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ウイルスやがんから細胞を守る植物成分「インターフェロン・インデューサー」(前編)

「生き物ってすごい!」第8回~植物の防衛策~ [1]に続いて、今日は、漢方生薬からインターフェロン・インデューサー(インターフェロン誘発物質)を発見、(薬ならぬ)食品化に成功された小島保彦医学博士(NPO法人インターフェロン・ハーブ研究所長)を紹介します。
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左:小島保彦博士 こちら [2]より。 右:漢方生薬の一つ、紫ウコン こちら [3]よりお借りしました。
インターフェロンは、C型肝炎やがんの治療薬として知られていますが、もともとはウイルスに感染したときなどに体の中で作られる物質です。
1954年、東大伝染病研究所(現医科学研究所)の長野泰一博士と小島保彦博士によって発見され、「ウイルス抑制因子」と呼ばれたが、3年後、イギリスのアイザックス博士らによって、“ウイルスに干渉する因子”という意味の「インターフェロン」と命名され、世に知られるようになりました。
以後、インターフェロンはウイルスを抑えるだけではなく、がんの増殖を抑えたり、免疫を増強するなどのことがわかり、一時期“夢の新薬”とまでいわれました。
しかし、人工的につくったインターフェロンを大量に注射で投与する「インターフェロン療法」は、重い副作用がともなうなど問題もあります。
小島博士はこうした療法に疑問を感じ、人がもともと持っている力を引き出して、自分の力で病気と戦わせたほうが良いとの発想から、体内の細胞に働きかけてインターフェロンをたくさんつくり出すことのできるインターフェロン・インデューサーを探す研究に心血を注ぎ、漢方生薬に辿りつかれました。
以下、月刊「自然食ニュース」の小島博士のインタビュー記事 [4]から抜粋(一部加筆等あり)、2回に分けて紹介します。
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免疫とインターフェロン──“敵と味方が同居”する
──インターフェロンと抗体とでは、ウイルス抑制作用はどう異なるのでしょうか。
免疫は、自己と自己でないもの(非自己)の識別に基づいて、生体が非自己を排除する生体防御システムのことで、哺乳類の免疫には、
・マクロファージ(NK細胞も含む)を中心として非特異的に幅広く、しかも早期に外敵に対抗する「自然免疫(広義の免疫)」と、
・リンパ球を中心にした、ハシカのワクチンはハシカにしか効かないように、抗原(感染源)に対して特異的な「獲得免疫(狭義の免疫)」
の二つが備わっており、互いに協働して生体を外敵などから守っています。
免疫がウイルスやがんなどの病原体を担った細胞を直接攻撃するのに対して、インターフェロンはウイルスには直接作用することなく、細胞に作用して細胞を丈夫にしてウイルスの増殖を抑えるのです。ですから、ウイルスとインターフェロンは共存でき、この「敵(ウイルス)・味方(インターフェロン)共存」の現象は免疫には見られないものです。
下図はこちら [5]よりお借りしました。
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インターフェロンの功罪
──インターフェロンは体の中でどのようにして作られるのですか。
インターフェロンは常時作られているわけではなく、ウイルス感染があったり、刺激物質(インターフェロン・インデューサー)の作用を受けた時に、細胞内のインターフェロン遺伝子が発現し、糖蛋白性のインターフェロンを合成し細胞外に分泌します。
分泌されたインターフェロンは細胞表面の受容体に吸着して細胞に作用し、作用を受けた細胞は抗ウイルス性や抗腫瘍性を得て、炎症型であろうとがん型であろうと広範囲にウイルスやがんの増殖を抑制します。
しかし、インターフェロンは抗生物質やワクチン抗体と違って、種依存性が強く、ヒトにはヒトの細胞から作られたインターフェロンを用いなければ効果がありません。大量生産が可能になるまでには、今日のバイオテクノロジーや遺伝子技術を待たなければなりませんでした。
また抗生物質やワクチンは2~3回の注射で済むのに対し、インターフェロンの製品化には百~数百倍も濃縮精製しなければならず、治療も毎日から1日おきに数ヶ月注射を続ける必要があり、治療費は年間百万円単位にもなります。
副作用も伴い、風邪症状、無気力、脱毛から、ウツや自己免疫疾患などの重い副作用が現れることもあります。

“自然との調和と共生”の漢方の道へ
多くの漢方生薬からインターフェロン・インデューサーを発見

私は「いかにして体の中に、自前の安全なインターフェロンを作るか」という研究に専念しました。医薬品ではなく、食べ物からとるインターフェロン・インデューサーなら、細胞を刺激して自前のインターフェロンを作るのを助けますから、自分の体でできたインターフェロンは副作用もなく、過剰になることもないと考えました。
免疫には見られない、ウイルス材料中の“敵(ウイルス)・味方(インターフェロン)共存”の現象は私の興味を引きました。この現象は東洋医学、東洋思想に伝わる「身土不二」、「自然との調和と共生」に通じます。
1967(昭和42)年、北里研究所に移ってからは、自然界の中に、体内のインターフェロンを活発に働かせてくれるものがあることを知り、研究のターゲットを漢方生薬に絞りました。漢方生薬70余種を調べたところ、約30種ほどがインターフェロンを誘発しました。これは驚くべき数でした。通常1000種類調べても数えるほどしか見つからないのに、漢方生薬からは約40%から見つかったことは驚くべき確率です。
この発見から、私は漢方の神髄を探ってみました。漢方生薬ではなぜ、注射でなく内服なのか?百度の水で煎じるのか?乾燥させるのか?何種類も混ぜるか?──等の基礎研究を重ね、これらは病いの長期戦に対し、口を通じてもろもろの細胞を強化していることがわかりました。

インターフェロン・インデューサーを口からとることの重要性
──腸管(粘膜)免疫とマクロファージ──

腸管は食物を通して、常に大量の微生物や寄生虫ともふれ合い、時にはこれを排除し、時には共生関係が成立しています。
系統発生的に、動物が多細胞化した時に最初に出現したのがです。同じことが個体発生でも見られ、肺、肝臓、脾臓、胸腺や尿道も腸に由来しており、腸は母なる臓器とも言われています。
このように、腸管は血中とは異なる独自の免疫系、神経系、内分泌系が、ネットワークとなって展開しています。口の中の微妙な出来事が脳を刺激し、これらと関連をもつ食事からのインターフェロン・インデューサー腸内細菌の存在が、免疫とは異なる非特異的防御作用として重要視されてきています。
調和のとれたこれらのダイナミクなネットワークにより、私達のエネルギー源である食物を無毒化して消化吸収し、時には特定の抗原に対して免疫学的に不応答になって腸管を通過させる免疫寛容の現象も見せるのです。
消化器系は口に始まり肛門に終わる約9m(食道25cm、胃25cm、小腸6~7m、大腸1・5m)の消化管と、肝臓、胆嚢、脾臓などの付属臓器から構成されています。(下図参照。こちら [6]からお借りしました。)
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腸管の粘膜は皮膚や呼吸器と共に外界にさらされている点で特異な臓器です。皮膚は外界のバリア(防御壁)になっていますが、その面積は1・6平方メートルです。それに対し、腸管は小腸と絨毛の表面積だけでも200~400平方メートルもあります。
腸管粘膜は、リンパ小節が集まったパイエル板という免疫細胞のたまり場があり、またM細胞という特殊な細胞もいて、細菌などの大きな分子でも取り込んで細胞内で分解することもなくマクロファージに引き渡します。
漢方生薬に見出された高分子のインターフェロン・インデューサーも消化されずにこのルートを通り、マクロファージ内にインターフェロン生産の下地が築かれます。

インターフェロン・インデューサーと連携プレイ
漢方生薬(食物)由来のインデューサーはマクロファージが好んで食べ、インターフェロンを作り出したり、リンパ球を活性化したりします。
%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%82%B8.jpgマクロファージは、生物に備わった最も基本的な防御システムで、アメーバのような単細胞生物から高等な多細胞生物まで備わっている原始的な免疫細胞です。
貪食(大食)細胞などとも呼ばれ、相手を選ばず(非特異的)、体の中に入ってきた異物や壊れた細胞を掃除する働きをします。それと共にいろいろな化学物質を放出して免疫の応答を活発にしてくれます。
マクロファージは普段は掃除や生体調整に働いていますが、活性のある外敵が侵入して来たり、体内にあるウイルスやがん細胞が活性化し始めたりすると、途端にマクロファージが活性化して「活性マクロファージ」となり、殺作用を発揮し、私たちの体を守ってくれます。
(右写真は、マクロファージ(紫)が癌細胞を食べているところ。こちら [7]よりお借りしました。)
インデューサーはこのマクロファージを活性化してくれるのです。しかも、マクロファージが活性化すると炎症反応が強くなるといわれますが、漢方生薬由来のインデューサーは免疫力を高めながら、炎症を起こさせない珍しい作用を持っています。炎症を抑える薬は同時に免疫力も落としてしまうので、これは漢方独特の作用です。
インデューサーでマクロファージの活性を高めると、
・異物や老廃物などの食作用、清掃作用が高まる
・ウイルスや寄生虫などが細胞に感染するのを防ぐ働きが高まる
・がん細胞を傷害する作用が高まる
・免疫のシステムが正常な働きを始める
・分泌活性が高まり、生体調節の機能が促進される
・その他、脂質の蓄積や排除、骨の形成や吸収、鉄の代謝、炎症反応や発熱
など、生体の恒常性を維持するための反応が促進されます。
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如何でしたか?
外から人工物を大量投与して敵を殺す西洋医学的発想に対して、敵との共存さえいとわず、体が本来もっている生命力や自然治癒力を引き出して防衛や予防に重点をおく東洋医学的発想。医学も大きな発想の転換を迎えているように思います。
では次回、後編は、長期戦の現代病に対してインターフェロン・インデューサーがどう対処しているかを紹介します。お楽しみに

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