- 生物史から、自然の摂理を読み解く - http://www.seibutsushi.net/blog -

「生き物ってすごい!」第8回~植物の防衛策~

「生き物ってすごい!」第7回~除虫菊 [1]に続いて、今日は植物全般に枠を広げて、彼らが外敵から身を守る防衛策を見てみましょう。
%E5%8B%95%E7%89%A9%E3%81%9F%E3%81%A1%E3%81%AE%E8%87%AA%E7%84%B6%E5%81%A5%E5%BA%B7%E6%B3%95.jpgシンディ・エンジェル著『動物たちの自然健康法 野生の知恵に学ぶ』より。
植物は日光、大気、土壌中の水といった基本的な素材から炭水化物、タンパク質、脂質、ホルモン、ビタミン、酵素など、成長や傷の修復、繁殖などに必要なあらゆるものをつくりだしています。
植物は、これら通常の一次代謝のための化学物質に加えて、明らかな代謝目的のないいわゆる二次化合物も合成しています。この二次化合物の注目すべき点は毒性薬理性を備えていることで、いうなれば自然界の巨大な薬倉を形成しています。
これまでに見つかった二次化合物はおよそ10万種類にのぼります。
応援、よろしくー


これらの化合物は、植物が身を守るための防衛物質だと考えられている。
動物と同様に植物も、細菌、ウイルス、真菌類から身を守らなければならない。多くの二次化合物はこれらの病原体に対して強力な作用を持っている。植物は病気になると、人間の免疫反応にあたる特別な防御タンパク質もつくることができる。
病気との戦いに加えて、植物は様々な捕食者(草食性の昆虫や哺乳類や鳥類)から身を守らなくてはならない。何しろ捕食者にとって植物は文字通り動かぬ標的なのだ。このため剛毛や突起、とげやいがなどの物理的、構造的な防御力だけでなく、摂食を防ぐ二次化合物も進化させてきた。
摂食を防ぐ化学物質
%E6%9F%BF.jpg摂食を防ぐ化学物質のうち最も古くからあるものは濃縮されたタンニンで、植物はこれによって恐竜から身を守っていたと考えられている。
それは非常に渋く、舌を萎縮させ、口内の粘膜と喉を乾燥させる。いったん食べると渋みがいつまでも残り腸内の重要な微生物や酵素の環境を混乱させ消化をはばむ。
このため、タンニンの多い植物はふつう草食動物が避ける。
(写真はタンニンが多く含まれる柿。こちら [2]からお借りしました。)
多くの有毒な二次化合物は苦い味がし、大部分の動物は少ししか食べない。
例えば、サポニンはカタツムリ、昆虫、菌類、細菌の攻撃から植物を守る。サポニンは細胞膜を通過する分子の動きに影響を与え、赤血球を破壊することさえある。
顕花植物のおよそ20%が作るアルカロイドもやはり苦い。アルカロイドは非常に反応性の高い化合物で、ごく少量でも動物に強い生理的反応を引き起こす。植物は体の表面部分、つまり樹皮や葉や果実に蓄積している。
アルカロイドのなかには人間や動物の中枢の神経伝達物質にそっくりな構造を持ったものがある。ドーパミン、セロトニン、アセチルコリンなどがそれで、多用途防御物質といわれ幅広い活性を持っている。その多くは昆虫と哺乳類に有毒であり、バクテリアの成長と他の植物の発芽を抑制する。
(左はサポニンを多く含む高麗人参。右はアルカロイドを多く含む春野菜。こちら [3]こちら [4]からお借りしました。)
%E3%82%B5%E3%83%9D%E3%83%8B%E3%83%B3%E9%AB%98%E9%BA%97%E4%BA%BA%E5%8F%82.jpg  %E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89%E9%87%8E%E8%8F%9C.jpg
植物はまた攻撃を受けたときにだけ二次化合物を放出して身を守ることもできる。アカシアの茂みはシカにかじられると、高濃度の防御毒を含んだ葉を再生させる。もう一度食べに戻ってくる愚かなシカは神経障害や繁殖障害を起こす。
微生物の攻撃によっても防御物質が誘発されることがある。ブドウは菌類の攻撃を受けると、レスヴェラトロールという抗菌物質を放出する。これは赤ブドウの果皮に多く含まれ、その生物活性効果はブドウがぶどう酒に変わった後も残る。
(左はアカシアの葉を食べるゲレヌク(ウシ科)。右はブドウ。こちら [5]こちら [6]からお借りしました。)
%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%81%AE%E8%91%89%E3%82%92%E9%A3%9F%E3%81%B9%E3%82%8B.jpg  %E3%83%96%E3%83%89%E3%82%A6.jpg
他の植物の成長を妨げる化学物質
%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%9F.jpg植物は感染や捕食から身を守ると同時に、光や水や栄養をめぐる他の植物との競争を減らさねばならない。ある植物は二次化合物を土中に分泌して他の植物の成長を妨げる。
クログルミの根と葉はジュグロンという物質を放出するが、これは近くに生えている他の植物を攻撃する。近くに植えたリンゴの木は枯れてしまう。
(写真はクログルミの樹形。こちら [7]からお借りしました。)
警戒信号として働く化学物質
植物は食べられると揮発性の化学物質(メチル-ジャスモネートなど)を発散することが多いが、これが空中に広がると他の植物が検出する。つまり、化学的警戒信号として働くのである。
キリンがアカシアの木を食べると、近隣のアカシアの木が感知し、自分の葉に渋いタンニンをたくさん送り込んで防御対策をとる。キリンは食べ始めてしばらくするとアカシアの葉がまずくなることを経験から知っているので、遠くの植物を食べるために移動し続けるのである。
天敵に助けをもとめる化学物質
%E3%83%8F%E3%83%80%E3%83%8B.jpg揮発性の二次化合物は警告ではなく、助けをもとめる叫びとなることもある。ハダニがキュウリの葉肉を食い進むと、ハダニの天敵を引き付ける揮発性の化合物を放出する。すると、捕食者はまっしぐらにやってきてハダニを食べるのである。
(写真はキュウリの葉を食べるハダニ。こちら [8]からお借りしました。)
%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%9A%E3%83%B3%EF%BC%88%E3%83%AA%E3%83%A2%E3%83%8D%E3%83%B3%EF%BC%89.jpgまた揮発性物質の多くはテルペン類(炭素原子5個からなるイソプレン単位から生合成される)で、昆虫を寄せ付けず、近くの他の植物の発芽を防ぐ働きがある。
(写真はテルペンの一種リモネンを多く含むオレンジ。こちら [9]からお借りしました。)
熟してからは動物を引き付けるが、熟すまでは有害物質
ある化合物は動物を引き付けるためにつくられる。顕花植物の芳香は遠くから花粉媒介者を呼び寄せるために進化したものだ。熟れた果実の匂いも果実食の動物を引き付け、遠く離れた場所で未消化の種子を排出して根付け肥といっしょに落としてもらう。ゾウは熟れた果実の匂いをなんと20キロ先から嗅ぎつける。
未熟の果実は味が悪く、ときには有毒な二次化合物(普通はタンニンアルカロイド)を含むが、熟すあいだにこれらは次第に分解される。
他方、タンニンは天然の保存料として働き(このため皮革の保存に使われる)、菌類や細菌によって早い時期に果実が腐敗するのを防ぐ。
フラボノイドも植物界に広く見られる物質で、香りのいい植物、とくに果物や野菜に含まれている。花粉媒介者を呼び寄せ、害虫を防ぎ、紫外線から植物体を守っていると考えられる。
(写真はフラボノイドの種類。こちら [10]からお借りしました。)
%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%9C%E3%83%8E%E3%82%A4%E3%83%89.jpg
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
植物たちの防衛策をいくつか紹介しましたが、如何でしたか?よくできていますね。
我々動物は、生きていくのに必要な化学物質を自分ではつくれないので、直接間接に植物からもらっています。
今日紹介した植物の「毒」も、動物は摂取量を調整することで「薬」として利用しています。
地球の生物を支えている植物に感謝ですね。

[11] [12] [13]