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腸内細菌のバランスが崩れると何が起こるのか?

ヒトの腸は食べ物や外界からの病原菌などの異物に常にさらされています。しかし、腸管免疫はこのような宿主にとって排除するべきものと許容するべきものを選択しながら、500~1000種類、約100兆個といわれる腸内細菌ともバランスを保っています。

腸内細菌叢 [1]

「酵母と桿菌が共存」(写真はコチラ [2]から)

腸管免疫と腸内細菌叢との間で、ダイナミックな平衡関係が保たれることで、私たちの健康が成り立っています。「腸内細菌のバランスを保つことが健康保持の秘訣のひとつ」といわれるのは、こうした理由によるものです。

では、安定的に形成されていた腸内細菌のバランスが崩れるようなことがあったら、何がおこるのでしょうか?また、バランスが崩れるとは具体的にどのような現象なのでしょうか?。

■腸内細菌バランスが崩れると、免疫力バランスも崩れ、様々な病気を誘発する

ヒトの腸管、小腸から大腸に重さ1.0~1.5Kg、その種類は500種類以上、その数は100兆個にもおよぶ腸内細菌叢(腸内フローラともよばれます)が共生していると言われています。

腸内細菌叢は、健康な人であれば、有用菌(善玉菌)20%~30%、有害菌(悪玉菌)10%、残りの60%~70%は「日和見菌」といわれる、良い働きも悪い働きもする菌種で構成され、腸管からの栄養吸収、腸の免疫、病原体の感染の予防などに重要な働きをしています。

ところが、遺伝的な要因、食事などを含む生活習慣、ウィルスやカビなど病原体の侵入、抗生物質の多用など種々の医療的処置などによって、腸内細菌のバランスが乱れると、クローン病や潰瘍性大腸炎をはじめとする、炎症性腸疾患などの原因となることが分かっています。

このように、腸内細菌のバランスの崩れると、免疫力のバランスの崩れを誘い、それが免疫力低下を引き起こし、様々な病気を誘発させます。さらに、炎症性腸疾患が慢性化すると、大腸がんの発症のリスクを高めます。

■腸内細菌バランスが崩れから、大腸がんの発症のリスクが高まるまでメカニズム

以前から炎症関連大腸がんの主な原因のひとつとして“腸内細菌のバランスの崩壊”が関与しているとの仮説があったのですが、最近の研究でそのメカニズムが次第に分かってきました。

◇何らかの理由で、腸内細菌叢のバランスが崩れると、大腸粘膜に常在する、異物から腸管を防御する働きをする腸内細菌叢が失われれる

◇防御機構が十分に機能しなくなると、これまで近づけなかった腸管内細菌が、大腸粘膜面に押し寄せ、脆弱になった粘膜内への移行が起こりやすくなる

◇すると腸管免疫系は“異物侵入”“異常事態”と認識し、免疫システムの初動部隊である樹状細胞が、侵入してきた腸内細菌の貧食を開始

◇樹状細胞により、免疫の活性化のシグナルとなるインターロイキン(IL-6と可溶性IL-6受容体)が信号物質が放出され、本格的な免疫現象が働き出す。

◇同時に、樹状細胞により放出された IL-6と可溶性IL-6受容体は、大腸組織の炎症反応の進行を促進し、病原性微生物を駆逐する。ところが、IL-6と可溶性IL-6受容体は過剰な炎症反応を引き起こすことがあり、それが宿主の器官・組織にダメージを与えることもある。

◇ それが炎症性腸疾患やがんなどの原因となる。

まだまだ腸管免疫系のメカニズムに腸内細菌がどのように関与しているか、という点に関しては未解明な部分が多いのですが、上の大腸がんの事例が示すように、少しずつ具体的な実態が明らかにされつつあります。

■腸内細菌バランスの崩れを引き起こす要因

「ストレス」「運動不足」「過度の清潔志向」「抗生物質を使った治療」「加齢」など様々な要因がありますが、特に大きな原因が『食の欧米化』だと考えられます。

日本で食の欧米化が進むのと比例して、大腸がんにかかる人が急増していることが分かっています。大腸がんが増えた原因の一つとして、高タンパクで脂肪分の多い食生活をすることによる、悪玉菌の増加とそれによる善玉菌の減少や腸内環境の悪化が考えられます。

有害菌は肉類などに含まれるタンパク質や脂質を腐敗させて、それをエサにして増殖します。腐敗したタンパク質などは、アンモニアやインドール、スカトール等の有害物質を発生させ、同時に発がん性物質を発生させます。

本来、食物繊維をしっかりと摂取していれば、有益菌の力で有害菌の増殖を抑え、有害物質などを体外へ排出することが出来るのですが、食の欧米化が進んだことで、動物性タンパク質の摂取量は増加する一方で、食物繊維の摂取量は減少してしまいました。

有害菌の増加と有益菌の減少、腸内環境の悪化によって有害物質や発がん性物質の発生が増加したことで、大腸がん発症リスクが増大します。

腸と体の健康を考えるなら、まずは食生活と生活習慣から見なおすことが必要なようです。

 

(参考)
健康情報誌「ヘルシスト」229号
ホリスティック健康学・ホリスティック栄養学とは(リンク [3]
免疫プラザ(リンク [4]

[5] [6] [7]