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シリーズ 超極小『素粒子』の世界13 ~「重力」って何? ③アインシュタインの重力理論

前回は、アインシュタインが重力理論(一般相対性原理)に基づく、水星の近日点移動を扱いました。

シリーズ 超極小『素粒子』の世界6 ~「重力」って何? ②水星の近日点移動とアインシュタイン [1]

ニュートン力学では、説明し切れない「水星の近日点移動」が、アインシュタインの重力理論で解明されたのです。

今回は、ニュートンの万有引力とアインシュタインの重力理論は、どこが違うのかを改めて考察してみます。

1.空間と時間を座標軸として導入した、ニュートン
2.時空を、物質存在・エネルギーと関係づけ、実体(変化するもの)として扱うアインシュタイン

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1.空間と時間を座標軸として導入した、ニュートン

ニュートンは、物理現象(力や運動)を理解し、記述する基準(座標軸)として、空間と時間を導入します。ニュートンにとって、物質の現象(力や運動)が実体であって、現象を理解し、理論的に記述するために、3次元空間での位置や時刻(時間)を導入します。

ニュートンはその力学大系を記述した「プリンキピア」 つまり「自然哲学の数学的原理」(1687)において時間とは「その本質において外界とは何ら関係することなく一様に流れ、これを持続とよぶことのできるもの。」、空間とは「その本質において外界とは何ら関係することなく常に 均質であり揺らがないもの。」と定義している。
ニュートン的時間と空間、時空は 物質がその中で演舞する舞台であり、その舞台は石舞台であってその上で激しくジャンプしたり、どんとけっても何ら変形はしないものだと言うことである。物理学は時空という舞台の中で、物質がどのような規則、法則に従って演舞するのかを記述するものである。その舞台がへこんだり揺らいだりしたのでは、とてもきれいな数学的定式化などできない。
ニュートンの偉大な点は、このように時空を「外界とは何ら関係することない一様なもの」と定義し、時間や空間を絶対的なもの、絶対時間、絶対空間としたことである。はっきりと時空は物理学の対象ではなく物質の演舞の舞台として、この絶対時空のもとに運動の法則、 ニュートンの運動方程式を記述したことだと言える。
相対性理論における時間と宇宙の誕生(佐藤勝彦) [4]

ニュートンの導入した空間は、「均質な3次元空間」であり、時間は、「過去から未来に一様に流れる時間」です。

連続的で均質な空間を想定し、微小な空間(ΔS)を扱い、一様に流れる時間を想定して微小な時間(Δt)を導入します。そして、この微分という操作で、運動を記述します。速度や加速度(力)を数式化します。

  速度(v)=ΔS(位置の変化)/Δt(経過した時間)
   加速度(α)=Δv(速度の変化)/Δt(経過した時間)

前回もつかった図でみると、ニュートン力学の空間は、左右(X軸)、前後(Y軸)、上下(Z軸)という空間の中で、物体の運動を想定します。

図では、時刻(t)の位置を示しています。そして、次の時刻、その次の時刻に、その物体がどの位置に来るかを記述します。これが運動の式となります。時間の流れは、過去から未来に一様に進むものとしています。

この一様な3次元空間と一様に進む時間を前提にして、惑星軌道を考えます。中心の星(質量M)と惑星(質量m)の間に、万有引力(式で表される力F)が働くことで、惑星は図の様な楕円軌道を取ると理論化します。

  juryoku301.JPG

ニュートン力学(万有引力)では、太陽や惑星という実体と「空間」、「時間」の間には相互関係がありません。空間と時間は、あくまでも、実体(太陽や惑星)の運動を理解するため、数式化するために導入した基準、座標軸なのです。(ニュートン力学の空間、時間を「絶対空間」、「絶対時間」という表現がありますが、基準・座標軸という捕らえ方の方が良いと思います。)

では、アインシュタインの重力論は、このフレームをどう転換したのでしょうか。

2.時空を、物質存在・エネルギーと関係づけ、実体(変化するもの)として扱うアインシュタイン>

それでは、アインシュタインの重力論を見てみましょう。

アインシュタインの重力方程式は、テンソル形式という高度な数学形式により表されますが、意味することを言葉で表現すると、以下のようなことです。

  時空の曲り方(時空の有り様)=定数×物質(エネルギーを含む)

 juryoku302.JPG

一般相対性理論の中核であるアインシュタイン方程式、重力場の方程式は物質の質量エネルギーによって時空がどのようにゆがむのかを与える方程式である。
左辺は時間の進み方が変化したり空間が曲がってしまうことを表す時空の幾何学量である。
右辺は物質の質量・エネルギーや運動量を表すエネルギー運動量テンソルと呼ばれる量である。
cは光速度、πは円周率、Gは万有引力定数である。
方程式の意味は、物質のエネルギーに万有引力定数Gをかけたものが時空の曲がり方を決めるというものである。曲がった時空の中で物質は運動し、運動した物質がこの方程式にしたがって時空を決める。
相対性理論における時間と宇宙の誕生(佐藤勝彦) [4]

アインシュタインの重力方程式(一般相対性理論)では、物質の存在、エネルギーの存在と「時空」が関係づけられています。物質の存在、エネルギーの存在によって、その周りの時空が変化する(曲る)ととらえたのです。

アインシュタインの重力論は、ニュートンの万有引力から、2つの転換を行っています。

第一には、ニュートンでは「空間」と「時間」が別々の独立したものでしたが、アインシュタインでは、空間と時間は、時空として一体的なものとして扱われます。

時空とは
かって、ニュートンは時間と空間は絶対的なものであるとした。空間とは物理現象が起きる入れ物であり、時間は宇宙のどこでも一様に刻まれるもの、と考えた。
しかし、アインシュタインは相対性理論を構築し、時間と空間を合わせたものを四次元時空と呼び、四次元時空こそが物理学の対象だと導いた。
具体的には、以前は独立に存在すると考えられていた時間と空間が、ローレンツ変換によって入り混じり(特殊相対性理論)、時間の進み方は運動状態の違う観測者では異なることが示された。 また、一般相対性理論によって、時空は物質の存在によって歪み、この歪みが重力の正体であることが説明された。どちらの概念も、現代物理学では標準として受け入れられている。
(ウイキペディアより)

第2には、一体となった時空は、物質存在・エネルギー存在によって、関係付けられる。つまり、物質、エネルギーという実体と関係付けることで、「時空」を物理学の対象、変化する実体として扱っているのです。

時空を一体化し、その上で、時空を変化するもの、物理学が対象とするものととらえたところに、アインシュタインの重力論は、ニュートン力学からの大転換です。

これを敷衍しますと、宇宙の星々の周辺には、その星々の質量に応じて、固有な時空(固有の曲りをもった時空)が存在し、ニュートンが考えたような一様な空間や時間はどこにもないということになります。

  juryoku303.JPG

質量の大きな星の周りには、大きな曲がりをもった時空が広がり、質量の小さな星の周りには、小さな曲がりをもった時空が存在するというものです。

アインシュタインは、金星の近日点移動(100年間に角度で574秒)の僅かな不明点(43秒)は、大きな質量の太陽周辺の時空の曲りが影響しているとしたのです。
また、ニュートン的な空間を想定した場合に、太陽の後の位置に来ている恒星が、太陽周辺の時空の曲りにより、皆既日食に際して、地球から実際に見えるはずだと予測します。これは、エディントンの観測隊で実際に確認されました。

アインシュタインが理論化したように、宇宙の時間と空間は、「時空一体で、その上に曲りをもっている」のかもしれません。しかし、普通の理系人間でも、実感を伴った理解を超えた地平にあります。また、テンソル形式で表される方程式は、殆んどの人々を拒絶する程の難解なものです。

この実感を遥かに超えた観念世界、難解な数学的表現が、理論物理学を少数の特別な人間だけのものにし、アインシュタインを神格化することで、いわば「物理学帝国主義」になっているように思います。例えば、現在でも、アインシュタインの重力論を発展させ、「重力子・重力波」の存在を仮定し、その観測に多大な研究予算が当てられています。

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