2010-05-18

免疫って何(7)~NK細胞の標的であるがん細胞とは何?~

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画像はこちらからお借りしました。
免疫って何(6)では、NK細胞の働きについて書きました。NK細胞が担っている役割は主にがん細胞をアポトーシスさせることです。
NK細胞が何故生れたのか?NK細胞は元々何だったのか?を解明する一つの切り口として、本日はNK細胞の標的であるがん細胞とは何かを追求してみました。現代医学でも、がん細胞の発生原因については未明な部分が多く諸説いろいろありますが、これまでるいネットやなんでや劇場等で交わされた認識も合わせて記事にしたいと思います。

◆◆がん細胞って何?
がん細胞は一般的に、高い増殖能力や細胞分裂の無制限化、多分化能、自己複製能力、他の組織への転移性などの特徴があります。良性と悪性があるように、全てのがん細胞がこれらの能力を備えている訳ではなく、がん化する細胞種にもよりますが、一般的にがん細胞が問題になる場合はこれらの特徴を発揮するところによります。(詳しい働きはウィキペディアを参照。)
そもそも細胞は、その細胞一つで成り立っているのではなく、細胞全体の連携、統合秩序が万全に働くことで成り立っています。それは単純な単細胞から複雑な多細胞へと機能を複雑化させていくほど顕著であり、一細胞の働きは多様な相互関係の中で決められていきます。また、細胞分化の過程からいえば、元々万能性を有している幹細胞から、細胞分化の過程で各々の役割に応じ発現機能を拘禁、抑制させ、ある特定の機能が働くように特化されていきます。
がん細胞とはそういった【全体のなかで役割や寿命が決められていた細胞が変異し、全体を無視して役割を放棄し増殖をはじめた細胞】といえるでしょう。まさに組織の中で暴走した自己中で、人間社会にも通じるところがありますね。万能性を有したがん細胞では、独自の組織を創るものも中にはあるようです。
しかし、何故そのような自己中細胞を生みだすようなリスクのある仕組みがあるのか。人間のように高度に機能進化した種では暴走するがん細胞は天敵ですが、がん細胞を作り出す仕組みには、かつて生命進化にとって必要だったのではないかとの疑問もわきます。

何でがん細胞になるのか? 🙄
ここはまだ諸説色々あり未明部分も大きいですが、幾つか検証してみたいと思います。

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◆◆がん関連遺伝子
まず遺伝子レベルでは、幾つかのがん関連遺伝子(cancer-critical gene)の存在が明らかになってきました。大きくは、原がん遺伝子(proto- oncogene)とがん抑制遺伝子(tumor suppressor gene)の2種類に分けられ、原がん遺伝子が活性化したがん遺伝子ががん化を促すと言われています。また異常増殖を制御しているがん抑制遺伝子の異常によりがん化が起こると言われています。
「薬学研究ファイル~2章がん遺伝子とがん抑制遺伝子」を参照
しかしがん遺伝子は100種類以上ありこれらが密接に関連して働いているため、当然遺伝子だけではがん化の説明は難しいように思います。また、遺伝子異常には通常遺伝子修復酵素によって、変異発生率は数億分の1の確立まで制御されており、遺伝子変異が規定的原因と捉えるには無理があると思われます。
そもそも遺伝子変異が起きるのは何故か。 🙄

◆◆染色体異常
遺伝子異常か染色体異常か賛否両論がありますが、がん細胞は染色体の数や長さなどの異常が必ず起こっているという特徴があります。染色体の分配が上手く行かなければ、当然修復する鋳型もなく、またタンパク質や酵素の働きも変わるため、修復酵素が働く働かない以前に大きな変異を生み出します。
また染色体の分裂は、有糸分裂によって行なわれますが、染色体異常はこの有糸分裂が異常をきたすことによって引き起こされることが最近の研究によって明らかにされてきています。
「染色体の異常な分離ががんを誘発、米クリニックが実験で立証」を参照。
有糸分裂の異常は何故起きるのか。 🙄

◆◆中心体は変異誘発装置
有糸分裂が始まる前には、まず中心体が分裂→複製し2つの中心体が生まれ、その中心体が極移動するところから始まります。そして中心体から紡錘糸を染色体に向けて伸長させ染色体の配分を行ないます。
生物史に興味を持ってもらうシリーズ-3 ~その1.中心体が生命活動の統合役~を参照。
つまり、染色体を均等に分配させるか否かはこの中心体の働きによっており、染色体異常はこの中心体異常ではないかと考えられます。ちなみに、幹細胞の不均等分裂(一つの幹細胞から同じ幹細胞と別の細胞を分裂させる)の仕組みもこの中心体の働きによります。
こう見ると、がん化は中心体異常が根底にあると思われますが、これを中心体異常とみるのか、変異誘発とみるのかが、がん化の意味するところを明らかにするポイントだと思います。なぜならば、中心体は単細胞時代に細胞分裂を司る統合役として、極めて初期段階に安定と変異を両立させる仕組みであり、中心体変異とは、大元から生体機能を組み替えるような、大きな変異を実現させることも可能な仕組みだからです。
【仮説】中心体は「変異誘発装置」ではないかを参照。
がん化は変異可能性の仕組みではないかと捉えられる幾つかの特徴を述べます。

◆◆がん幹細胞仮説
がん細胞の特徴として多分化能と自己複製能をはじめに述べましたが、この能力は幹細胞に非常によく似ています。
人間の体の中には、幹細胞、プロジェニター細胞とよばれる、分化途中の細胞があって、それがいろいろな臓器にフレッシュな細胞を供給しています。幹細胞の分化方向や分裂スピードはニッチ細胞と呼ばれる周辺の細胞と情報交換によって決められており、通常は分裂せず、細胞分裂体細胞の損傷などの異常事態が生じたときに、自己複製と体細胞の不均等分裂を行います。
がん細胞にも、このような幹細胞的性質をもったものがあり、ここが大元になって増殖していくというのががん幹細胞仮設です。幹細胞は細胞を供給する大元なので非常に防御機構が整った細胞ですが、がん細胞が他の組織へ転移できる機能を有しているのもこの幹細胞の性質をもっているからだと考えれば辻褄があいます。
つまり、がん化とは、見方を変えれば万能性を有した幹細胞から変異を誘発している現象とも捉えられます。

◆◆がん細胞が全体の組織に再統合される事例
また、胎児性がん細胞という精巣、卵巣の胚細胞由来のがん細胞は、がん細胞でありながら、色々な細胞に分化するという機能を有しており、ひとつの細胞から神経,膵臓,気管,軟骨,胃,皮膚などの組織ができあがります。実際に、精巣の胚細胞由来のがんが転移先でさまざまな組織に分化してがんが治癒してしまった事例もある様です。

◆◆がん化は、爆弾のような変異加速装置
肉体進化から観念進化へと進化のベクトルを塗り重ねた人類にとって、がん化を進化の可能性とみるのはもちろん行き過ぎた見方だと思います。しかしその一方でがん化とは、万能性を有した幹細胞から再度生体の仕組みを大きく変異させることができる“変異可能性の産物”といえます。
小さな変異は遺伝子の交叉で可能ですが、カンブリア爆発のように急激な機能変化を引き起こすにはこのような中心体由来の変異が必要だったでしょう。がん化の仕組みは、もともと生物が有していた急激な外圧変化に身体の仕組みを大きく変異させる仕組み=「爆弾のような変異加速装置」だと言えるのではないでしょうか。
「原がん細胞」の進化的な意味を参照。

次回は、このようながん細胞をアポトーシスさせるNK細胞が何故登場したのか、その背景を追求します。

List    投稿者 nannoki | 2010-05-18 | Posted in ⑤免疫機能の不思議3 Comments » 

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コメント3件

 36 | 2011.01.10 21:28

全体の流れが図解で示されているので、とても分かりやすいですね☆
こういうのが欲しかったのです(^^)/
また全体的なブログの整理や図解が出来たら、ご紹介をお願いしますね(・<)~☆

 kawait | 2011.01.10 22:53

これまでに作られてきた図解シリーズ、どれも力作で、かつ進化史の繋がりが見えてくるので、教科書として手元に置いておきたくなる資料ですね!
雌雄分化の歩みや、るいネット上で追求されているモンゴロイドの拡散史等も、みんなの力で図解としてまとめられていく事が期待されると共に、みんなの役に立つ資料作りに、今年も注力して行きたいと改めて感じました。

 あこりん☆ | 2011.01.10 23:36

東京のサロンに参加しました、あこりんです☆+゚
やっぱり図解+写真があるとわかりやすいですね~♪
そして、また、一緒に作っていく過程が面白かったです☆
一緒に議論したものがカタチになっているって、嬉しいですね^^
これからも、楽しみにしています☆.。.:*・°
 

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