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今週の福島原発(5/11~5/17)1~3号機はメルトダウン、工程表の改訂版発表

先週の予想通り、今週は大波乱の1週間でした。簡単に1週間を振り返ってみましょう。
5/11 3号機から海水の濃度限度の62万倍のセシウム134や、43万倍のセシウム137などの放射性物質を含む水が海に流れ出ているのを確認
5/12 東電が1号機のメルトダウンを認める。
5/13 1号機の原子炉建屋全体を覆う建屋カバー設置に向けた準備工事を開始
5/14 作業員1名が心筋梗塞で死亡
5/15 東電が2号機3号機もメルトダウンを認める。3号機の再臨界防止のためホウ酸水の注入開始。今後1・2号機もホウ酸水注入。
5/16 原子炉冷却装置は津波の前に手動で停止していたことが判明
5/17 東電が事故収束に向けた工程表の改訂版発表、冠水を断念
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この画像はこちら [1]からお借りしました

1号機から3号機はメルトダウン、作業員が一人死亡と大混乱状況のなかで発表された工程表の改訂版はどこが変わっているのでしょうか。東電が公表した改訂版から変わったポイントを抽出すると以下の3点になります。
①2号機に加え1号機3号機でも冷却水が漏洩していることから、「循環注水冷却」の確立を、冠水作業に先んじて実施するよう見直し。
②地下水の汚染拡大防止のため、サブドレン保管管理、地下水の遮蔽工法を検討
③作業員の環境改善として、仮設寮設置などの新たな対策を実施

東電の発表は回りくどくて分り難いですが、これをわかりやすく説明すると次のようになります。
①燃料棒がメルトダウンし、圧力容器、格納容器に穴が空き、放射性物質が外に流れ出ている。容器内に放射性物質をとどめて冷却するのは不可能であり、建屋全体で水を循環させて冷やすしかない。
②メルトダウンの結果、高濃度汚染水は建屋から、さらに外にもどんどん漏れており、汚染の拡大を防ぐために、地下水を遮水する必要がある。
対策の長期化は避けられず、緊急対策ではなく、恒常的作業として作業可能な環境の整備が必要。

もはや、循環注水冷却しか手がないと言うことのようですが、この循環注水冷却はどんな仕組みなのでしょうか、これで問題は解決するのでしょうか。
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◆循環注水冷却システムとは?

通常の冷却システムと今回の循環注水冷却冷却システムを比較してみます。
通常の冷却システムが下図です。
圧力容器で発生した高温蒸気がタービンを回し電気を作り出し、さらに復水器にて冷やされ水に戻り、再び圧力容器に送り込まれます。原子炉及びタービン建屋を配管が行き来しますが、システムとしては閉鎖系です。
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この画像は電気事業連合会HP [5]からお借りしました。
対して、東電が構築しようとしているシステムは下図となります(詳細はもう少し複雑です)。既に1~3号機の圧力容器と格納容器に穴が開いているため、圧力容器を冷却するために注水された大量の水は汚染水となり、原子炉建屋の地下に溜まったり、圧力抑制プールから隣接するタービン建屋の地下ピットに流れ込んでいます。
この汚染水を復水器で冷却しつつ、除染・塩分処理を行い、再度圧力容器に水を送り込むシステムを構築しているのが現状です。
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この画像は東電HP [6]からお借りしました。
この循環システムが構築できれば、大量の水を外から注水する必要がなくなるため、汚染水の増加を防ぐことができます。
しかし問題点もあります。
地下ピットに溜まった汚染水は、既にコンクリートの亀裂から土中に漏れはじめ、土壌や海を汚染するという事態が発生しています。
つまり、半開放系の循環システムのため、このシステムが構築できても、今後土壌・海洋汚染拡大の恐れが残っています
さらに、循環するとはいえ注水した水は放射性物質に汚染されて戻ってきますので、循環系統の中に除洗工程が必要となり、冷温停止後も除洗のためのコストがかかり続けることになります。

◆循環汚染水処理の方法とトータルコスト

東京電力は仏企業と契約し、浄化設備を作って6月から処理を始めるが、技術的に課題もあり、先行きは不透明だ。
東電と4月上旬に契約したのは仏の原子力大手アレバ。ロベルジョン最高経営責任者によると、1時間あたり50トンの汚染水を処理し、放射能濃度を1千~1万分の1に低減できるという。
現在、1~3号機のタービン建屋や坑道などに計約7万トンの汚染水がある。特に2号機のタービン建屋のたまり水は、表面線量が毎時1千ミリシーベルトを超え、濃度は極めて高い。
アレバが提案するのは「凝集沈殿法」と呼ばれる方法。この汚染水にフェロシアン化ニッケルなどの吸着剤を入れ、放射性セシウムなどを吸着させた上で、凝集剤を入れて沈殿させて取り除く。仏ラアーグにある同社の使用済み燃料の再処理施設でも採用している方法だ。

asahi.com「高汚染水処理、セシウム吸着させ沈殿 契約の仏企業提案」 [7]より

このアレバ社による処理費用ですが、1トン当たり2億円と言われています。

福島第一原発の汚染水を除去するため、フランス企業に処理発注したというが、その費用はトン当たり2億円という。現在6万トン以上ありその費用は12兆円を超える計算になるが、これは費用対効果は考えなくても良いのだろうか。

原発汚染水の処理費用1トン当り2億円! 6万トン以上あるぞ。 [8]より

これにさらに今後9ヶ月間に注水される水の処理費がかかってきます。現在の注水量は、1号機6トン/時、2号機6.9トン/時、3号機18トン/時、合計30.9トン/時です。
(福島原発事故http://fukumitsu.xii.jp/syu_f/FukushimaGenpatsu_1.html)
これらから、仮に「東電が発表している冷温停止状態になるまでの9ヶ月間、現状の注水量を入れ続ける」と仮定し、循環汚染水処理にかかるコストを試算してみます。
[30.9(トン/時)×24時間×30日×9ヶ月間]×2(億円/トン)=400,464億(約40兆円
(これに、現状すでに溜まっている汚染水の処理料金12兆円が加算されます。)
さらに、アレバの処理機の能力は50トン/時であるため、現在注水している30.9トン/時では、アレバの処理能力をフルに使うことは出来ず、処理費がさらに割高になることも考えられます。これはあくまでも、循環処理水にのみにかかるコストであって、この他に、拡散してしまった汚染水処理にかかるコスト、今後ずっと汚染物の保管にかかるコストなど、どんどん加算されていくでしょう。
コストを大幅に削減する方法として、ゼオライトの活用も検討されていますが、ゼオライトはかさばるために、大量の放射性廃棄物が発生しその処理をどうするかという、新たな問題も発生するようです。

さて、金属粒子を吸着しやすい性質に注目して福島第一原子力発電所での何万トンも出ている放射能で汚染された大量の水から放射性物質を除去するのに利用しようとしているそうです。効果がどこまであるかわからないという指摘もありますが、そんなことよりも大きな問題があります。
それは、ゼオライトは多孔質でとてもかさばります。隙間に微量の放射性物質を吸着してくれるわけですが体積の大半は隙間(空気)であり、残りの大半もゼオライトです。放射性物質の占める割合はごく微量。放射能を除去するためにゼオライトを使えば水のままよりは濃縮できますが、さりとて放射性物質そのものに比べれば何千倍、何万倍もかさを増やしてしまいます。
多孔質の中に放射性物質を取り込んでしまうので始末に終えない高レベル放射性物質(の廃棄物)が大量に出来上がってしまいます。

ニュースクリップ 原発汚水対策へのゼオライト利用への懸念より [9]

◆「冷温停止」の後はどうなるのか?

当面の工程表では原子炉の「冷温停止」(原子炉内の温度が100度未満となり安定的に停止した状態のこと)が目標とされているが、仮にそれが達成できたとしてその後はどうなるのでしょうか?
長期的計画としては、(1)冷温停止から核燃料の取り出し(2)プラント(原子炉)の除染(3)核廃棄物処理(4)中期的なプラントの保管(5)最終的な廃炉措置の5段階、完全解体には30年はかかるとされています。(福島原発「完全解体に30年」 [10]
1、2、3号号機で明らかになったメルトダウンにより、(1)~(5)のいずれもが非常に困難な作業になることが想定されます。
まず冷温停止し熱がある程度落ちついた後に燃料を取り出して処理することになりますが、圧力容器から格納容器さらにその外へ燃料が漏洩していたとしたら、それは可能でしょうか?プラントの除染は可能でしょうか?膨大な汚染水や汚染物質の処理にはいったい何年かかるのでしょうか?
スリーマイル島の事故でも、核燃料の取り出しや放射性物質の汚染水処理に要した期間は約14年であり、その間毎年、数十兆円の汚染水処理費が発生するとしたら、日本の国家財政は間違いなく破綻します。
※日本原子力発電東海発電所の廃炉の場合
国内の商用原発で初めて廃炉作業に入った茨城県の日本原子力発電東海発電所では、1998年の営業運転終了後、2021年までかけて段階的に進めている。廃炉は、燃料を取り出し、放射線量の低減を待つ。この間、発電機など汚染の少ない設備を先に解体、最後に原子炉の鋼鉄容器などを切断し地下深くに埋める。現在は熱交換器などの撤去作業中。
事故でない原発の廃炉でも20年近くはかかるということ。今回はその比ではないだろう。
※スリーマイル島原子力発電所事故の場合
1979年、福島第1原発と同じく原子炉の冷却機能を失い、炉心溶融(燃料の45%、62トンが溶融し、うち20トンが原子炉圧力容器の底に溜まった)事故を起こした米スリーマイルアイランド原発は、発生から約1カ月で原子炉を「冷温停止」と呼ばれる安定状態に持ち込んだ。しかし、核燃料の取り出しや放射性物質の汚染水処理に要した期間は約14年
原子炉の建屋内に人が入れたのは翌80年。圧力容器のふたを開けることができたのは84年、核燃料を運び出す作業が終わったのは90年で、汚染水の処分が93年に終了してようやく、一連の事故処理に終止符が打たれた。とはいえ、事故が起きた2号炉の建物は今も解体できない状態。(冷温停止1カ月の米でも後処理14年 [11]
※チェルノブイリ原子力発電所事故の場合
爆発した4号機全体をコンクリートで覆う巨大な「石棺」が建設されたが、事故から25年がたった今も半径30キロに立ち入り制限区域が設けられ、閉鎖された原発では今も3千人以上が除染や保守管理に従事している。同原発の解体には約100年かかるともいわれている。

◆在野研究者の工程表に対する評価

このように、大きな問題をはらんだ5月の工程表ですが、これはまだ出たばかりで評価が少ないので、4月の工程表に関する評価をまとめておきます。

○京都大学 小出裕章 氏 4月18日 東電の甘い見通し 小出裕章 [12]
 (漏水が続いているときに水棺方式をするのは現実的にどうか?)それは到底できないと思う。格納容器が壊れている以上、もともと出来ないことを言っている。2号機は格納容器についているサプレッションチェンバーが爆発していて、それは東電も認めている。補修しなければ水は漏れる。そのため水棺方式はできない。
 (水棺方式ができなければ工程表の前提が崩れる?)そうなる。私の提案していた循環方式と同じようなことをしようといている。循環機能を作るのも容易でない。汚染水を排出することすらできない状況を考えると、放射線量は高いままとなり、そのような作業を行うのはとても大変。生身の人たちがそれを出来るような環境を作ることは簡単にはいかない。

○BLOGOS 東電工程表の水棺方式に頼っては危険、長期化 [13]
 格納容器下部が破損している2号機は水棺方式適用の前に漏れ出している穴を塞がねばなりません。そのために粘着質セメントの充填を考えているそうです。私の持つ技術常識では、現に水圧がかかって漏れ出ている場所に注入して硬化し、水漏れをシャットアウトする素材を知りません。水中固化させるにせよ、一定の養生が出来てから使えるものになるはずです。「注入、即、実用強度で密着」といった好都合な素材があれば過去のトンネルなどの難工事がどれほど助かったことか。
 2号機の収束にこの方法は無理があると指摘した上で、格納容器が「健全」とされる1、3号機でも危険だと思えます。健全だと言っても東電の格納容器はザルに近い存在だと考えられるからです。今回の事故で最初に書いた「福島第一原発は既に大きく壊れている可能性(追補あり)」の時点から、核燃料の温度が上がって多少でも損傷するたびに、発電所正門付近の放射線量が敏感に上がる現象が観測されています。これは格納容器が表向き「健全」であると言われながらも、密封性には甚だ疑問があることを示しています。
 1号機の原子炉建屋は特に高汚染で人は立ち入れないと言われます。水棺方式にして高さ3、40メートルある格納容器の「首」のところまで水を満たし、結構な水圧がかかる状態なのに、見回りも出来ないのでは危なくて見ていられません。東電も事前確認なしに水を溜められないでしょう。
 検討課題に格下げされた冷却系の回復を、旧設備の復旧ではなく外部冷却装置追加の形でいいから急ぐのが王道だと考えます。容器損傷している2号機対策もこれしかありません。この際、特注品である必要はありません。日本ですから既製品の在庫があるはずですし、どこかのプラント向けに造られている製品でも流用・転用をお願いして駄目と言われることはないでしょう。

上記のように、4月の段階で掲げていた水棺方式と格納容器の補修はもともと難しかったようですが、認めるのに1ヶ月もかかっており、考えが甘かったと言わざるを得ません。今回提示された、循環注水方式も莫大なコストを掛けながら、大きな問題を先送りする手法であり、解決に向かっているとは言えない状況です。

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