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太陽系を探検しよう-13.隕石に刻まれた太陽系の歴史~太陽系のはじまりから生命誕生までの軌跡

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画像はSORA-WEBレゾナンス [1]さんよりお借りしました
 
 
地層から原子へ、年代測定の歴史
 
ほんの百年前までは、文明以前の歴史年代は全くわかっていませんでした。地層や化石を見てもそれがいつ頃のものか分からなかったのです。地球の誕生時期についても、17世紀には聖書の記述に基づき6000年前と考えられていました。18世紀には鉄球の冷却速度からそれが10万年前程度となり、19世紀には地層の形成の推定から1億年程度と見積もられました。
 
19世紀の末に放射性元素が発見され、20世紀初頭にはそれが確率的に一定割合で減少(壊変)することがわかり、年代測定の道が開かれました。更に1940年頃、岩石の元素を正確に把握する質量分析法が開発され、1950年代にようやく放射性年代測定が確立します。
 
以後、地球史は急速に長くなり、現在では、45億年前の出来事を100万年刻みで把握することができるようになりました。
 
今回は、その最新の成果も踏まえ、太陽系のはじまりから生命誕生までの歴史を紐解いていきたいと思います。
 


 
岩石の中には歴史が刻まれている 
 
何十億年にもなる長い時間の経過を正確に測るには、半減期が十分に長い物質を調べます。ウラン238は原子の半数が鉛206に変化するまで45億年かかることがわかっています。この現象は温度、圧力、電磁場等の環境によらず一定です。
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図:ウラン238の減衰曲線
  
したがって、現在のウラン238を含む岩石の結晶の中にどのくらい鉛206が含まれるかを見ることで、壊変した量を読み取り、半減期から逆算して、経過年数を算定します。
そのとき、当初の鉛206の量の推定が必要になりますが、それはウランを含まないとされる岩石(地球の核≒鉄隕石)の鉛206の量(比率)を初期値として用います。
 
   
太陽系が生まれたのはいつ?
 
太陽系の歴史はどこまで遡れるのでしょうか。これは、太陽を観察してもわかりません。同じ頃にできたと思われるものを調べるのが近道です。それが太陽系の形成とともにつくられたと考えられる隕石(飛来する前は小惑星・微惑星)です。しかし、隕石を調べてもどこから飛んできたかはわかりません。太陽系外からの可能性もあります。
 
 
隕石が太陽系から来たことはどうしてわかるのでしょうか。
 
これまで地球上で隕石は1万8千個ほど発見されています。そのうち5個の隕石について、飛来する状況が映像で記録されているのです。その映像から隕石の軌道計算をしたところ、いずれの隕石も火星と木星の間にある小惑星帯から飛来したことがわかっています。
 
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図:地球に飛来した隕石の軌道(隕石のふるさとは小惑星帯)
   
また、先ごろ地球に帰還した「はやぶさ」は小惑星帯にある「イトカワ」の岩石の一部を持ち帰りました。これを分析すると、地球に飛来した隕石と同じ組成を示していました。
  
つまり、隕石は太陽系内から、それも比較的地球に近いところ(小惑星帯)から飛んできているのです。
 
 
隕石は太陽系の初期の姿を留めているといえるのでしょうか。
 
隕石は結晶のようすから、大きく二つに分類されます。ひとつは小惑星程度まで成長し、全体が一度溶融したもの=惑星のかけら。もうひとつは太陽系形成の当初から徐々に凝集した岩石で、全体として溶融した痕跡がないもの=太陽系のかけら、です。
 
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図:“太陽系のかけら”コンドライト隕石の結晶(顕微鏡写真)
 
太陽系の起源を調べる場合は、後者の「コンドライト」と呼ばれる隕石を調べます。全体が溶融していないので、最初に岩石として結晶化してから現在までの年代が測定できるからです。この岩石として結晶化した時期が太陽系形成とと同時期になるわけです。(コンドライト以外の隕石は、惑星のかけらとして、惑星の内部組成の推定に用いられます。)
 
太陽系のかけらである隕石=コンドライトを放射年代測定すると、47.5億年から45億年前を示します。これが太陽系の形成がはじまった年代です。
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このほかにも、半減期が短い不安定な物質を調べ、これが岩石内に封印された年代から岩石形成までの年代を割り出し、岩石以前の星雲ガス時代の年代を推定します。現在のところそれは原始惑星形成の1000万年前と推定されています。
 
 
地球ができたのは約45億年前
 
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カナダのバフィン島
 
2010年8月、カナダのバフィン島で45.5億年44.5億年前の岩石が発見されました。これは地中のマントルが噴出したものと推定されています。この発見により、その岩石は少なくとも結晶化(冷却・固体化)してから45億年を経過していることになります。つまり、地球の年齢は少なくとも約45億だということです。この岩石が発見されるまでは、長い間地球の最古の岩石は38億年といわれていました。これは、地球上の岩石の大半(地殻)は38億年前に形成されたことを示しています。 
  
 
地球表面は一度マグマで覆われた
 
地球の形成は約45億年前なのに、地球のほとんどの岩石は38億年前に形成されているというのは、どういうことでしょう。それは、地球は45億年前に形成されるが、表面が岩石(岩盤)として固定化(結晶化)されるのが38億年前だということです。
 
年代測定に用いるウラン238は45億年前から地球に存在し、崩壊し続けています。その期間を測定するにはウランから変化した鉛206の比率を調べます。しかし、途中で高温にさらされ結晶が流動してしまうと、元のウランの結晶の範囲が不明確になり(鉛が減少し)、年代は実際よりも若返ってしまうのです。すなわち、38億年より古い岩石がなかなか見つからないのは、38億年前には岩石が溶融するほどの高温となりマグマ化し、結晶が分解してしまったと考えられます。
 
そのような高温を生んだ要因は、なんだったのでしょうか。
 
地球が成長する過程の小惑星や微惑星の衝突のエネルギーと考えられます。
 
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月のクレーター 写真は天体写真の世界 [2]からお借りしました
 
その証拠は月のクレーターです。月から持ち帰ったクレーターの岩石の分析から、数々あるクレーターが形成された年代は40~38億年前であることがわかりました。つまり、その期間に月に多くの小惑星が衝突したのです。
 
だとすれば、月より大きい地球には、その時期同じように小惑星や隕石が飛来していたと考えられます。その衝突エネルギーの一部は熱となり、表面はマグマのようにドロドロに溶融した状態だったと考えられます。
 
そして、いまから38億年前、地球の成長とともに衝突する天体は少なくなり、表面は冷えていき岩石(地殻)として固まったと考えられます。だから、地球の表面の岩石は、ほとんどが38億年前に形成されたと測定されるのです。
 
 
生命はエネルギーに満ちた地球を母体として誕生した 
 
38億年前というと、生命が誕生したといわれる時期です。38億年前の地層から生物の代謝の結果と見られる炭素13の過少が発見されたことによります。約35億年前の地層からは生物と見られる化石がみつかっています。
 
これらの証拠からわかることは、生命誕生前夜、地球表面は高温・高エネルギー状態だったということです。岩石が溶融するような、過酷な状況下で生命の母体が形成されていった、というのは想像しにくかもしれません。しかし、実は、エネルギーに満ちた状態があったからこそ、生命は生まれることができたのです
  
 
 
太陽系のはじまりから生命誕生への軌跡
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次回は、生命誕生の舞台として不可欠と思われる「海」はいつ、どのようにできたのかを解明し、生命誕生の状況にさらに肉薄していきます。お楽しみに~☆
  

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