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「続・人類の拡散」シリーズ 初期ホモ属~人類初の出アフリカ ホモ・エレクトス①~

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前回のホモ・ハビリス [1]に引き続き、今回はホモ・エレクトス。ホモ・エレクトスは、大腿骨の化石から直立姿勢をとっていただろうと推測され、「直立する人」=ホモ・エレクトスと名づけられました。(以下、エレクトスと呼びます。)

ハビリスと違い、化石の発見場所はアフリカだけでなく、中国やインドネシア、欧州と幅広い地域で化石が発見されているのがエレクトス  化石からは、頭も身体も大きくなり、移動能力に優れた体格のようで、人類最初の出アフリカはエレクトスだと考えられています。

さて、今回の投稿も、
①化石が発見された場所・化石の特徴
②エレクトスの存在時期
③エレクトスの生存環境
④エレクトスの骨格的特長
という点で記事にしたいと思います。


①化石が発見された場所・化石の特徴
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【アフリカ】

オルドバイ峡谷をはじめ、ほぼ完全な形で発見されたナリオコトメ・ボーイ(別名:トゥルカナ・ボーイ)で知られるナリオコトメや、ダカ、コービフォラなど、今のところ化石が一番多いのはアフリカです。
有名なナリオコトメ・ボーイは、年代約150万年前のもので、8~9歳の完全な古人骨。身長はその時点で1.5mを越えていたと推定され、化石からは、アフリカのエレクトスが長身で足が長く、スリムであったことを物語っています。現代の日本人よりも大きいですね。
しかし、なぜ長身でスリムなのか。 🙄
それは、体積当りの体表面積を大きくする=長身でスリムの方が、熱放散を大きくできるので、暑く乾燥した地域では適応的になると考えられています。丸い餅よりも平べったい餅の方が冷めやすいということですね。ちなみに、暑く湿潤な地域では、熱放散がし難いので、身体の発熱自体を抑えるために身体を小さくして適応していく。また、寒い地域では、熱放散を防ぐため、体積当りの体表面積を小さくなり、ボールのようにムックリになるようです。
また、それまでのハビリスに比べて、何故大きくなったのかは、気候変動や脳容量も影響していると思われます。それはまた後ほど記述します。

【中国】
北京市周口店で発見された北京原人や、藍田(らいでん)で発見された藍田原人、雲南省の元謀(げんぼう)原人などの化石が発見されています。
周口店での化石発掘からは、チョッパー、スクレイパー(削器)・尖状器・彫器などが発掘されています。鹿の骨など、発掘された獣の骨は砕かれており、髄の部分を食用にしていたことがわかります。また、人間の骨も砕かれており、頭骨は頭蓋底の部分がこわされていることから、脳味噌も食用していたと思われます。
ちなみに、原人は動物の肉を食べていたという記事をたまに目にしますが、粗末な石器で野生の動物を殺すのは困難で、肉を中心に食べていたとは到底考えられません。(もし私たちが石器のみを与えられてサバンナに放り投げられたとしたら、とても太刀打ちできないことは容易に想像できますよね。)恐らく原人たちは、動物の食べ残した肉片や、動物は食べない骨髄を中心に凌いでいたと思われます。骨髄は美味で栄養が高く、現在でもスープに利用されていますが、骨髄を美味しく感じるように味覚が進化してきたことが、それを物語っていますね。
また、その他には、大量の焼けた榎の実が見つかっており植物を食用としていたことや、焼けた骨が出土されたことから、火の使用も行っていたと思われます。

【インドネシア】
1894年にトリニールで発見された頭蓋骨の破片をはじめ、モジョケルト、サンギラン、サンブンマチャン、ガンドンなど、多数の化石が見つかっています。所謂ジャワ原人といわれる化石ですね。
ジャワ原人は、他の地域の原人と共通項はあるものの、独自の形態的違いもあり、他地域の原人との交流はなかったと考えられています。化石からジャワ原人の進化系譜をみるとサンギラン→サンブンマチャン→ガンドンと進化してきた説が有力で、ガンドンは世界で最後のエレクトスで5万年前まで生存していたと言われています。(一説では2万7千年前という説も!
また、ガンドンのジャワ原人が原オーストラリアの原住民となったのではないかという、他地域進化説がありましたが、骨格的特徴からみて系統的な不整合が多く、今ではほぼ打ち消されているようですね。

【欧州】
1991年・1999年にコーカサス地方のドマニシ遺跡から180-160万年前の頭蓋骨が発見されました。通称ドマニシ原人。ドマニシ原人の発見により、出アフリカが100万年前から、200万年前に引き下げられました。ドマニシ原人はエレクトスではなく、ハビリスを含むより原始的な種とする説もあるようです。
その他にもグランドーリナやセプラノでもエレクトスの化石は発見されています。
以上を、世界地図にプロットするとこのようになります。エレクトスがアフリカを飛び出して拡散した範囲は、概ね地図の青色の範囲まで及んだのではないかと考えられています。
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<東京大学大学院 講義資料より> [2]お借りしました

②エレクトスの存在時期
世界で発見されたエレクトスの化石の年代測定をみると、エレクトスの存在していた時期は、約180万年前から約5万年前!と、ごく最近まで非常に長く存在していたのではないかと言われています。
また、発見された地域毎に見てみると、アフリカで発見された化石のうち最も旧いものでコービフォラの約180万年前ですが、コーカサス地方のドマニシ原人の化石で180-160万年前、インドネシアのモジョケルトで発見されたジャワ原人の化石も同じく180万年前、中国の元謀原人で170万年前?(60-50万年前という説も)の化石となっています。つまり、180万年前にアフリカに出現してから、間もない時にアフリカを出て、あっという間に各地域に拡がっていったことになりますね。
また、新しい化石でみると、ガンドンで発見された10-5万年前のジャワ原人の化石があり、中国周口店で発見された北京原人では新しいもので25万年前、アフリカでもサレで発見された化石で40万年前と、エレクトスは比較的最近まで存在していたようです。以上をまとめると、180万年前ごろにアフリカで出現したエレクトスは、瞬く間に各地域へ拡がり、各地域で長い期間安定して存在し、ごく最近まで存在していたことになります。

少し長くなったので、今日はここまで。
エレクトスの生存環境と、骨格的特長はまた来週記事にします。

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