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オスとメスの違いって何(7)~これまでの中間まとめ2~

シリーズ「オスとメスの違いって何」の中間まとめの第2編です。
m132: では、その雄が獲得した変異は、種としてどのように継承されていくのか?
それを(5)では扱いました。



(5)変異こそ生物史の中心命題 [1]
雄の遺伝子情報は精子によって伝達されますが、雄が獲得した変異情報はHY抗原を介して精子に伝わり、次世代へと継承されていくと予測されます。精細胞から精子が出精するまでの流れは、精巣(細精管)→精巣上体→輸精管→精嚢→出精の経路ですが、注目されるのは精巣上体です。外圧(変異)を伝達するHY抗原タンパク質も、おそらくこの精巣上体で分泌され、抗原抗体反応により精子中心体へ作用していると思われます。

何故中心体かというと、
中心体が細胞分裂の司令塔を担っている。 [2] 
精子のみに存在する器官である。 [3] 
から。
中心体はRNAとタンパク質の複合体であるRNPで構成されており、遺伝情報を担うことが出来ます。中心体や免疫機能などが、外圧情報(新たな適応機能)の記憶、情報伝達に用いられているのでしょう。

では、その中心体がどのように変異を継承していくのか。
tyuusintai002.jpg [4]
【仮説】中心体は「変異誘発装置」ではないか [5]

細胞の「癌化」と捉えれば、中心体異常は生物にとってマイナス要因でしかないが、より根源的に考えてみると、この中心体異常と言うのは、細胞(遺伝情報)の「変異誘発」である可能性も考えられる。
良く知られるように、DNAは2重螺旋構造で非常に安定的である。遺伝子変異(突然変異)は遺伝子複製時のコピーミス、トランスポゾンやレトロポゾン等の内部要因と、紫外線による損傷等の外部要因によって引き起こされるが、通常遺伝子修復酵素によって、変異発生率は数億分の1の確立まで制御されている。
しかし、中心体異常による遺伝子分配のミス→突然変異の誘発は、修復酵素でも修復できない。ごく一部が変異を受ける程度なら、変異した遺伝子を”カット”した上で、DNA2重螺旋構造の鋳型利用によって、遺伝子を正常な形に修復できるが、そもそも正常に遺伝子が分配されなければ、修復も何もない。
人類の癌の発生率の高さから考えて、中心体異常によって引き起こされる変異率は相当に高く、先に挙げた内的要因・外的要因による遺伝子変異よりも、中心体異常によって、細胞が癌化する=変異する可能性の方が遥かに高いことが伺い知れる。(当然、癌の増加の問題は様々な人工物質との関係性を探る必要はある)
~中略~
以上から仮説的に考えると、「中心体」(もっと広義には細胞分裂装置)は、それそのものが生物における「変異誘発装置」としての役割を担っている可能性があるのではないだろうか。(原核生物におけるZリングによる細胞分裂でも同様のことが言える)
このように考えると、「中心体」にも、安定機構と変異誘発機構の両方が備わっている可能性がある。

刻々と変化する外圧に適応するためには、「安定」と「変異」の両立が不可欠で、哺乳類に至っては雌が安定存在、雄が変異存在と役割分化を促進させることで、より外圧への適応力を高めてきたといえる。

ここで改めて雄と雌とは、どのような進化のベクトルに貫かれてきたのか?
それを(3)では扱いました。

(3) オスメス分化の塗り重ね構造 [6]
オスメス分化が起こる前夜では、どのようなステップに進化してきたのか。
オスメス分化の塗り重ね構造 [7]

多細胞動物の生殖系の進化のステップは、3段階。
 Ⅰ 保存と仕事の分化(殖・産分化)
 Ⅱ 精卵分化
 Ⅲ 雌雄躯体分化
Ⅰ 保存と仕事の分化(殖・産分化)
・真核倍数体生物は、保存(減数分裂システム:生殖細胞)と仕事(単純分裂システム:体細胞)へと機能を分化。これが多細胞化の起点。
・種の保存上、最も負担の大きい生殖を専門に分離することによって、体細胞系列を高度に機能分化させていくことも可能となった。
(中略)

元々は生殖も仕事も同じ細胞で行っていたのを、負担の大きい生殖を担う生殖細胞と、仕事の高度化を担う体細胞に分化したのが第一ステップ。

Ⅱ 精卵分化
・精子と卵子に配偶子が分かれたのは、運動と栄養の役割分担により、受精過程(出会い)と発生過程(エネルギーを要する)の両方に適応的な形態への分化。
(※精子と卵子に配偶子が分化したのはなんで?リンク)
(中略)
・精卵分化の本質は、精子:変異配偶子と卵子:保存配偶子への分化であることが見えてくる。変異と保存の分化、これがオスメス分化の原基となる。
・これは、変異+不変の組み合わせによる、生物的に安定な生殖システムとも言える。
(※生物史から学ぶ『安定』と『硬直』の違い161317)

生殖細胞をさらに運動(精子)と栄養(卵子)の役割分担させ、変異+不変=安定の両立を仕組みを作り上げたのが第二ステップ。

Ⅲ 雌雄躯体分化
・雌雄の躯体が分化していく背景には、摂取機能の高度化⇒種間圧力上昇・・・という循環的な外圧上昇構造が前提にある。
・体細胞系列の高度化の要請と同時に、各々の配偶子、生殖巣、生殖器etcを緻密につくりあげるためには、精子をつくる躯体(オス)と卵子をつくる躯体(メス)を分化させたほうが合理的。
・また、動物ゆえの種間圧力⇒摂取能力高度化・・・に対応するため、幼体保護と防衛力上昇の要請が加わる。これは必然的に(保存性に特化した卵子を持つ)メスの生殖負担の増大、そして、それとバランスするようにオスの闘争負担が増大させる方向へつながる。これは脊椎動物の進化史とも符合する。
・これらにより、動物の雌雄の躯体は分化していったと考えられる。
★オスとは何か? メスとは何か?
・変異性の上に、闘争能力(役割)が塗り重ねられた存在=オス
・保存性の上に、生殖能力(役割)が塗り重ねられた存在=メス

このように、外圧に適応するためオスメスの役割分化を特化する形で進化を塗り重ねてきたわけですが、哺乳類はこのベクトルをさらに推進する方向で進化してきました。

次回は、これら進化のベクトルに沿った哺乳類固有の特徴を扱いたいと思います。

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