幅広いグループで見られる。
【参考】クマムシトリビア総集編 [6]

※ノースカロライナ大の解析結果についてはクマムシと別に存在していた細菌のDNA混入も指摘されており、比率は再検証が必要だが、外来DNAの存在も一定数確認されており,通常の動物(1%未満)よりも高い比率であると見られる。
【参考】「クマムシに外来遺伝子17%」は真実か [7]

※本記事では親と同一DNAの次世代が生まれるという視点で「無性生殖」と「単為生殖」を同位相で扱っている。

クマムシの外来DNA獲得と過酷な環境での耐久性の関連は未解明ですが、極めて大きな変異要素の取り込みが、並外れた適応能力をもたらした可能性は十分に考えられます。

外来DNA獲得を考慮すると、従来の系統樹的分類とは異なる生物の歩みが見えてくるのかもしれません。

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