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免疫って何(4)~マクロファージはこうして食べる

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ラットの肺胞マクロファージ。細胞の表面が複雑に入り組んでいて、この壁で異物をくるみむ(こちら [1]からお借りしました)

前々回の記事 [2]から、

  • マクロファージってどうやって食べてるの?
  • 正常な細胞は食べないの?
  • そもそも食べるってどういう事?
  • どの生物にもマクロファージっているの?

このうち、「どの生物にもマクロファージっているの?」については、前回エントリー [3]で、arincoさんが回答されたので、今回エントリーでは、それ以外の疑問について考えてみます。

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●マクロファージってどうやって食べてるの?

これについては、以前のエントリー [7]が参考になります。
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■マクロファージの食作用
食作用とは、死んだ細胞やバクテリアの様な大きな対象を細胞が取り込む過程のことを言います。

大きな小胞に対象を封じ込め、そのままリソソームと合体し、物質を加水分解酵素により消化。消化後は細胞質に放出されます。
白血球のうち、マクロファージの他、好中球も特にこの食作用が発達しています。

この食作用が、体内に侵入した細菌などの病原微生物を排除するための生体防御機構として重要な役割を果たしているのですね。

次に、掃除屋としてのマクロファージの仕事をもう少し詳しく見てみましょう。
macropharge02.jpg
上図は、マクロファージの表面にある様々な受容体です。マクロファージの表面にはスカベンジャーレセプターという受容体が存在し、認識方法は、様々です。スカベンジャーとは「掃除」のこと。様々な異物に対して、様々な掃除用具が用意されている、と考えたら分かりやすいかもしれません。
しかし、そうすると異物の種類だけ受容体を用意しなくてはならない。そうなると無限になりそうですね。

異物に対して、食機能を活性化→取り込むために多くのレセプターが用意されていると考えた方が良さそうです。

ところで、マクロファージが消化できないカーボンや埃(鉱物など)はどうなるのでしょうか。リソソームでは消化できない異物を食べたマクロファージが死んで異物が体外に放出されると、別のマクロファージがそれを食べ、やがて死んで異物が出てくると、また別のマクロファージがそれを・・・という形で蓄積が永続します。こわー

また、マクロファージはウイルスは食べないという記事が「ブログ de なんで屋@東京」 [8]に掲載されていますが、実はウイルスも貪食します。(特に、抗体が結合したウイルスはマクロファージの大好物のようです)

しかし、HIVウイルス等では、ライソソームに取り込まれた後、エンベロープ蛋白を脱ぎ捨ててライソソームからすり抜け、ヌクレオカプシド(ウイルスの核酸+殻)が、マクロファージの細胞質内に出てしまうようです。こうなると、マクロファージがHIVに感染してしまうため、むしろ体中にウイルスをばらまいてしまうことになります。こわー

●正常な細胞は食べないの?

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「ブログ de なんで屋@東京」 [8]にある通り、細胞の「くっつく・つかず離れず・離れる」を決めているのは、細胞の膜タンパクの引力と反発力の相互作用です。

自細胞は同類であることを認識して「つかず離れず」、異種細胞は「くっつく」ことで、食う食われるを実現しているとも言えます。

マクロファージが、異物だけを食うという機能を実現している以上、同類認識をベースにしていることは明らかです。
しかし、現状ではどの参考書を見ても、同類認識のための機構についてはどこにも書いてありません。スカベンジャーレセプターについて説明したように、どのような異物に対してどのように反応するか、ばかりが研究されていて、同類をどのように認識しているのかの研究が進んでいないのは不思議です。マクロファージをはじめ、免疫の認識機構は、同類認識が根源であるにも関わらず、なぜ? 🙁

「免疫の認識機構は、同類認識が根源」も参考にしてください。
http://www.biological-j.net/blog/2008/03/000431.html [9]

さらに、アポトーシスした細胞は、もとは自分の細胞なのですが、ホスファチジルセリンというリン脂質を出すことが”eat me signal”となり、これを認識して食べるようですね。もし、うまく食べられないと、自己免疫疾患を引き起こします。(参照:http://www.jst.go.jp/pr/info/info64/index.html [10]

上記のように、がん化したり障害を受けた自細胞、細菌、ほこり等の異物、ウイルス等は食べますが、正常な細胞は食べない仕組みが見事にできています。

ところで、マウスで同種異体の移植片に対して、最初に浸潤してくる細胞は、細胞障害性のマクロファージのようです。どのように同種同体でないことを認識しているのか、具体的な機構については今後の解明が待たれます。

●そもそも食べるってどういう事?

マクロファージが食べることとは、上記の通り、まずは細胞同士がくっつくこと。反発していたら始まりません。

マクロファージの場合、食胞に取り込み、酵素で分解して有用なタンパク質・アミノ酸等を摂取して残滓を排出しますが、異物とはいっても細菌やウイルスも一方的に食べられるわけではありません。細菌の方もマクロファージの膜を溶かそうと酵素を出しますので、正確に言えば食い合いをしていることになります。そもそも、単細胞動物でも、互いに相手を消化して取り込もうとします。そう考えると、マクロファージがしていることは、場所が生物の体内であり、害となるものだけを食べるという点が異なるだけで、その点だけ見れば単細胞生物がしていることとさして変わりありません。

あたかも、体内でアメーバと共生しているように見えませんか?しかも、都合良く異物だけを食べてくれるアメーバ。

かなり原始的な生物でもこうしたアメーバを持っていることが分かっています。そう、これがマクロファージのご先祖ではないかと考えられているのです。

次回投稿では、マクロファージの起源について、掘り下げていきます。

【参考】
「生命を支えるマクロファージ」
高橋潔、内藤眞、竹屋元裕共著・文光堂・2001年

「マクロファージの異物認識」
http://www.med.kindai.ac.jp/immuno/qanda.htm#Q13 [11]

「環境研ミニ百科」
http://www.ies.or.jp/japanese/mini/mini_hyakka/45/mini45.html [1]

「飢餓時に同類(死骸)を食う機能」
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=174469 [12]

[13] [14] [15]