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「続・人類の拡散」シリーズ ~氷期に適応し高度に進化した、ホモ・ネアンデルターレンシス~

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今回はホモ・ネアンデルターレンシスを取り上げます。
 ホモ・ネアンデルターレンシスはホモ・ハイデルベルゲンシスを祖先とし、一時ホモ・サピエンスの一亜種として扱われ、学名をホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシスとされていましたが、その後亜種でも祖先でもないとしてホモ・ネアンデルターレンシスに戻されています。
 しかし、2010年5月には現生人類にネアンデルターレンシスの遺伝子が1~4%混入している [1]との研究結果が発表されています。ネアンデルターレンシスはホモ・サピエンスの直接の祖先ではなくとも、現生人類に影響を与えていることは間違いないでしょう。

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さっそく、

 ①化石が発見された場所
 ②存在時期
 ③生存環境
 ④骨格的特長
の順に見ていきましょう。

①化石が発見された場所

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ネアンデルターレンシスの化石は、その語源であるドイツの北西部にあるネアンデル谷(タール)で発見されました。1856年に発見され、その3年後にダーウィンの『種の起源』が出版されています。聖書の創造論を超え、人類も進化すると考えられるようになり研究も活性化していきました。
1908年にはフランスのラ・シャペル・オ・サンという村の近くで、ほぼ全身の揃った化石が発見されてます。
ネアンデルターレンシスの化石の発見場所は西アジアからヨーロッパにかけてほぼ全域に分布しています。多くの化石が発見されていますが、その理由は上述したようにヨーロッパでは150年以上も前から先史時代の調査がなされていることが挙げられますが、さらにネアンデルターレンシスが埋葬の習慣を持っていたことも化石が残りやすかったことにつながっていると言われています。
今後、アジアなどで発掘が進めばネアンデルターレンシスが見つかる可能性も残されています。ウズベキスタンのテシク=タシュ遺跡で発見され、さらにモンゴルや中国に近接するロシア・アルタイ地方でも発見されています。
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写真はシリア北部で発見された「テデリエ・ネアンデルターレンシス」精神のエクスペディシオン [4]より

②ネアンデルターレンシスの存在時期
ハイデルベルゲンシスの登場から早い段階で分岐したのなら4、50万年前ということも考えられますが、発見されている化石は約30万年前頃から2万数千年前まで存在していたようです。
フランスでは3万2千年前の化石が、スペインのジブラルタルに近いサファラヤ洞窟では2万7千年前の化石が見つかっており、放射性炭素年代法が正しければこの頃までネアンデルターレンシスは存在しているようです。
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③ネアンレルターレンシスの生存環境
ハイデルベルゲンシスと同様にネアンデルターレンシスは寒冷地に適応するための進化をしたと言われています。後期更新世は概ね氷期であり、25万年前から12万年前までのリス氷期、最後の氷河期である7万年前から1万年前のヴュルム氷期と間氷期をはさみ寒冷化、乾燥化した環境でした。氷河は最拡大期にはほぼイギリス全土を覆い、ネアンデル渓谷のあるドイツ北部にも達するほどでした。
ネアンデルターレンシスの発見された洞窟からはトナカイやマンモスの骨も見つかっています。一方でイタリアのサッコパストーレ遺跡からは、彼らの化石と共に12万5千年前のゾウやカバの化石が出土し、あるいは西アジアのレヴァント地方でも発見されているように温暖な地域でも適応し生存していたことになります。

④骨格的特長
◆脳容量

脳容量は1600~1680ccと現代人男性の平均1450ccより大きいのが特徴として知られていますが、これは後期に生存したもので、28~20万年前の前期ネアンデルターレンシスは1100~1390ccとさほど大きくありません。

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現生人類(左)とネアンデルタール人(右)の頭蓋骨の比較図
◆頭蓋骨の特長

・脳頭蓋は上下につぶれた形状をし、前後に長く、低く、幅広です。前頭葉は小さく、後頭葉は大きくこれらのことが脳容量の割には知能が発達していないのではと言われる所以です。
脳頭骨を後ろから見ると屋根型で、後頭骨が膨らみ髷をつけているように見えます。猿人や原人ではこの部分に強い後頭筋群が付着するために骨の隆起が発達しているのですが、ネアンデルターレンシスにはそのような筋はなく後頭葉が発達したと言われています。
・顔は長く鼻腔は大きく、眼窩の上(眉毛のあたり)に左右二つのアーチ状の眉隆起(眼窩上隆起)がある。
・顔面は長く大きく、顔の中央部全体が前面に突出し、頬骨は大きく両側とも後ろに傾いて引っ込んでいる。
・鼻は広く、また強く前方へ飛び出している。したがって鼻腔も広いが、同時にこれにつながる上顎洞(副鼻腔・上顎骨の内部にある空洞)も広くなっている。
これらは、冷たい空気を瞬時に暖めて肺に送るために、大きな鼻腔や上顎洞が必要だと言われており、東部シベリアや中国東北部の極寒で生活する現代の北東アジア人にも見られる特長です。
・下顎骨は長く、歯列が前方に移動し、牛歯型と呼ばれ歯根がきわめて太い。これらは彼らが前歯を道具の代わりに利用したとされている。つい最近までイヌイットがやっていたように、獲物となった動物の肉を剥がすときや皮を柔らかくするときに、前歯で引っ張ったり噛んだりした可能性が高い。そのために彼らの前歯は大きくしばしば激しく摩耗している。
・前面の頤はない。

◆四肢骨

・比較的背が低くずんぐりとした体格でとくに脚の骨は関節面が大きく、骨壁が厚いので強大な筋肉の持ち主だったことがわかる。
・腕や脚の骨の湾曲が強く、前腕(肘から下)と下腿(膝から上)の骨が相対的に短い。
四肢が短くずんぐりとした体格は皮膚の表面積を小さくして体温の発散を少なくし、強大な筋肉は多くの熱を産出するので、いずれも寒冷気候に適応した結果だと言われています。

◆言語能力

・イスラエルのケバラ遺跡で発見された約6万年前の舌骨は現代人とほぼ同型で、高度な言語能力を有したと考えられる。
・一方で現生人類と比べ、喉の奥(上気道)が短い。このため、分節言語を発声する能力が低かった可能性が議論されている。

寒冷化に適応し、進化したホモ・ネアンデルターレンシスですが、時代や場所によって特長も異なり、まだまだ未解明の部分もあります。
これまでの【調査編】に続き、次回からは【追求・考察編】のスタートです。
※参考図書・サイト
ウィキペディア、「人類の進化史」埴原和郎、「人類進化大全」クリス・ストリンガー

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