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生物はいつから群れを作るようになったの?

みなさん こんにちは
前回の 「動物が群れを作るのはなんで?」 [1] では、
動物における「群れ」は外圧に適応する上で不可欠な要素であること、
そしてサル・人類の集団形成の意味
について見てきました。
今日は、動物の「群れる機能or本能」は、生物史のどの段階まで遡ることができるのか考えてみます。

脊椎動物の系譜を遡って・・・哺乳類→両生類→魚類と見ていくと、特殊環境下に置かれた場合を除いて、通常は(規模の大小の差はあれ)「群れ」を形成していることが分かります。
では、もっと前はどうなのか?
考えてみると「多細胞生物」という存在様式自体、「細胞の共同体≒細胞の群れ」の構造をとっています。それぞれに機能分化した細胞同士が集まり調和的に機能することによって身体生命が存続されるわけですから。
こう考えると、生命進化の歴史において「群れ≒共同体・共生体」という構造は、非常に深い次元に存在することが分かります 😉
では、多細胞生物よりももっと前・・・単細胞生物はどうなっていたのでしょうか?
「単細胞生物というくらいだから、 こんな感じで自然界では一個一個自由勝手に動いているんだろう」と思いますか 🙄
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画像はコチラ [2]よりお借りしました
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さて単細胞生物(細菌)たちの実態はどうなのでしょう
るいネット『バイオフィルム~微生物共同体 [6]』より引用。
(夏井睦氏のWebページ:新しい創傷治療 [7]より、『バイオフィルム入門 -環境の世紀の新しい微生物像-』の書評を抜粋・転載します)

 現実の細菌たちは「一匹一匹でウニョウニョ」ではないらしい。単細胞生物はバラバラに自由気ままに生きている訳ではないのだ。バイオフィルムを作って共同生活をしているのだ。
 つまり,バイオフィルムとは「細菌共同体」であり,自然界普遍のものである。決して,カテーテル内面にたまたまできるものではないのだ。医者が問題にするはるか大昔から,細菌たちはバイオフィルムを作って共同生活をしていたのである。

『バイオフィルム』という言葉自体は聞き覚えのない方もいらっしゃるかと思いますが…
実は至るところにあるんです
洗面台の蛇口付近やお風呂のバスタブのぬめり、人間の虫歯の原因である歯垢もバイオフィルムです
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画像はコチラ [8]よりお借りしました

1.世界にはいろいろな物があるが,物には必ず表面がある。表面があれば必ず微生物が付着する。
2.「表面」と水が接するところでは,複数の細菌が表面に付着して微生物共同体を作る。これがバイオフィルムである。
3.バイオフィルム内では複数種類の微生物が共存している。
4.金属でもプラスティックでも,それを水(媒質)の中に入れると,その直後からイオンと有機分子の付着が始まり,ついで細菌の付着が起こり,次第に増えていく。細菌は細胞外多糖(Extra cellular polysaccharides, EPS)を産生し,他の細菌・微生物が共存できる環境を作る。

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バイオフィルムは微生物と細胞外ポリマーの“蜘蛛の巣”からできている。
画像はコチラ [9]よりお借りしました

5.細胞外多糖類からなるマトリックス内部には複数種の細菌コロニーが存在している。コロニー間を密度の低いポリマーが埋め,そこは水が自由に移動するwater channelsとなっている。これは多核細胞生物体に極めて近い構造体であり,それがバイオフィルムの本質である。

「多核細胞生物体」とは多細胞生物の前身みたいなものです 😉
バイオフィルム内は、微生物が集まったコロニー(集落)と細胞外ポリマー(つながり)で構成され、ポリマーは各コロニーを繋ぐ水路としての役割を担って、隅々まで行き渡り栄養供給をしています。

6.バイオフィルム内の酸素濃度,イオン濃度はwater channelからの距離,表面からの距離で異なり,μmのオーダーで勾配を作っている。このため,多様なニッチ(生態的地位)が生み出され,好気性菌と嫌気性菌など異なった代謝系を持つ細菌がμmオーダーで棲み分けている。

バイオフィルム内のある微生物の老廃物が、他の微生物の養分となったり…
フィルム内では微生物同士が連携し、全体としてエネルギーの循環を行っているようです
例えば、好気性細菌の作り出す酸素と嫌気性細菌の作り出す硫黄が結びつき硫酸イオンが形成され、硫酸還元菌のエネルギー源となります。

7.バイオフィルム内では他種類の細菌が高密度で生息していて,お互いに代謝産物やエネルギー,情報のやりとりをしていて,遺伝子の交換も起こっている。このことで,単独の細菌にはない機能を生み出すと同時に,多種多様な環境変化にも対応できるようになる。

遺伝子の交換までしているんですね
バイオフィルム内の生物たちは、外圧状況の変化や個体の密度をある化学物質を使って情報交換し、遺伝子交換や酵素の発現を群れで制御しているようです。

8.抗生物質のMIC,MBCは単一の浮遊菌で求められた値であるが,これは現実の細菌の生存形態(バイオフィルム)とは異なるものである。細胞レベルの浮遊菌の薬剤感受性はバイオフィルムに適応できないのは当然である。

抗生物質は一般的にある特定の菌にだけ作用するという選択毒性をもっていますが、バイオフィルム内で耐性遺伝子を相互に交換すれば、より耐性の高い細菌群が生まれ、抗生物質が効かなくなってしまいます
「単細胞生物」のもつ「一匹でウニョウニョ」しているイメージは全く違うようですね
単細胞生物は生きるために身を寄せ合い、お互いに情報を交換しながら必死になって生きのびようとしているのがわかりました。
こうした現象を見ていくと、生物はその歴史の始まりから群れていたのではないでしょうか。
単細胞生物しかいない始原から、共生体・共同体=群れとして適応・存在していたのが生物の摂理だと言えるでしょう
■参考投稿■
原始生命と群れ【仮説】 [10]
生命進化とは“共同体の階層化”ではないか [11]
群れの中で発現する遺伝子 [12]
抗生物質→細菌の耐性→プラスミド [13]

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