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睡眠=休息ってホント?もっと睡眠について知りたくなる(その1)

本日はみなさんが毎日行う『睡眠』について追求していきます。
 
寝るのが大好き という人、多いですよね。寝不足といわれる現代人にとって、睡眠は癒しそのものです。
私達人類は、人生の約1/3の時間を寝る時間に当てている…冷静に考えてみると、なんとも凄いことです。もっと寝ないでも大丈夫な体質だったら、もっと仕事がはかどり、余暇も豊かになるのではないか?と誰もが一度は思ったことがあるのではないでしょうか。
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睡眠というのは、絶対的に欲しているものの、心のどこかでもっと短くならないか…となんとも悩ましいジレンマを私たちは抱えているようです 😡
その意識の奥底に、「睡眠=休息」という考えがあるのではないでしょうか。休息は大事だけれど、休んでばかりではもったいないという考え。そんな風に考えている人に、是非読んでもらいたい内容です
 
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1.寝ないとどうなる?

 
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「睡眠の機能を知るためには、睡眠を奪ってしまえばいい」と考えたのが睡眠研究者です。
結論からいえば、完全に睡眠をとらない状態が続くと、最終的には動物は疲労状態からくる感染症やそれに伴う多臓器不全で死亡します。
ラットを使った断眠実験によると、断眠2週間目でラットの皮膚から毛が抜け、潰瘍が形成されました。また、運動性が低下し、体温調節のメカニズムに変調がみられ、体温が低下しました。さらに、食べる量は増えているにも関わらず、体重減少するという現象がみられました。
 
このことから、睡眠をとらないと体温や体重の恒温性の維持機構に異常をきたすことが分かります。
これらの機能は、主に脳の視床下部が担っている機能であることから、『断眠は視床下部の恒温性維持機構に悪影響を与える』ことが分かります。
 
さらに強制的に断眠を続け、3~4週間が経過すると、ラットは感染症のために次々と死んでいきます(なかなか酷い実験ですね)。体内に住み着いている常在細菌による感染症で敗血症(血液の中で病原菌が増殖を起こす危険な状態)を起こして死ぬのです。本来は病原性を持たない体内の微生物による感染症は、免疫機能の低下を意味していることがわかります。
 
つまり、睡眠時に生物は『体内の恒温性や免疫機能を調整している』ことが分かります。
   

2.進化史からみた睡眠

1)睡眠機能のない生物(無脊椎動物)
次に、睡眠の起源についてみていきましょう。
 
睡眠は全ての生物に備わっていると思いがちですが、そうではありません!
無脊椎動物は脳波の変化がなく、「睡眠」と定義できる状態はありません。活動を低下させることによって、エネルギー消費を減らしている状態なので、睡眠というよりは「休息」です。
大多数の生物は,地表の限られた圏内に住んでおり、地球の自転によって昼と夜のリズムが繰り返される環境の生息し、この日周変化に同調し,さらにこの変化を予測しながら,活動と休息のリズムを繰り返して生きてきました。この概日リズムは進化上最も古い細胞に起源を持ち、昼間の有害な紫外線下でのDNA複製を回避するために獲得した機能であると考えられています(だから複製は夜間に行われました)。
 
つまり、始原生物の休息期間とは、単にダラっとした時間ではなく、『生存戦略上の行動』と捉えた方が良さそうです。
    
2)変温動物の睡眠
生物が眠るようになったのは、脊椎動物段階と言われています。しかし、変温動物(魚類・両生類・爬虫類)と恒温動物(哺乳類・鳥類)では睡眠形態が異なるのは注目点です。
 
変温動物では、骨格筋の緊張を解いて、身体を麻痺状態に置き、不動化させる睡眠方法をとります。(肉体を休止する)このような睡眠法をとることで、休息中に身体が勝手に動いて危険を招かないようにしているのです。また、変温動物は活動しないと体温が自然に下がるため、肉体を休止する睡眠方法はエネルギー消費を抑えるのに適した睡眠と言えます。このような変温動物の睡眠は原始睡眠と呼ばれ、概日リズム(24時間サイクル)の性質が強く、変温動物は一定の時間に必ず行動停止します。
つまり、睡眠の始まりは,全生物に普遍的に共有される『休息と活動の概日リズム(サーカディアン・リズム)を下敷きとしながら、身体を休めることを主目的』としています。
  
3)恒温動物の睡眠
これに対し、恒温動物は変温動物の原始睡眠の発展形である「レム睡眠」と新しい睡眠である「ノンレム睡眠」の2つの睡眠を繰り返します。
一般的な学説では、『恒温性に移行したことで、身体の機能調整機能を高めるため、情報処理中枢である大脳が発達し、それに伴い大脳を休ませる必要が生じ、意識水準を下げる「ノンレム睡眠」を獲得した』と言われています。
 
しかし、本当に脳を休めるためだけなのでしょう 生物の適応戦略上のもっと積極的な意味はないのでしょうか
 
成長ホルモンは体を成長させるだけではなく、体の組織で傷んでいるところを治すなどの新陳代謝に寄与していますが、この成長ホルモンはノンレム睡眠時に大量に分泌されます。また、体がウィルスや細菌に感染すると熱が出て眠くなりますが、ノンレム睡眠の時間を長くして、その間に免疫機能を活性化させています。
つまり、『新陳代謝や免疫機能といった体内環境の維持に、ノンレム睡眠が深く関与』しています。
 
生物進化を振り返れば、恒温動物の代表格である哺乳類は、恐竜という巨大爬虫類に追われた極度の弱者であり、凄まじい外敵圧力下で子孫を残すために、胎内で子供を育てることを選択しました。
外的環境に委ねるだけの変温動物と違い、自ら体内環境を作り出す戦略をとった恒温動物にとって、体内環境を調整することはとりわけ重要です。熟睡という、ある意味外敵に対して無防備になるリスクを負ってさえも、ノンレム睡眠を必要としたのはそのためだと考えられます。
 
ちなみに、このようなレム睡眠とノンレム睡眠に分化した恒温動物の睡眠を真睡眠と言い、変温動物の原始睡眠と違って概日リズムの性質は弱く、必要な時に眠ることができます。
変温の場合は、体温低下=睡眠となる為、外界温度が低下する夜間に眠る必要がありますが、恒温の場合、外界温度環境=昼夜状況に左右されないので、必要な時に眠れることができます。哺乳類が夜行性適応できた理由もそこにあります。 
 

3.中間まとめ

 
睡眠の原型は概日リズムにあり、活動と休息は生物の生存戦略である
無脊椎動物の段階は、概日リズムに基づいた休息が中心
脊椎動物の段階になると、睡眠機能を獲得
変温動物は、体の休息と省エネのために原始睡眠を獲得
恒温動物は、原始睡眠を発展させたレム睡眠に加えて、ノンレム睡眠を獲得。
逆境化におかれた哺乳類は、生存戦略⇒胎内保育⇒恒温・恒常性維持
    のために睡眠を進化させた。
 
  
睡眠=休息と漠然と思っていましたが、進化史を振り返ると睡眠は生物の生存戦略であることが分かりました 😀
次回は、ノンレム睡眠≠休息という考えをさらに覆していきます。ノンレム睡眠は恒温性維持だけでなく、私達人類に不可欠な記憶力の強化に関与しているのです(次回の記事を読むと、徹夜仕事をする人はいなくなるかも?)。
 
  
もっと睡眠について知りたくなる シリーズ、次回もお楽しみに
 

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