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「放射性物質の拡散予測」シリーズ5~海洋生物への汚染はどうなるか~

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今回の福島原発事故では、住む所を追われ、田畑や家畜を手放し、原発近辺で生活している方々にとってその被害と悲しみは計り知れない。また、海に囲まれ海産物とともに生きてきた日本人全体でみれば、大きな財産を失われる可能性があるのが、海洋汚染だと思います。
下記は、海洋汚染についてグリーンピース [1]がまとめた調査内容です。グリーンピースによると、

調査結果まとめ:
海藻類3サンプルで、1キロ当たり100,000ベクレルを超える放射性ヨウ素を検出。日本政府の定める暫定規制値の約50倍。半減期の短いヨウ素の大量検出は、原発から海への放射性物質の放出が続いていることや、莫大の量の汚染水が過去2か月の間に放出されたことを示唆。
13サンプルで放射性セシウムが暫定規制値を超える。半減期の長いセシウムの大量検出は、汚染が長期にわたることを示唆。
エゾイソアイナメ、ナマコ、ヒトデなど、海の底に生息する種からも暫定規制値を超える放射性セシウムを検出。汚染が海の底にも広がっている可能性を示唆。
最も汚染された海藻を年間1キロ摂取すると、2.8mSvの内部被ばく量に値する。
広範囲にわたり高レベルの放射物質が見つかった。政府が言う「放射性物質は海で希釈される」という説は疑問。グリーンピース [1]

と、海藻、底棲類を中心に放射性物質が検出されてきました。
また、水産庁 [2]の海洋生物調査も時系列で掲載されており、海洋生物ではムラサキウニやホッキガイのような底棲類や、アラメといった海草類から、基準値を超える放射性物質が検出されています。

世界の三大漁場に数えられる三陸沿岸は、海水中のプランクトン濃度が極めて高い海域です。親潮と黒潮が大きく蛇行して三陸沿岸に接近して、大きな潮目を作りながら回遊していきます。海藻類の胞子やイワシ/牡蠣などの魚貝類の幼生に始まる食物連鎖が、極めて旺盛な海域です。
 従って暖流に乗るカツオやマグロ類、親潮に乗る鮭や秋刀魚等の太平洋を広く回遊する魚類の宝庫でもあります。黒潮が接近する牡鹿半島域では定置網一網で数百匹もの巨大黒マグロが水揚げされたほどの、黒潮の主流が接近して回遊する海域なのです。原発破壊による海洋汚染は、日本人の伝統的な食習慣も破壊する [3]

のように、プランクトンから大型の回遊魚まで、海洋生物の食物連鎖が凝縮されている三陸沿岸で、原発事故が起きたのは、途方もない悲劇です。水産庁は海洋での放射性核種は希釈され問題は小さいとの見方を出していましたが、それは本当なのか。汚染状況のモニタリングは今後も拡大されると思われますが、改めて、過去の論文等からその予測をまとめたいと思います。



☆☆☆生物濃縮とは
生物は、生息環境からさまざまな物質を体内に取り込みまた排出を行って生長、繁殖していますが、放射性核種を含む各種の元素やいろいろな有機化合物などを生息環境より高い濃度で体内に蓄積することを「生物濃縮」といい、生物濃縮の度合いを測る物差しとして「濃縮係数」があります。濃縮係数100とは、生物中の放射性濃度が、水中の放射性濃度の100倍になっているということです。

濃縮係数=生物中の放射性核種濃度/水中の放射性核種濃度

放射性核種の生物濃縮を見たときに、注目すべき放射性核種はセシウム137です。それは、セシウム137が物理的半減期30年と長く汚染が続くこと、セシウム137は軟組織全般に取り込まれ易い物質であることが挙げられます。また、その物質の特性上、これまでの核実験やチェルノブイリ事故等によって、海洋生物にどのように汚染が拡散してきたかのデーターや文献資料が、比較的整っているのがセシウム137です。

水産庁 [4]によると、当初セシウム137の魚への生物濃縮はかなり低いとの見方をしていました。その根拠として、セシウム137はカリウムと同じ振る舞いをするため、PCBや水銀と違って体外へ排出される、生物学的半減期が約50日なので蓄積されないとなっています。生物学的半減期とは、短期的に取り込んだ放射性核種を代謝により排泄される期間をいいますが、今回の福島原発事故のように継続的に放射線核種で汚染される場合に、生物学的半減期を持ち出すのは不適切でしょう。また、水産庁のHPにも掲載・引用している笠松不二男氏の論文を辿ると、生物濃縮はないどころか、水産庁とは全く別の見解であることが記されています。改めて、笠松不二男氏の論文から、幾つかの視点をまとめます。
『海産生物と放射能』 笠松不二男著 [5]

☆☆☆大型の硬骨魚ほど濃縮係数が高くなる傾向
福島原発以前の海洋に存在するセシウム137は、大部分が1940年代後半から大気圏内核爆発実験によって放出された放射性物質です。1984年から1997年までの14年間に日本沿岸で収集された海産生物34種のセシウム137濃度の調査結果があります。海の食物連鎖は、
①藻類・植物プランクトンが底辺
②動物プランクトン貝類などが第一消費生物として存在
③小魚や甲殻類が第二消費者として存在
④回遊魚、沿岸魚が第三消費者として存在
していますが、食物連鎖の上位にいる種ほど濃縮係数が高くなる傾向がみられます。

また、笠松氏によると食性の違いも影響していて、大型の魚を摂餌しているスズキ、マダラやアカエイのセシウム137濃度が高く、動物プランクトンなど小さいものを摂餌しているマガレイやシタビラメ類は濃度が低いという傾向があります。これは、大型の魚ほど代謝が小さいため、セシウム137が蓄積されやすく、さらにその魚を摂餌している大型の魚ほどどんどん濃縮されていくことを示していると思われます。

表1に示した日本沿岸で採取された海産生物種のセシウム137の平均濃縮係数を見ると、濃縮係数の高い魚種は、硬骨魚のブリ、カツオ、スズキと軟骨魚のアカエイで、低い魚種は硬骨魚のクロウシノシタやマガレイであり、その差は約4倍となっている。また、甲殻類(エビ類の十脚目)は硬骨魚より若干低く、軟体魚(頭足類、腹足類)のイカ・タコ・貝類はさらに低い値を示している。このように、海産生物種の違いにより約10倍以上の差も見られる。『海産生物と放射能』 笠松不二男著 [5]

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☆☆☆塩分濃度の低い環境ほどセシウム137は蓄積される
セシウム137はカリウムと同じアルカリ金属元素であり、生物に取り込まれた場合カリウムと同じ振る舞いをします。魚にとって塩分(ミネラル)は生きていくうえで必須であり、塩分濃度が低い環境に生息する魚は、ミネラルを取り込み溜め込む機構をもっており、またミネラルの排出も抑制されています。
水産庁の調査報告でもアユ、ヤマメ、ウグイなど淡水魚にセシウム137濃度が高くなっているのは、この理由によるところかもしれない。

Kolehmainenらは、貧栄養湖の魚類は、セシウム137濃度が冨栄養湖のそれよりはるかに高いこと、貧栄養湖は冨栄養湖に比べて水中のカリウムその他の電解質が少なく、セシウム137が生物へ取り込まれやすく高いセシウム137の蓄積を促す理由になっていることを示唆している。(中略)Cocchioらは、セシウム137の吸収率は環境水中のK,Na,Ca濃度に大きな影響を受けないが、排出率はK濃度に強い影響を受けることを示した。海産魚のスズキ(幼魚)でも同様に、塩分が低い(海水の割合が小さい)方が生物学的半減期が長くなる傾向を示している。『海産生物と放射能』 笠松不二男著 [5]

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☆☆☆生物濃縮が顕在化するには魚種によって時間差がある
上記見解により、今回の福島原発でも生物濃縮は恐らく避けられないだろうと思われます。また、過去の原爆実験やチェルノブイリ事故と違い、原発からの汚染水流出が長期化するとなると、生物学的半減期(代謝による排出効果)を期待するのは、危険側で判断することになるため、汚染の長期化も避けられないでしょう。
チェルノブイリ原発事故では、「チェルノブイリ事故の影響によるセシウム137の最大濃度出現時期は、表層水では事故から1ヶ月後、スズキでは5~6ヶ月後、マダラでは約9ヵ月後であった」(海洋生物環境研究所ニュースNo.95) [6]と報告されており、スズキの濃縮係数は約100倍であったといいます。現在、底棲類や海草類から汚染が検出されていることからみると、事故から半年後には大型魚の汚染も顕在化してくると予想されます。
三重県が放射能汚染魚を全量買い上げ、全国に販売! [7]のように、見えないところでとんでもない事が行われています。 😈
どんどん日本人全体が放射能まみれになっていくことは、なんとしてでも防がなければなりません。

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