哺乳類の起源と歩みシリーズ、前回は哺乳類に特徴的かつ普遍的な性闘争本能と雌雄分化について学びました
■前回のまとめ [1]
哺乳類は弱者であったが故に、胎内保育+産後保護という生殖様式、性闘争=縄張り闘争本能の著しい強化という淘汰適応様式をとった。
哺乳類においては、メスの生殖負担の増大、オスの性闘争本能強化によって、雄雌の役割をより分ける方向で雌雄分化は進んだ。
今日はその続きです。
哺乳類が性闘争本能を強化ことは、サル・人類へと進化していく中でどのような意味を持ったのか?
を探求していきます 🙄
●「実現論 前史:ハ.哺乳類(原モグラ)時代の性闘争本能」 [2]より引用します。
この様に哺乳類は、淘汰適応の必要から性闘争の本能を極端に強化し、その性情動物質によって追従本能(いわゆる集団本能の中枢本能)を封鎖することによって、個間闘争を激化させ淘汰を促進するという淘汰促進態である。しかし、それはその様な大量淘汰態=進化促進態としてしか生き延びることができない弱者故の適応態であり、生命の根源本能たる集団本能を封鎖し、大多数の成体を打ち敗かし餓死させるこの極端に強い性闘争本能は、生き物全般から見て尋常ではない、かなり無理のある本能だとも言える。
■集団本能は生命の根源本能
画像元:Linkstyle [3]
前回 [4]でバラバラに暮らすモグラの縄張りが紹介されましたが、哺乳類の祖先である原モグラも性闘争本能を強化し、集団を作らずに「単体生活」をしていたと考えられます。
個人主義的な現代の感覚から見れば、生き物は単体で生活することが普通だと思うかもしれませんが、それは誤りです。
なぜなら、全ての生命は集団をつくることで外圧に適応し進化してきたからです。
このことは、生命の根源である物質群(遺伝子など)や単細胞生物の活動からも見てとれます。遺伝子をはじめとする生命物質は様々な物質が有機的に連関する相互反応の世界です。また単細胞生物も一般的に考えられているように単独バラバラで生きているわけではなく、バイオフィルムという集団をつくっています。そして単細胞生物が集まって多細胞生物が生まれ、多細胞生物も集団をより高度化させる方向で進化して来た、これが進化史の事実です。(詳しくは過去の記事を参照してください)
画像元:サルの群れ [5]
画像元:バイオフィルム [6]
【参考記事】
・動物が群れを作るのはなんで? [7]
・生物はいつから群れを作るようになったの? [8]
・遺伝子の共同体~進化の歴史は共同性の塗り重ね [9]
●「実現論 前史:ハ.哺乳類(原モグラ)時代の性闘争本能」 [2]より引用します。
だからこそ、同じ原モグラから出発して地上に繁殖の道を求めた肉食哺乳類や草食哺乳類は、進化するにつれて親和本能を強化し、その親和物質(オキシトシン)によって性闘争本能を抑止することで追従本能を解除し、(尋常な)集団動物と成っていったのであろう。このことは、大量淘汰の為に集団本能をも封鎖する異常に強い性闘争本能が、もともと地上での尋常な適応には適わしくないor 問題を孕んだ本能であることを示している。
■性闘争本能強化による適応矛盾⇒親和本能の強化
「尋常ではないor問題を孕んだ本能」であることは、原始哺乳類(原モグラ)の「単体生活」が象徴的です。生物が普遍的に群れ=集団をつくるのは、外圧に適応していく為(環境の変化や外敵から身を守って種を残すため)ですが、それよりも性闘争が第一義課題となってしまうという矛盾です。
この矛盾を乗り越えるために、生命初期から形成されてきた集団本能⇒追従本能を基盤としつつ、親和本能をより強化していったことが哺乳類の進化史から見てとれます。
現存する集団を形成する哺乳類も、それ以前の動物(魚類、両生類etc)の追従本能に比べ、同類同士の親和性(コミュニケーション)をより高めていることは明らかですね。
また、親和本能の強化過程には、哺乳類の胎内保育と産後保護がもたらす親和物質(オキシトシン)が関係しているとも考えられます。
ここで、親和物質「オキシトシン」について少し紹介します。
親和物質「オキシトシン」は、出産時や授乳、スキンシップ時の母親の脳内で分泌されるホルモンとして知られています。
母親の母乳を分泌させたり、子宮筋に収縮を起こさせ、分娩(ぶんべん)を促す働きがあります。
「オキシトシン」は、出産・授乳だけでなく、母と子の絆を強くする働きがあることが分かっています。母親の愛情を多く受けた子どもの「オキシトシン」量は、母親の愛情を受けずに育った子どもに比べて高かったというデータもあります。
最近の研究では「オキシトシン」は、母子だけでなく、仲間との結びつきにも密接に関連しており、相手との警戒心を緩和させ、安心感・幸福感を相互に得る働きがあるといわれています。
画像元:母乳の神秘にせまる「すこやかネット」 [10]
画像元:オキシトシンの知られざる効果 [11]
【参考記事】
・オキシトシンは警戒心を解く [12]
・ドーパミンプラス回路とオキシトシン親和回路の結びつきが、真猿闘争集団を生み出した [13]
●「実現論 前史:ハ.哺乳類(原モグラ)時代の性闘争本能」 [2]より引用します。
しかし、現哺乳類やサル・人類の性情動の強さから見て、やはりこの強すぎる性闘争本能を進化の武器として残し、それが作り出す限界や矛盾を乗り越えて新たな可能性に収束する(例えば親和本能を強化する)ことによって、哺乳類やサル・人類は進化し続けて来たのだと考えるべきであろう。
前述の親和本能の強化が後のサル・人類の「共認機能」の獲得⇒知能の発達へとつながっていくわけです。
※サル・人類の「共認機能」は、生命の根源本能たる集団本能、そして哺乳類時代の親和本能が基盤となって形成されています。
今回のまとめ
哺乳類は弱者ゆえに性闘争本能を極端に強化し、その矛盾・限界を乗り越えて、新しい可能性に収束することによって進化した!
適応の仕方=進化の方向は決して一直線ではなく、常に何らかの欠陥を孕んでいるものだったと言えます(完全なる適応態など存在しない)。しかしそのこと自身がより高い適応へ向けた進化の原動力にもなり、時々の状況に応じた可能性収束の多面的な塗り重ねが生物進化を形成してきたと言えるのでしょう。