「続・人類の拡散」シリーズ ~化石は語る【頭蓋骨の謎】~
「アウストラロピテクス・アファレンシスの頭蓋骨化石モデル」
画像は、ココからお借りしました。ありがとうございます。
人類の化石から何が分かるのでしょうか?
今回は、頭蓋骨(+下顎骨)の化石の変化と、その理由について考えてみたいと思います。
チンパンジー(類人猿)→アウストラロピテクス・アファレンシス(猿人)→ホモ・サピエンス(現代人)という進化に伴う頭蓋骨の変化は、次のようになっています。
「チンパンジー~猿人~現代人の頭蓋比較」
「チンパンジーと現代人の頭蓋・上顎比較」
すなわち、以下のような変化が見られます。
- 脳容量が大きくなる
- 下顎が縮小し、口が引っ込んで顔が短くなる
- 犬歯が小さくなる
脳容量の拡大は別として、口と歯については食べるための器官となので、これらの変化は食性の変化と関係があるのではないかと思われます。
さらに、細かな特徴を見ていくと、ホモ・エレクトス(原人)とホモ・サピエンスの違いには、こんなものがあります。
「ホモ・サピエンスとホモ・エレクトスの頭蓋骨の違い」
- 矢状稜(頭頂に沿った出っ張り)がある
- 顕著な眼窩上隆起(目の上のほぼ眉に沿った隆起)
- 強い眼窩後狭窄(こめかみの引っ込み)
では、どうして、このような変化が起きたのでしょうか?
まずは、次の図をご覧ください。類人猿、猿人および現代人の咬筋、側頭筋の比較です。
「咀嚼器の構造」
チンパンジーや猿人と比較して、現代人の下顎と筋肉がいかに華奢かが分かると思います。チンパンジーでさえ、これらの筋肉は現代人の3倍もあるのです。
野生のチンパンジーはイロンボなどの果実を主食としていますが、チンパンジーの歯の特徴としては、大きな犬歯があります。
チンパンジーと猿人は下顎が大きく口が長いので、それに相応しい筋肉を備えていることになり、だから大きな果実でも咀嚼することができるのですね。チンパンジーの犬歯は果実の皮を剥いたり、木の皮を剥ぐのに役立っているようです。
逆に、(チンパンジーは)猿人や現代人と違って犬歯ががっちりはまるので、歯列と顎の関節の近さもあり、奥歯で磨り潰すような動きは出来ません。(この犬歯については性的二型の問題もありますが、また別の機会に)
猿人は類人猿よりさらに咬む力が強いことになりますが、これは足の親指が先祖返りして樹上世界を失った(実現論 第一部 前史 ヘ.人類:極限時代の観念機能 参照)ため、柔らかな果実を取ることができず、果実の種子など、類人猿が食べないものでも噛み砕いて食べる必要があったのかもしれません。
猿人や原人に見られる特徴である矢状稜も、大きな顎を引っ張る強い側頭筋の張力に耐えるため、強い眼窩後狭窄は大きな側頭筋を通すためでしょう。大きい眼窩上隆起は、眼窩(=眼球が収まる孔)という構造上の弱点に対して、強い咬筋を支えるための「梁」と考えれば辻褄が合うのではないでしょうか?
ところで、食物を磨り潰す大臼歯(のエナメル質)についた微細な傷や摩耗状態を調べると、食べていたものを推測することができます。
芽食のもの、果実食のものは平坦に磨り減っており、骨をも砕く肉食のものではしばしば深い傷がついている。すべての初期ヒト亜科の歯の傷跡は果実食の特徴に合致しており、現代のチンパンジーやオランウータンと同じで、平滑な表面に少数の微細な孔や掻き傷が散在するというものである。
Homo ergaster/ erectusの時代になって変化が起こり、深い孔や強い掻き傷がみられるようになる。その状態はハイエナ(肉食)と豚(根食)の中間に相応する。(「ここまでわかった人類の起源と進化」R.ルーウィン著・保志 宏訳 より)
辛うじて果実(あるいはその種子)を食べていた猿人は、ホモ・エレクトスの段階から完全に地上に適応し、肉食+根食へと移行していったようです。圧倒的に弱く武器も無かった人類は、死肉を漁ったり、芋などの植物の根を囓って生き延びたのでしょう。
すなわち、頭蓋骨周りの筋肉は食性の変化や道具の発達によってどんどん退化していった。一方、共認機能や観念機能の進化に可能性収束し、結果として脳容量が増大、現代人の頭蓋骨は今のような形に進化していったということでしょう。
※画像の出典は、特記無き限り「ここまでわかった人類の起源と進化」R.ルーウィン著・保志 宏訳 によります。
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