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シリーズ「がんの正体に迫る」その6 ガン細胞とは何なのか?

みなさん、こんにちは
これまで前2回にわたり、ガンの原因諸説を扱ってきました。
今回は、立花隆さんの著書『がん 生と死の謎に挑む』をもとに、「ガン細胞って何 を明らかにしたいと思います。
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●ガンは遺伝子の病気
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上図を見てください。これはある乳がん患者のDNAを解読して、それをスタンダードのヒトゲノムと比較したときにどこにどのような変異が見つかったかを一枚の図で示したものです。外側の円周上にバーコード状に並んでいるのが、その患者のDNAの配列です。その配列と配列を結んでいる細い線がたくさんありますね。それはDNAの配列上に生まれた変異の生じた場所と場所の結びつきを示すものです。
これを見てわかるように、ガンはその人のDNAの上にたくさんの変異が蓄積し、しかも、その変異と変異の間にたくさんの結びつきが生まれることによって発症していく病気なのです。

●無限増殖と耐薬剤性獲得が特徴
ガン細胞の最大の特徴として、無限増殖するという性質があります。
通常の細胞は必ず死ぬようプログラムされている(これをアポトーシスといいます)のに対し、ガン細胞にはそのアポトーシスのプログラムが働かないのです。
また、もうひとつの特徴として、耐薬剤性を獲得していくという性質があります。
抗ガン剤の効果が、投与を続けるうちに薄れていくという現象は、ここからきています。これは、遺伝子というものが本質的に変異を起こす能力を持っているため、きわめて解決困難な課題です。

●あまりにも違う一人一人のがん
ガンはその人のDNAの上にたくさんの変異が蓄積し、しかも、その変異と変異の間にたくさんの結びつきが生まれることにより発症します。
驚くべきは、その変異の多さと結びつきの複雑さです。がんは”超複雑系”であり、安易な一般化が許されない世界であると、ガン研究者たちは言います。
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上図を見てください。これはある6人の乳ガン患者について、そのDNAにどのような遺伝子異常が見られたかを、先ほどの図と同じ手法で解析して、一目でわかるようにしたものです。一見してわかるでしょうが、みんなあまりにもその姿が違います。これを見れば、一人一人のがんがみんな違うんだということがよくわかるでしょう。
となると、人によって千差万別のガン細胞の遺伝子を個別に見ていくことで、ガンの真の姿に迫ろうとしても、その姿を見誤りそうです。

●ガン細胞の正体は「行き過ぎた変異体」
すべてのガン細胞に共通する現象は何か。それは行き過ぎた変異だといえます。
そもそも変異という現象は、細胞分裂の過程で(ガン細胞に限らず)日常的に起きています。
人間の遺伝システムの中には、DNAのコピーミスが起きたときにそれを修正する仕組みがありますが、その能力限界を超えるミスが発生すると、そのミス(損傷とそれにより生まれる新たな結びつき)が蓄積されていくのです。
そのようにして変異が行き過ぎた場合、ほとんどはマクロファージによって排除されてしまい、細胞として生き延びることは出来ません。
しかし、中でもマクロファージの監視の目をすり抜けて(異常体と認識されずに)生き延びるものが発生します。これが、のちにガン細胞と呼ばれるものの正体と言えます。

●ガンは多く損傷を受けるほど発症しやすくなる
上記のことから、ガンになりやすいか否かは、どれだけDNAが損傷を受けるかでその確率が決まってくると言えます。つまり、細胞がガン化するか否か(その確率)は、一つの物質に限らず、要因はさまざまあるとして、DNA損傷を引き起こす原因物質の「量」に規定されているということです。

   

いかがでしたか?
ガン細胞って何なのか、少しその姿がイメージ出来ましたか?
この研究成果からわかることは、少なくともガン細胞とは自らの健康だった細胞のDNAが傷つくことで発生したものであり、その原因はその人の置かれた生活環境や生活習慣に大きく影響されているということです。
しかし、人によってガンの姿は千差万別であることから、遺伝子レベルまで解析した現在も、普遍的な治療法発見への道のりは遥か遠いのが現状です。
そもそも、人によってまったく姿の異なるガン細胞を、遺伝子レベルまで要素還元して治療しようとする発想そのものに、限界があるように思えてなりませんが・・・みなさんは、どう思われますか?
それでは、がんの正体に迫るシリーズ、次回もお楽しみに

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