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自力で動けて餌もとれる“未熟児”=イモムシ???

残暑お見舞い申し上げます
   
「サナギになる虫とならない虫がいるのはなんで?」
      
夏休みに入ったある小学生からこんな質問をされて、どう答えたらいいか困ってしまったという親御さんの話を又聞きで耳にしました。確かに、誰にも馴染み深い現象ですが、論理的に説明するとなると意外にむつかしい・・・
    
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      アゲハチョウ                        カブトムシ
                 サナギになる【完全変態種】
  
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      セミ                         オニヤンマ
              サナギにならない【不完全変態種】
    
今日は、この話を科学的に切開してみたいと思います。
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生物学の世界には『発生系統は進化系統を踏襲する』という説があります。
簡単に言うと、ある生物種の個体成長過程は、その種が遥か昔に進化してきた各段階をなぞるように成長していくというものです。
         
この法則を昆虫にあてはめてみると、完全変態する種の幼虫と成虫のからだのつくりの違いは、昆虫への進化系譜と概ね整合しています。
        
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昆虫の遠い祖先はカンブリア紀に登場したアユシェアイアという有爪動物(上図)だと言われていますが、この動物はムカデやゴカイに似ていて、体節は昆虫より遥かに多く、足も数十本あったようです。この祖先から進化した種が陸上に進出し、陸上生活に適応していく中で、現在の昆虫の分類上の定義になっている6本足・3体節・外骨格・複眼といった体型が完成したと考えられています。 
    
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ところで、完全変態する種と不完全変態する種はどちらが先に登場したかと言うと、不完全変態する種が先に登場し、そのタイプから完全変態する種が進化したと言われています。
つまり、最初の昆虫は、孵化したときにはすでに成虫に近いからだの構造を持っており、彼らは孵化する前の卵の中でムカデまたはイモムシに似た体型の段階を経ながら成長して、6本足・3体節・外骨格などの成虫の体型がほぼ出来上がった段階で生まれてくるのです。
ところが、サナギになるタイプの完全変態種は、成虫とは明らかにからどのつくりが異なる“イモムシ”として生まれてきて、その後、ある程度からだが大きくなった段階でサナギに姿を変え、その中で最終段階の成虫の姿になります。
しかも、どの“イモムシ”も(チョウにしてもカブトムシにしても)行っていることはひたすら食べて大きくなることだけと言っても過言ではありません。
      
したがって、完全変態種とは、不完全変態種の卵の中の成長過程の途中で孵化する道を選んだ種であるというのが、最も論理的な解釈になります。
実際、卵の中で生物が行っているのはひたすらからだを大きくし、孵化後の生存に必要な機能を成長させることです。
完全変態種と不完全変態種で異なっているのは、不完全変態種が(他の多くの動物と同様に)卵の中に蓄えられた栄養素に完全に依存して成長できるのに対して、完全変態種は自ら能動的に捕食活動を行って栄養を確保しなければ成虫の体型や機能を得ることができなくなったという点でしょう。
その意味で、完全変態種の幼虫というのは、自力で生きていくことのできる“未熟児”と比喩することも可能です。
    
では、なぜそうなったのか?
     
最も早く陸上に進出した動物は昆虫(≒節足動物)ですが、それに遅れて脊椎動物群が陸上進出します。そうなると昆虫を食べる種がどんどん増えていき、この外圧の上昇に対抗するために、昆虫は産卵数を一気にふやした・・・つまりひとつひとつの卵を小さして数を増やす戦略を採ったのだと思われます。
      
ひとつひとつの卵を小さくしたということは、その卵の中に蓄えられる栄養素を少なくしたということと同義ですから、卵の中だけでは十分に成長し切れなくなります。おそらく、この生存戦略が完全変態種という進化形をつくり出した原因だと思われます。
       
ところで、サナギの段階では、細胞分裂が異常に加速され、主要な神経節と呼吸器官を除いては幼虫のからだの大半は一旦ゲル状になって、ドロドロの状態からダイナミックに再構築されて成虫のからだになります。
その意味では「サナギとは第2の卵である」とも言えそうですが、適応論的には「卵の中の最終成長過程を孵化後に延長した戦略」というのが適切です。
    
それにしても、一見リスキーなこんな戦略で適応して行くことができるという事実を前にすると、正直驚かされますね。
生物の進化の道筋はほんとうに360度の全方位性の中から選択されていることを証明しているのが昆虫の生態かもしれません★

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