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最古の人類「アルディピテクス・ラミダス」

昨年の12月18日にscience誌から「Breakthrough of the Year 2009」が発表され、「アルディピテクス・ラミダス」が一位に選ばれました。
15年前に化石が発見されながら、復元・分析に時間がかかりようやく全貌が明らかにされました。ラミダス猿人とも呼ばれるこの原始人類は当時の森林で発見され、サバンナ発生説が否定的になりつつあることは既に知られていました。
当ブログ2009年04月28日の記事にも触れられています。
「人類誕生:イーストサイドストーリーの草原説から、森林説へ」 [1]
さて、今回発見された身体的特徴とは?

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「Kawai’s Anthropology Homepages」 [5]からの引用です。

440万年前のアルディピテクス・ラミダス骨格「アルディ」の全貌がついに発表
 1994年に発見以来、脆い骨をラボで慎重に取り上げる作業と復元・分析作業が続けられていたアルディピテクス・ラミダス骨格の全貌が、2日付のアメリカ科学誌「サイエンス」で、異例の11本の記事特集を組んで発表された。報告したのは、アメリカ、エチオピア、日本などの国際的研究チーム。
 ラミダスは、カリフォルニア大バークリーのティム・ホワイト教授の率いる国際チームに加わっていた東大教授(現)の諏訪元氏が、92年にエチオピアのアラミスで初めて上顎第3大臼歯を発見し、人類起源を440万年前に遡らせたことで知られる。その2年後に見つかった全身骨格は、未発表のまま、長く謎に包まれていた。
 頭蓋がきゃしゃで、犬歯が小さいことなどから成人女性と推定される「アルディ」と名付けられた骨格は、頭蓋、腕、足、骨盤など約120点から成る。生存時の身長は約120センチ、体重約50キロと推定された。チームは、同地区で別のラミダスの化石36個体分、110点の標本も見つけており、これらの分析も併せて行われた。
 アルディの特徴は、予測されたように類人猿とヒトとを寄せ集めたようなモザイク状で、足指はチンパンジーほど器用ではないが物を把握する構造をしており、ヒトの足と異なり、アーチ状になっていない(tsuji1注:土踏まずがない)。にもかかわらず骨盤上部から二足歩行に適応した構造をしていた。しかし骨盤下部は類人猿に似た特徴も残す。顎や歯の特徴から、果実や木の実、昆虫、小動物などを食べる雑食性だったと見られる。
 こうしたことから、ラミダスは樹上性で、直立二足歩行はできたが、後続するアウストラロピテクス・アファレンシスほど二足歩行に適応していなかったと見られる。動物相から当時の環境は森林だったと考えられており、アルディはもっぱら樹上生活しつつ、時折、地上に降りて二足歩行していたようだ。
 なおアルディにナックル・ウォーキングの可能性を認められなかったという。

この二足歩行説には専門家からも異論はあるようですが、仮に事実だとすると、足の指が先祖帰りする前に二足歩行を始めていたことを意味します。ラミダスの腕はチンパンジーのように長くないので、木登りや枝から枝へと渡り歩くのに有利な体型のようです(チンパンジーは腕だけでぶら下がりながら枝から枝へ渡り歩く)。種間闘争に敗れたのか、森林が縮小したため等、何か恒常的に樹上生活が出来なくなる状況の変化を考えねばなりません。

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「手を使うか、足を使うか。アルディの足(右)は木の枝をつかめるように親指が他の足指に向かい合える形態になっている。 CREDIT: ©2005, JAY MATTERNES 」

画像(二枚とも)とキャプションはscience [6]より

 アルディの脳サイズは、アファレンシスより小さい300~350㏄と推定され、チンパンジーと大差ない。
 アルディ化石は、これまで最古とされたアファレンシスの雌個体「ルーシー」の318万年前より120万年も古く、成人では最古の骨格の1つと言える(同じエチオピアで発見されたアファレンシス女児「セラム」の年代は約330万年前)。こうした分析から、樹上性を残す不完全な直立二足歩行者であったラミダスは、ヒトの大きな特徴である犬歯の縮小が明瞭に起きていたことが判明した。ヒト化は、犬歯の縮小が先行していた可能性を示唆するものである。
 また雌雄の複数個体の分析から、ラミダスの雌雄の体格差の小さいことも明らかになった。ラミダスの社会構造を占う材料と言える。
 なお偶然なのだろうが、アルディもルーシーも、そしてセラムも雌であることは興味深い。
 これまでに起源的人類としては、700万年前の「サヘラントロプス・チャデンシス」頭蓋化石、600万~580万年前の「オロリン・ツゲネンシス」の大腿骨化石、580万~520万年前の「アルディピテクス・カダッバ」の手や腕の骨、顎骨片などが見つかっているが、いずれも全身の一部でしかない。これらより一段新しいラミダスだが、完全な骨格の全貌が明らかにされたことは極めて意義深いと言えよう。
 なお諏訪氏は、アフリカでの人類化は700~1000万年前に溯る可能性がある、と指摘している。

また、歯の構造にも特徴がありますね。エナメル質の薄さから昆虫ややわらかい木の実を食べていたとされています。さらに犬歯の縮小はラミダス猿人以降の二足歩行の猿人に共通する特徴のようです。ダーウィンによるとチンパンジーなどの類人猿は全て犬歯が発達しており、専らオスの性闘争に使われていると指摘しています。
今回、ケント州立大学のC. Owen Lovejoy氏は犬歯の縮小化を性闘争を回避し一夫一婦制になることで雄が子育てに参加するようになったと唱えています。
しかし、婚姻形態が集団構造を規定することを彼は理解しているのでしょうか。その後の猿人~人類が核家族的に集団が縮小することはありませんでした。むしろ性闘争を回避し外敵闘争に注力するために集団共認を強化したと考えるほうが自然でしょう。犬歯の縮小化はそれだけ厳しい外圧に晒されていることを意味し、その点ではラミダス猿人が人類の祖先である可能性を示唆しています。
今後のさらなる解明に期待しましょう。

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