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実現論勉強会シリーズ4 哺乳類(原モグラ)時代の性闘争本能

生物が雌雄に分化して以降、その差異を促進させ、お互いの役割を担う事で調和を保ち、進化を実現してきました。しかし、地球環境の外圧変化は一定ではありません。想像を超える外圧変化による逆境が生じる度に、変異を促進し、また同時に変異による矛盾を孕みながらも、それを乗り越えてきた歴史が生物にはあるのです。
実現論.前史 ハ.哺乳類(原モグラ)時代の性闘争本能 [1] より抜粋

 約六五〇〇万年前、巨大隕石が地球に衝突し、
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これに誘発されて火山の噴火が始まり、地球は粉塵に包まれて、急激に気温が低下した(この時期を特殊寒冷期と呼ぶ)。氷河期の場合には数万年かけて徐々に気候が変動する為、それに応じて植物も動物も移動してゆくことができるが、特殊寒冷期には短期間に気温が急低下し、北方に生息していた動物たちはあっと言う間に絶滅、南方にいた大型動物も、(たとえ親が生き残っても)卵を孵化することができず、殆どが絶滅した。
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その中で、水中や温泉の岩陰など比較的温かい所に生息していた動物たち(ワニ・トカゲ・ヘビなど)は辛うじて生き残り、同様に地中に潜ることができた原モグラも特殊寒冷期をくぐり抜け、生き残ることができた。  

辛うじて生き残った生物。大多数が絶滅してしまっただけに、生き残った生物にとってはかつて無いほど広大な縄張り獲得のチャンスが広がっているように想います。しかし、現実はそこまで甘くはありません。

 生き残った動物たちは、この環境変化を契機に一気に適応放散し、多種多様な種が登場することになった。(適応放散とは、生物史上繰り返し現れる現象で、危機的状況に陥ると新たな可能性に収束することによって、一気に多様な適応態が出現することをいう。)大型爬虫類の絶滅という環境変化によって、小型爬虫類や猛禽類や初期肉食獣が多様化し繁殖していったが、この環境は(相手が10m級の大型爬虫類であるが故に、体長10~20cmのモグラは充分に「隠れ棲む」ことができたが、相手が小型爬虫類や肉食獣になると)モグラ類にとっては、大型爬虫類の時代以上に危険な生存状態となった。この危機的状況ゆえに、モグラ類は急速かつ多様な適応放散を遂げ、現在に繋がる様々な哺乳類が登場することになる。(それらの中で、樹上逃避することによって適応していった原モグラが原猿である。)

 
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  初期哺乳類のアデロバシレウス
我々人類の祖先にあたる「原モグラ」にとって、本当の意味での逆境は生き残ったあとの世界だったんですね。
  一気に多様な適応態が出現
⇒ 種間闘争圧力が急上昇
⇒ 敗者は新たな縄張りを求めて新世界に適応するしかない!
⇒ さらに新機能を獲得=変異促進
→ 新たな外圧・逆境の登場
という繰り返し。

 原モグラは、土中に隠れ棲むしかなかった弱者であり、それ故にいくつかの特徴的な本能を発達させている。中でも哺乳類の哺乳類たる最大の特徴は、弱者が種を維持する為の胎内保育機能(それは、危機ゆえに出来る限り早く多くの子を産むという、危機多産の本能を付帯している)である。しかし、卵産動物が一般に大量の卵を産み、その大部分が成体になるまでに外敵に喰われることによって淘汰適応を実現しているのに対して、胎内保育と産後保護の哺乳類には、適者だけ生き残ることによって種としてより秀れた適応を実現してゆく淘汰適応の原理が働き難くなる。そこで、淘汰過程が成体後に引き延ばされ、成体の淘汰を激化する必要から、哺乳類は性闘争=縄張り闘争の本能を著しく強化していった。実際、性闘争を強化した種の方が適応力が高くなるので、性闘争の弱い種は次第に駆逐されてゆく。かくして哺乳類は、性闘争を極端に激化させた動物と成っていった。モグラの場合、性闘争に敗け縄張りを獲得できなかった個体(=大半の個体)は、エサを確保できずに死んでゆく。  

哺乳類の性闘争はとても激しく、相手を殺さないまでも、両者が血まみれになるまで個体間で争いあいます。
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一体、何故そこまでして同類間で争うのか?
この理由も、進化により生じた矛盾を解決する為のものだったんですね。
胎内保育により安定的な生殖を実現した一方で「淘汰適応され難い」という矛盾を解決すべく、成体同士で闘う事によって、より適応力の高い種の存続を実現して行く為。

 もちろん、性闘争=縄張り闘争の本能は、脊椎動物の前から殆どの動物に存在しているが、哺乳類は、この性闘争(=縄張り闘争)本能を淘汰適応の必要から極端に強化した動物である。その場合、種を存続させる為には、闘争存在たるオスがより闘争性を強めると共に、メスたちの外側で外敵に対応した方が有利である。従って、とりわけオスの性闘争(=縄張り闘争)本能が著しく強化されることになる。現哺乳類の祖先と考えられているモグラの場合、メスも性闘争(=縄張り闘争)をするが、オスの闘争はより過激で、その行動圏はメスの3倍に及ぶ。従って、概ね3匹のメスの縄張りを包摂する形で1匹のオスの縄張りが形成される。これが、哺乳類に特徴的な首雄集中婚の原型である。  

 こうして、哺乳類のオス・メス関係を特徴づけるオスの性闘争の激しさと内雌外雄の摂理(本能)、および群れの全てのメスが首雄(勝者)に集中する首雄集中婚の婚姻様式(本能)が形成された。このオスの性闘争の激しさと内雌外雄の摂理と首雄集中婚は、多くの哺乳類に見られる一般的様式であり、もちろんサル・人類もそれを踏襲している。
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(学者の中には、首雄集中婚を「ハーレム」と呼び、オスの天国であるかの様に表現している者がいるが、それは全く見当違いである。オスはメスよりも数倍も厳しく淘汰されるというのが事の本質であって、その帰結が首雄集中婚なのである。)  

さて、胎内保育+性闘争によりなんとか調和を保ち、集団様式を確立したかのように見える哺乳類ですが、しかしやはり性闘争そのものは多くの問題を孕んだままでした。
種の存続課題に対し、同類間で争い、敗者を淘汰させるという仕組みそのものは、かなり無理のある適応戦略だったのです。生き残る為にはより多くの同類他者を産み殖やして行く、というのは理に適っていますが、敢えて自ら同類の数を減らす戦略を取る、というのはやはり尋常ではありません。

 この様に哺乳類は、淘汰適応の必要から性闘争の本能を極端に強化し、その性情動物質によって追従本能(いわゆる集団本能の中枢本能)を封鎖することによって、個間闘争を激化させ淘汰を促進するという淘汰促進態である。しかし、それはその様な大量淘汰態=進化促進態としてしか生き延びることができない弱者故の適応態であり、生命の根源本能たる集団本能を封鎖し、大多数の成体を打ち敗かし餓死させるこの極端に強い性闘争本能は、生き物全般から見て尋常ではない、かなり無理のある本能だとも言える。だからこそ、同じ原モグラから出発して地上に繁殖の道を求めた肉食哺乳類や草食哺乳類は、進化するにつれて親和本能を強化し、その親和物質(オキシトシン)によって性闘争本能を抑止することで追従本能を解除し、(尋常な)集団動物と成っていったのであろう。
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このことは、大量淘汰の為に集団本能をも封鎖する異常に強い性闘争本能が、もともと地上での尋常な適応には適わしくないor 問題を孕んだ本能であることを示している。しかし、現哺乳類やサル・人類の性情動の強さから見て、やはりこの強すぎる性闘争本能を進化の武器として残し、それが作り出す限界や矛盾を乗り越えて新たな可能性に収束する(例えば親和本能を強化する)ことによって、哺乳類やサル・人類は進化し続けて来たのだと考えるべきであろう。

すごいですね!
性闘争も、元々は種(集団)として生き残る為に獲得した変異(本能)であり、より集団の安定(秩序)を保つために、徐々に封鎖していったんですね。性闘争本能を強化したからこそ、それを上回る強い親和本能を形成して行った。
進化を重ねる度に矛盾を抱え、さらにそれを乗り越える為に新機能を塗り重ねていく。逆境にめげず、成功体験の塗重ねを続けてきた成果(親和機能など)は、今でも我々人類にとって重要な充足源として活かされています。
オキシトシンは警戒心を解く [8]
男女の性差(1) ~ホルモンの違い~ [9]
どんな状況においても、諦めずに進化を続けてきた生物の歴史。学ぶたびに、感謝の念が沸き起こってきます。
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