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原猿から真猿へ11~類人猿の進化と特徴~

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このデータは中務教授のテキスト [1]からお借りしました。

霊長類の中でも最も進化していると考えられている類人猿ですが、前回の記事で見たように、旧世界ザルとの生存闘争に負けた敗者なのです。霊長類の中では少数派で種数の比較では類人猿は全体の5%しかおらず、人類を除けば、その殆どが絶滅に瀕しています。

旧世界ザルとの戦いに負けた類人猿は、その後どのような道を歩んで現在のような姿になったのでしょうか。今回は類人猿の進化について調べてみました。興味のある方は応援クリックもよろしく御願いします。

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■類人猿の進化

類人猿と旧世界ザルが分岐したのが2500~2300万年前、類人猿の中でテナガザルと大型類人猿が分岐したのが1800~1500万年前、大型類人猿の中でオランウータンが分岐したのが1400~820万年前、ゴリラが800~640万年前、チンパンジーと人類が分岐したのが700~540万年前、チンパンジーとボノボが分岐したのは300~240万年前だと考えられています。

果実食が中心で大型化し当初は生存域を広げた類人猿は、気候が厳しくなり熱帯雨林が縮小する中で、厳しい生存圧力にさらされ、さまざまな適応戦略をとります。小型化戦略をとったのがテナガザル、大型化は維持しながら集団化戦略をとり知能を発達させたのが大型類人猿の祖先、そこからさらに大型化戦略をとったのがオランウータンやゴリラ集団性を高めていったのがチンパンジーやボノボだと考えられます。

テナガザルは枝の先の小さな果実や柔らかな新芽も食べられるように小型化し、その結果、縄張りの面積は縮小され、オスメスの縄張りが重なり、縄張り防衛のためオスメスが同棲するようになったのでしょう。

大型化方向に特殊化したオランウータンやゴリラは、大型化するに連れて単体の闘争力が高まり、集団性は弱くなって群れは縮小・解体されて行きます。

集団性を高める方向で進化を続けたチンパンジーやボノボは、集団規模を拡大し、複雑なコミュニケーション能力を発達させ、知能も最も高くなって行きます。具体的に、現生類人猿の特徴を見てみましょう。

■現生類人猿の特徴

●テナガザル
・小型で手が長く細い枝先に実る果実を採るのに適している。食性はイチジクなどの果実が中心だが、葉も食べる。枝先というニッチに適応した種で、オスメスの体格差は見られない。
・オスメスのペアとその子ども、平均3~5頭の群れで生活。オスメスとも性成熟を迎えると集団から追い出される。
・毎日のようにオスメスのペアで合唱し、周囲のペアや単独個体から縄張りを守る。
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この画像はウィキペディア「テナガザル」 [5]よりお借りしました

●オラウータン
・10~25mの高さの樹上で生活する。主に果実食で、イチジク、ドリアなど果実がたわわに実った大樹を効率よく渡り歩く。
・主に単独生活1~2頭。オスの縄張りに複数のメスがいるが、発情期に形成されるペア、または母子のペア以外は集団をつくらず、単独生活者である。
・おとなオスはのどの共鳴袋をふくらませて、大きな吠え声を発し、なわばり誇示やメスへのアピールを行う。
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この画像はウィキペディア「オランウータン」 [6]よりお借りしました

●ゴリラ
・地上生活が基本。メスは菜食や睡眠のために木に登ることもある。ほとんどが植物食で、草の葉、茎、樹皮などを食べる。果実を食べるために行動範囲を広げることもある。
・メスはオスの体重の半分。単雄複雌群を形成(平均5~9頭程度)。子どもは性成熟するとオスもメスも生まれた群を離れ、おとなのメス間には血縁関係はない。
・メスをめぐるオス間の性闘争は激しく、交尾の邪魔になる子を殺してしまうこともある。オスはドラミングやモックチャジージ(突進)によって、縄張りを守り、メスをひきつける。
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この画像はウィキペディア「ゴリラ」 [7]よりお借りしました

●チンパンジー
・大型類人猿の中ではもっとも広範囲に生息。樹上に登ることも多いが、ナックルウォークで地上を移動する。果実を好んで食べるが小型の有蹄類や猿を狩猟することもある。
・15~100頭の群れを形成しメスは性成熟すると群れを移籍しオスは群れに留まる。同じ集団のオス同士は血縁者であり、血縁関係のないメス間よりずっと親密な関係を持つ。
・おとなオスは頻繁にパントフートと呼ばれるかん高い大音声を伴うディスプレイを行う。同じ集団のオス間では優位性や同盟関係を誇示・確認するためと考えられる。
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この画像はウィキペディア「チンパンジー」 [8]よりお借りしました

●ボノボ
・チンパンジーとほぼ同様な生態だが、アフリカ大陸の中央、コンゴ川に囲まれた赤道直下の熱帯多雨林にのみ生息。地殻変動で分断され独自の進化を遂げた。
・チンパンジーと同じメス移籍オス残留の父系集団を形成するが、おとなのオスメス間に限らず、あらゆる性・年齢の組み合わせで性器を刺激しあう独特の性交渉を行う。
・隔離された環境で縄張り闘争の圧力が衰弱、集団内の性闘争が最大の課題となり、性・親和を強化することで争いを避け、集団を統合する方向に進化したと考えられる。
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この画像はウィキペディア「ボノボ」 [9]よりお借りしました

生態に関する参考文献:サルの百科 杉山 幸丸ほか著 データハウス (1996/06)

■類人猿は母系制か父系制か

類人猿の集団は、特殊化した現存する種だけを見ると、母系制とも父系制とも判断し難いところですが、同じ祖先を持つ旧世界ザルの殆どが母系制であることを考えれば、もともとは母系制の集団であったと考えるのが自然です。人類も未開部族は殆どが母系集団であり、人類とチンパンジーの共通祖先である、原チンパンジーは母系集団であった可能性が高いと思われます。

母系制の集団が、小型化しオスメスの体格差を小さくしたことでペア型に変化したのがテナガザル、大型化し集団の必要性が小さくなり集団が解体されていったのがオランウータンとゴリラ、逆に集団の闘争性をより高めるために父系制に転換したのがチンパンジーだと考えられます。母系制の原チンパンジーは父系制に転換した現生チンパンジーに負けて絶滅したのでは無いでしょうか。

■まとめ

類人猿は最も進化していると考えがちですが、実は旧世界ザルとの闘争に負けた敗者なのです。

厳しい生存闘争に打ち勝つために、集団性を高める方向で進化したのが原チンパンジーであり、集団性を高めるために、類人猿のなかでも最も知能=共認機能を発達させました。

人類が木に登れなくなる先祖がえりという逆境にさらされても生き延びることが出来たのは、原チンパンジーの段階で共認機能を発達させてきたからです。木に登れないという逆境の中で、人類はさらに共認機能を発達させ、観念機能を創り出す事で、なんとか適応することができ、ついには世界中に広がって行きます。

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