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太陽系を探検しよう-26.地球を揺るがす長周期地震の不思議②~超高層建物が安全というのは神話に過ぎない~

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(画像はこちら [1]からお借りしました。)
前回は、長周期地震動は、その都市部で大きなエネルギーを蓄え、超高層建物に悪影響を及ぼすことを説明しました。
そして、遠く離れた地域での地震ですら、被害が発生しています。
では、最先端技術の詰まった建物であり、これまでは安全であると考えられていた超高層建物ですが、本当に大丈夫でしょうか。それらの影響も考慮して建設されているのでしょうか。
今回は、超高層建物のメカニズムを解明していきます。
さらに、超高層建物だけでなく、昨今の危険性が叫ばれる免震構造や石油タンクなどの構造についても解明し、その実態に迫りたいと思います。


◆長周期地震動に対する以前の常識
一般的にエネルギーは、(地震に限らず)短周期ほど大きく、長周期は小さいと考えられています。
地震が起きると様々な周期を持つ揺れが発生します。
1秒以下の短い周期を持つ揺れは持続する事無く、比較的早く減衰していきます。これに対して、長い周期の揺れ(長周期地震動)は減衰せずに遠方まで伝わる特性を持っています。
そこで、長周期の揺れは遠方まで伝わるものの、そのエネルギー自体が小さいため、建物を大きく揺らすような問題はなく、どんな建物に対しても「短周期だけが問題」であると想定されていました。
◆一般的な建物設計の考え方
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地震時に被害を及ぼすのは、建物と地盤の持つ固有周期が一致することによる「共振」であることを、前回、説明しました。例えば、建物と地盤が同じリズム(周期)で揺れると、建物の揺れは非常に大きくなるということです。
建物の固有周期は、高さに比例して長くなるという特徴があります。
高層建物がない時代(10階程度まで)には、建物が低く固有周期は短い建物(0.5秒~1秒程度)が大半でした。
よって、一般的な耐震設計は短周期に対して「必ず共振する」前提で設計がなされています。
◆超高層建物の設計の考え方
地盤と建物の固有周期が異なり、共振させなければ、建物は被害を受けないというのが超高層建物の基本的な考え方です。
建物の固有周期は、高さに比例して長くなりますから、超高層建物の固有周期は長くなります。先に説明した通り、長周期の影響は小さいと考えていましたから、地盤と建物が共振することは想定しなくてもいい、ということです。
(建物特性により、短周期でも共振する場合は、考慮する必要があります。)
◆免震構造・オイルタンクの特性
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実は、この考え方を応用したのが、最近皆さんも耳にするようになった「免震構造」です。
免震構造は、地盤と建物の間に、柔らかいゴムを噛ませて、建物自身の固有周期を長くすることで、共振を避けるというものです。
また、石油オイルタンクも液体の揺れの周期が長く、同様の特性があります。
◆長周期地震動が要因と思われる被害が続出
1990年頃までは、長周期地震は特に問題ないと考えられていましたが、次々に被害事例が出てきました。以下に、簡単にまとめてみます。
ウィキペディア [2]参照)
【2003年十勝沖地震】
北海道苫小牧市の石油コンビナートでスロッシング(石油タンク内の石油の共振)によりあふれた石油に引火して火災が発生
【2004年新潟県中越地震】
震度3だった東京都六本木ヒルズでエレベーター6機のワイヤーが共鳴し損傷
【2007年新潟県中越沖地震】
東京都心は震度3であったが周期7秒程度の揺れが約3分間継続。エレベータに人が閉じこめられるなどのトラブルが発生。
【2011年東日本大震災】
東京都内(震度5強)で新宿センタービルなどの超高層ビルが最長13分間、最大108センチほど揺れていた。大阪(震度3)でもエレベータ停止による閉じ込め事故など発生。
◆長周期に対する建築設計の考え方の変化
上記以外にも、複数の長周期地震による被害が発生し、設計の考え方にも変化が起きました。代表的なのは、2000年の建築基準法が改正です。超高層建物の設計には長周期地震動を配慮することが定められたのです。
しかしながら、この場合でも、特定の地震が起きた場合をシュミレーションしているだけで、低い建物のように「必ず共振する」という前提ではありません。
長周期に対する実態が徐々に明らかになってきていますが、未だ万全ではないというのが実態です。
また、想定していた周期は3秒程度であり、昨今問題となっている6秒もの長周期成分が建物を揺らすとは考えられていませんでした。
少なくとも、2000年以前に着工した超高層ビルは、最近判明してきた長周期地震動の特性への対策が必ずしも十分でない建物もあり、その影響が懸念されます。
60m以上の超高層ビルが、日本には約2500棟あります。このうち、長周期地震動の影響を受けやすい周期2秒以上の超高層ビルは約1100棟で、首都圏に約630棟、中京圏に約40棟、近畿圏に約170棟あります。(http://juki.nomaki.jp/manshon.htm数値はこちらを参照しました。)
◆まとめ
長周期問題にとっては、超高層建物、免震建物、石油タンクなど、問題がある可能性を孕んでいることが分かってきました。
現在では、長周期地震動に対する問題に対し、様々な補強方法が提案され、一部で試用されてきた段階です。しかし、未だ設計法は確立化されておらず、法的強制力もありません。しかし、現在でも、建物の建設は成されています。
つまり、超高層建物や免震建物の安全性については、未だ不明な点も多く、安全であるというのは神話に過ぎない可能性があります。

今回は、長周期地震動に対する、建物のメカニズムに引きつけて説明を行いました。
ここで、新たな疑問が沸いてきます。
では何故、安全性が証明されていない超高層建物の建設が増加してきたのでしょうか。
また、安全神話が語られる必要があったのでしょうか。
次回は、その社会的背景を含めて、考えたいと思います。
<補足>
近い将来、東南海地震など、東北大震災に匹敵するような地震が予測されています。
では、どこに住めば良いのでしょうか。
1981年以降の新耐震設計による建物で、かつ30m程度以下(7~8階程度以下)の建物ならば、これまでにも大きな地震も経験しており、長周期に対する危険性は少なく、また比較的大きな地震にも耐えてきたという実績があります。
目安にしか過ぎませんが、私は、この水準の建物に住むことをおすすめします。

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