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人類の拡散と進化シリーズ6~人類はどのように言語を作っていったのか~

前回までの記事では、原人・新人段階の観念機能の進化について追求してきました。
今回は、その中でもとりわけ言語機能の獲得過程について迫っていきます。
私たちが日常使っている言語は、人類史の中期(350万年前)頃に、獲得した機能だと考えられていますが、この言語機能がどのように形成され、どのような役割を担ってきたのでしょうか?
観念機能の高度化と合わせてを紐解いていきたいと思います。
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人類はどのように言語を作っていったのか?
仲間と共認を図るものとして言語が作られていき、さらに仲間以外のもの(動物や自然そのもの)にもそれを延長することで、より複雑な言語を獲得していったと考えられていますが、初期の段階では言語はもっぱら同類間の親和充足の為につかわれていて、技術の進歩とは無関係だったと考えられます。
おそらく、言語機能獲得以前から作っていた石器や、果実採集、狩には言語は不要であったと考えられます。主には親和や求愛の時のみに必要であったというのが、先史時代の人々の生活だったのではないか、というわけです。
言語の獲得過程にはどのような段階があったのでしょうか?


1、歌と踊りが発声の基盤をつくる
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①共認充足を高めることに可能性収束した人類
木から落ち、本能上の武器を失った人類は、極限的な飢えと怯えに晒されていました。その絶望感を和らげるために人類はスキンシップなどの解脱・共認充足に生きる希望を見出していきます。しかし、スキンシップだけでは厳しい現実は変わりません。また、スキンシップは、肌と肌を直接触れ合うことで得られる充足感のため、人数が限定されてしまいます。
②歩行訓練が言語機能の土台を作り出した
厳しい現実を突破するために、人類は移動のための歩行訓練を行っていきます。この歩行訓練には、安全に移動するためだけでなく、言語能力の発達を促したと考えられています。
足や手のリズミカル動きが、呼吸の連続的な反復運動を促し、声の発し方を発達させ、言語機能獲得の土台を築いたとされています。
また、歩行訓練は集団で行うため、より多人数の間で解脱充足を与え合う事を可能としました。そして、リズミカルな動作の上に音を組み込んだものが後の踊りへと発展し、狩に行くときの恐怖を払拭したり、人類の最大の解脱充足となりました。



2、より充足を得る為に発声方法の多様化させていく

このように初期の言語は、主として親和共認・解脱共認を図るために用いられていたと考えられます。この親和充足・解脱充足を高めていこうとする中で、人類は多用な発声方法を身に付け、共認していくこととなります。
例えば、男性の「声変わり」も、実はこのような「共認された発声方法」の一つです。もちろん「声変わり」の直接的なきっかけは、二次性徴に伴い声帯の周辺の構造が変化する(喉仏が出る)事です。ただし、このような身体の変化が起これば、必ず「声変わり」をするというわけではありません。喉仏が出てくるような状態になると、子供や女性のように頭声(頭に抜けるような声)で発声すると、しばしば声が裏返るようになってしまいます。先述の「歌」によって親和充足を高めようとする中で、不安定に裏返る声は、恐らく余り好ましいものではなかったのでしょう。そこで、現在の成人男性が発するような胸声(胸の中で響かせるような声)の発声の仕方が徐々に共認されていったと考えられます。現に、その人がどのような音域でしゃべるかは、その人がどのような共認空間(家庭や国・地域)で育ってきたかに大きく左右されます。
「低くて安定した声」に魅力を感じる女性は多いと思いますが、おそらく様々な発声方法が共認されていく中では、「異性により喜んでもらいたい」という意識を土台にした、男女役割共認も強く働いていたのでしょう。その名残は、「声変わり」ばかりでなく、各国の言語に残る男性的表現と女性的表現の違いや、阿波踊りの掛け声などにも見ることが出来ます。
極限的な外圧状況の中、「より充足したい」と思う強い気持ちが、我々人類に、様々な発声方法を獲得させてきました。



3、発声方法の多様性を獲得した人類は、その対象を更に広げていく
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それまではは、自分たちの仲間である人間、同じ群の仲間である個体同士に通用させてきた認知の仕組みを、動物に適用して、動物もまた同じ社会の一員だと思うようになると、動物に人間と同じ心を見いだすことになります。この能力は、狩猟においては非常に重要で、詳細に動物の行動を見てきた人間にとって、そこに心を見いだせば、動物の行動予測が非常に正確にできるようになります。たとえば「雨が降った。動物はこれまでの日照りで喉が乾いているから、水をのみに川の近くにくるだろう」というような予測が可能になります。つまり、動物の行動予測ができることで、狩猟の効率も上がる。同じように自然やモノにも心があると考えることで、社会を自然にまで広げることができるようになり、そこに「自然を動かす神がいる」という概念に結びつくだろうと。



4、自然を対象化することで精霊を見る
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「自然を動かす神」とは、つまり精霊信仰の始まりを意味します。
自然対象への共認を試み、万物の背後に精霊を見る=仲間としての対話を試みる事から、人類特有の観念機能が発達していったのです。
日本では非常に馴染みの深い信仰ですが、例えば「雨乞い」のような自然との対話を試みる儀式というのは世界各地に存在します。
いくつかの事例を紹介します。
・呪術の代表、それが雨乞い
昔、呪術がちゃんと実用に使われていたころ、呪術師の役目で最も重要なのが降雨の保証でした。当然、水は人間の生存にかくべからずものですし、作物の成育にも水がなければどうしようもありません。特に昔は水の供給は主として雨に頼ってたいのですから。雨を降らせる役目を担う呪術師は特に雨師(rain-maker)と呼ばれ、たいへん重要な地位を占めたのです。
それゆえ雨乞いの術は世界中で発達し、呪術の中でこれほど多様な手法をもつものは他に類を見ませんが、雨の降るのをまねることによって雨を誘うという点は一致しています。
ロシアでの呪術ですが、三人の男が神聖なモミの木に登ります。そして、一人目は釜や桶を槌で叩き雷鳴をまねます。二人目は燃える木の枝をぶつけて雷光をまね。最後の者が小枝で桶から水をまき、雨をまねるのです。全体で空に近いところで雷雨をまねることによって雨を引き寄せることができるのです。
日本ではよく、「てるてるぼうず」を軒下につるしますがこれは御坊さんの髪の無い頭と太陽が似ていることによる類感呪術といえるでしょう。



まとめ
このように初期の人類においては、重要な親和充足のみを対象としていましたが、自然や動物の行動を理解し認知したり、より高度な道具を作る為に言語を使用したりするなど、観念で捉えたものを同類間で共有していく手段として修練されていきます。このことにより、集団内で認識を塗り重ねていくことが可能となりますが、これが更なる観念機能の高度化に繋がり、相乗効果で著しい進化を遂げることと成ります。
また、このこころみは自分たち人間のみで通用していた社会というものを、周囲の動物や、さらには自然、モノにまで広げたと言えるでしょう。
次回は「人類はどのように言語を作っていったのか」の第二段を追求していきます

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