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雌雄の役割分化12~サルの性収束と雌雄解脱共認

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(※画像引用元 http://blog.sizen-kankyo.net/blog/2009/06/000541.html)
前々回までの記事で、哺乳類一般のオスメス関係について概観しました。
雌雄の役割分化10~哺乳類の集団構造と外圧の違いによる特殊性 [1] 
ポイントは、メスは胎内保育と産後保護により生殖負担が大きくなっていること。オスの性闘争の激しさ、その帰結としての首雄集中婚が一般的であること。母系集団を基本としつつ概ね内雌外雄的な集団形態をとっていること。ただし、オス(首雄)がメスと子どもたちからなる集団と恒常的に同棲しているケースは多くなく、交尾期のみ同棲するケースのほうが多い。

今日はそれらを踏まえて、サルの雌雄分化について考えてみます。
オスメスの関係(性、解脱共認)はどのように進化しているのか。一般哺乳類とも異なる特徴はどのあたりか。
サルのオスメス関係と集団形態は、原猿から真猿への進化過程の中で、単独生活=オスメス別棲→オスメス同棲→集団生活(単雄複雌型、複雄複雌型)へと移行していますが、それは何故なのか。

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■サルのメスの性収束

ひとつ注目すべきは、特に真猿以降のメスの変化です。
よく知られているように、真猿以降のメスは、発情期間が長くなるor頻繁になる傾向があり、また挑発機能(性のアピール機能)も強化されていきます。

下の表は、サルのメスの性的特徴(生殖上の特徴)をまとめたものになります。ポイントは、原猿から真猿に進化するにつれて、季節性から通年生殖になっていること、発情期間が長くなっていること、性周期が短くなっていることです。
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※参考
サル学なんでも小事典(京都大学霊長類研究所著)
サル百科(杉山幸丸著)

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(チンパンジーの性皮腫脹)
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(ボノボのホカホカ)

また挑発機能という点では、カニクイザルやニホンザルは、発情期になると、顔や尻、陰のうなどが鮮やかに赤く色づき、若いメスの場合は、生殖器官周辺が膨脹することもあるのはよく知られています。チンパンジーやボノボでは発情期の性器の肥大(性皮腫脹)。発情期のメスは、性器を肥大化して、オスを誘惑します。乳房も人間と同じように発達しています。
一般哺乳類や原猿段階では、主にフェロモンの匂いや鳴き声でアピールするのが一般的ですが、真猿段階で挑発機能は明らかに進化していることが見てとれます。

つまりサルのメスは強力に「性収束」していったと言えますが、「肉体改造」に至るまでの性収束ですから、相当な背景があったことが想像されます。

実現論第一部:前史 ホ.サル時代の雌雄分化 [4]  

そして、この存在理由=役割を巡って、真猿以降、メスに決定的な変化が生じる。真猿集団は、同類闘争(縄張り闘争)を第一義課題として共認している。本能に基づく外敵闘争なら、メスも闘える。例えばライオンの雌はシマウマを倒せるし、サルの雌もリスを蹴散らせる。ところが、本能に基づく外敵闘争ではなく闘争共認に基づく同類闘争になると、同じサル同士の闘いなので体格が劣るメスは全く戦力にならない存在となり、存在理由を失って終う。その結果、メスは極度に依存性を強め、首雄に強く依存収束する(強固な依存収束回路を形成する)と共に、首雄の性的期待に応望すべく、自らの全存在理由をかけて性機能(挑発機能や発情機能)を発達させてゆく。例えば、メスの尻は赤く膨れ上がっているが、これはオスを挑発する為であり、一定期間だけであった発情期も次第に延長されてゆき、最も進化した真猿では、遂に年中発情することが可能な状態に至っている。

かくしてメスは、首雄に対する性的役割(広義には解脱充足を与えること、その中心が性的充足を与えること)を、自らの第一義的な存在理由とする性的存在となる。従ってメスの脳回路は、存在理由の欠損を原点にした強力な首雄収束⇒性的役割収束⇒性機能収束の共認回路が主軸になっている。首雄との雌雄解脱共認を主回路としているとも言える。もちろん、それが生物を貫く雌雄の差別化というベクトルに合致した、一つの進化形であることは、言うまでもない。

■サルの雌雄解脱共認

もうひとつ検証すべきは、もともとの原モグラ段階、初期原猿段階では、オスもメスも基本的に単独生活で交尾期以外接触をもたなかったのが、なぜオスメスが同棲するようになったのかです。
それを探る上で、現存する原猿の親和行動、雌雄解脱行動を見ていきます。
比較的原始的な原猿であるロリスでも毛づくろいなどの親和行動は見られるらしく、ガラゴ、アイアイといったあたりでは、オスメスの親和行為が見られるようになります。

●原猿の親和行動と雌雄解脱行動
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(飼育下でのロリスの毛づくろい行動) [5]

■ロリス:1頭のオスの遊動域は複数のメスの遊動域に重なる。基本的には単独生活。首雄集中婚。飼育下では、すぐに仲間同士でグルーミングを始める。このときは雌雄の関係はないらしい。

■ショウガラゴ:夜行性で単独生活を主にする原猿類としての特徴を持ってはいるが、社会性も垣間見える。性成熟したあとの娘が周りに縄張りを持てるようになるまで、しばらく親和的な関係を維持する。縄張りオスは若オスに対しては寛容。自身の縄張りの中にいるメスとは一年を通じて親しい関係を持つ。首雄集中婚。娘同居型。

■アイアイ:オスの行動域はメスのそれより大きく、オスの行動域は最低一頭のメスの行動域と重なる。基本的に単独生活だが、ときおりオス同士、オスとメスが一緒に採食、移動する姿も見られる。重複する行動域を持つオスとメスが活動中の1/4程度の時間を共に過ごしたという観察もある。このオスとメスが出会うと、両者は鼻を合わせ、口をなめあって挨拶し、時には遊びのようなこともした。

※参考:
原猿から真猿へ3 ~真猿への進化を、現存する原猿の特徴から探る~ [6]
原猿の生態:レムールの特徴(アイアイ、シファカ、インドリ) [7]

上記事例に見られるように、原猿はオスが複数のメスの縄張りを包摂しながらの単独生活を基本としていますが、メス同士の親和関係、さらにオスメスの親和解脱行動も見られます。進化史上はおそらく原猿後期あたりで、オスメス同棲する種が登場したのだろうと推察されます。

そしてその理由ですが、雌雄の役割分化11~哺乳類のオスメスの庇護依存関係と原猿の雌雄共認との違い [8]でも触れられていますが、一般哺乳類が外敵から身を守るという本能上の要因で集団化したのとは異なり、原猿は本能を超えた不全を解消するために同棲するようになったとするのが有力です。
そしてここで形成された「雌雄解脱共認」が紐帯となってオスメスの集団が形成されていったと考えられます。

真猿になると、オスメスが同棲すると同時に、毛づくろいなどのスキンシップをはじめ親和行動、雌雄解脱行動はより緊密かつ多様に進化していきます。

実現論第一部:前史 ホ.サル時代の雌雄分化 [4]  

最後に、サルの婚姻様式について簡単に見ておこう。原猿は概ね原モグラと同じで、1匹の首雄に2~3匹のメスが集中する首雄集中婚が主流である。同時に注目しておくべきことは、原猿集団は首雄と数匹のメスとその子供たちによって構成される生殖集団であるという点である。もちろん、首雄が闘いを担う闘争集団でもあるが、重要なのは、この集団が雌雄の解脱共認によって成立し、統合されているという点である。もちろん、その解脱共認の中心を成すのは性的な期待と応望の共認であり、この様な雌雄解脱共認は、驚くべきことに闘争集団である真猿集団においてもその核として存続し続けるのである。

 

言うまでもなく、真猿集団は闘争共認によって統合された闘争集団である。しかし、戦力にならないメスたちは、その闘争集団の中央に、あくまでも原猿と同じ雌雄解脱共認の世界(=生殖集団)を形成し続ける。つまり、メスはあくまでも生殖集団を拠点とし(メスの生殖収束)、首雄との雌雄解脱共認を存在の武器とし続けた(メスの首雄収束)。従って、真猿の婚姻制も首雄集中婚が主流で、中央に首雄とメスたちと子供たち、その外側にオスたちという、絵に描いた様な内雌外雄の同心円の隊形を取る。この、あくまでも生殖集団=性的な期待・応望に基づく雌雄解脱共認に収束するメスの習性は、原猿・真猿・人類の極限時代、そして遂に闘争を放り出して生殖だけの家庭を不可侵の聖域として形成した現代に至るまで一貫しており、全く変わっていない。

■サル時代の雌雄分化の特徴(まとめ)
●闘争共認に基づく同類闘争→メスは闘争上の役割欠損から強力に依存収束、性収束。オスは闘争、メスは生殖と解脱充足という役割共認による雌雄分化、雌雄共認が一段と進化している。
●サルの集団は、原猿段階で形成された「雌雄解脱共認」を中心的な紐帯とし、真猿時代の同類闘争に対応する陣形を塗り重ねた内雌外雄の集団形態に進化している。

これらのように「サルの性(オスメス関係)は動物的な本能を超えている=本能を超えた雌雄共認」と言って良いと思います。
そしてそうしたオスメスのありようが、人類の男女関係の基層ともなっているのです。

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