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健康・医療分野における微生物の可能性を追求する 09 ~自然由来の飲む点滴 甘酒~


dsc08803 [1]画像はこちら [2]からお借りしました
前回記事では、日本の発酵食品の源泉とも言える麹(こうじ)について、その発酵メカニズムや効用について紹介しました。
今回は、麹からつくられ、日本で古くから栄養豊かな発酵食品として嗜まれてきた甘酒のもつポテンシャルを探ります。

甘酒には、酒粕に砂糖などで甘みをつける酒粕甘酒と、麹と米を発酵させて麹の消化酵素がでんぷんをブドウ糖に分解することで甘みとなる麹甘酒の2種類があります。
本記事では、発酵作用により高い栄養価をもつとされる後者の麹甘酒を取り上げ、栄養効果と美容効果を中心に見ていきます。

ちなみに私も仲間と一緒につくってみましたが、一切砂糖を使わなくても、まろやかでしつこさのない甘さの麹甘酒ができ、自然の恵みを感じました。
自家製造した麹甘酒の効能報告は改めて行いたいと思います。

◆飲む点滴~豊富で吸収しやすい栄養分
甘酒は冬場に飲んで温まるというイメージもありますが、栄養素が豊富で吸収しやすく、夏バテ防止にも適しています。俳句では夏の季語になっており、江戸時代には夏の栄養ドリンクとして親しまれていたようです。

甘酒の主な成分は、糖質、タンパク質(アミノ酸)、脂質、繊維、各種ミネラルです。

【甘酒100gあたりの成分(食品分析表による一般的な成分の内訳)】
seibunhyo1 [3]
健康に良い甘酒の効能とレシピ-成分 [4]>を参考にしました。

◇糖質
糖質のうち8割以上がブドウ糖で、すぐに吸収されて脳が活動するためのエネルギーになります。
また、オリゴ糖は、人の消化酵素では消化されにくいのですが、腸内の善玉菌(ビフィズス菌)が分解して栄養分とします。一方、腸内の悪玉菌(ウェルシュ菌)などには分解されにくくこれらの栄養になりません。こうした特性から腸内の善玉菌を優勢にし、腸内細菌のバランスを整えます

◇ビタミン
甘酒には、たくさんの有用な天然型吸収ビタミン群が含まれています。様々な成分と一緒に摂取することで90%以上の高い吸収率となります。以下に各ビタミンの働きを紹介しておきます。

・ビタミンB1:糖質の代謝促進
・ビタミンB2:脂質の代謝促進、細胞の再生や成長を促進
・ビタミンB6:タンパク質の代謝促進
・パントテン酸(B5):糖質・脂質の代謝促進、副腎皮質ホルモンの合成
・イノシトール:肝臓の脂質代謝を促進
・ビオチン:糖質・脂質・タンパク質の代謝促進、皮膚や毛髪の健康保持、
アレルギー症状の原因となるヒスタミンの増加抑制

その他にも、必須アミノ酸の9種類すべて、汗とともに身体から流出するミネラルも含んでいます。

このように甘酒には、麹菌由来の酵素が糖分やビタミン群、アミノ酸を生成・分解することによって豊かな栄養分が含まれ、非常に吸収しやすくなっており、自然由来の点滴と言われているのです。(実際に体力が低下したときに行う点滴の成分とほぼ同じです)

◆キレート作用による美肌効果
味噌、酒、醤油づくりなどの麹を扱う職人さんは、白くきれいな手であることが多いのですが、これは麹菌が糖を発酵させる過程で生まれるコウジ酸の効果です。

肌のシミは、皮膚中のメラノサイトという細胞がメラニン色素を多く生成することによって生じ、そのメラニンは、アミノ酸の一種であるチロシンに、チロシナーゼという酵素が働きかけることで、黒色の色素へと化学変化します。
チロシナーゼは、銅イオンを取り込むことで活発になります。それに対し、コウジ酸は、キレート作用によりチロシナーゼから銅イオンを奪い取ることで、メラニンの産生を抑制し、結果的に美白作用をもたらします。

※酵素のキレート作用とは、重金属と強く結合して安定した化合物を生成することです。

メラニンpic_kojic3 [5]チロシナーゼ
画像はこちら [6]こちら [7]からお借りしました

◆発酵食品が持つ可能性
現在は、食の安全不安から健康志向が一段と強まり、様々な健康食品やサプリメントが大きな市場となっています。
しかし、そのようなモノに頼らなくても、甘酒のように先人たちが見いだした生活の知恵の中に、既に突破口があります。

特に発酵食品の生成物がもたらすキレート作用は、美肌効果にとどまらず、体内や土壌に蓄積された放射性の重金属の無害化や排出のメカニズムとしても注目されています。
微生物の持つ能力には、まだまだ多くの可能性が秘められているに違いありません。

次回は、乳酸菌系の発酵食品に焦点を当ててみます。

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