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植物上陸を促した『逆境』とは、なにか? (2)~外圧としての環境

間が開いてしまいましが、前回( リンク [1] )の続きです。前回は、
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植物上陸を促した『逆境』とは、なにか? (1)
■1:植物の上陸はいつごろか?

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でした。今回は、
■2:外圧としての環境   です。
古生代における「生物にとっての環境」を端的に述べているような資料は、中々見つかりませんでした。不可逆的な地球環境史を単純化した法則でまとめることは、極めて困難だということでしょか? 「地球と生物の共進化」という捉え方からもわかるように、生物は一貫して受動的な存在であるわけではないので、とうぜんですね。めげずに、「『陸上植物の起源――緑藻から緑色植物へ』 ㈱内田老鶴圃 1996年発行」 から関連情報を抜粋してみます。

◆オルドビス紀のO2濃度は、現在と同じレベルになった◆
>有機炭素と黄鉄鉱の続成作用と風化作用の速度をもとに、大気中の02濃度の変化について新しいモデルが考案された。それによれば、O2量がほぼ現在のレベルに達したのはオルドビス紀であり、ごく最近はこのレベルの上下で変動していると推側される(Berner&Canfielld,1989)。
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◆古代の湖沼と海洋の化学成分◆
> Beerbower(1985)は、証拠はほとんどないけれども、デボン紀以前の時代には現在より貧栄善湖が多かっただろうと考えていた。
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>不確かな点はあるが、蒸発残留岩の研究結果から海水の成分はこの9億年間ほぼ一定であったらしい(Holland,1986)。
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>塩分濃度は現在の海水に似ていたようである。陸上植物はオルドビス紀以前には出現しなかったと考えられているので、この新しい証拠は、現生の植物の祖先が水中から陸上へと生息域を変える前に、現在の海水に似た化学組成の海洋がすでに何百万年にもわたって確立していたことを示している。

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 ▲東北大学理学部自然史標本館>ツアーコース>「地球生命の進化」(1) [6]

◆オルドビス紀後期には氷河があった◆
>オルドビス紀後期(4億4千万年前)には、以前は不凍だった地域に広範囲に氷河作用がおこったという注目すべき地質学的証拠がある。この時期の水河の消長は更新世の場合と同じスケールでおこった。現在のアフリカのサハラを中心として広がっていた水塊が急速に成長したのは、おそらく異常な速さでおこったプレート運動が引金になったためであろう。海面は70mも下がり浅海は消滅し、その結果ある生物グループでは50%が、また12%の科が絶滅してしまった。(中略)
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> 古地磁気のデータによると、南極には次のように大陸や海洋があったという。カンブリア紀には海洋が広がり、オルドビス紀には現在の北アフリカがあった。デボン紀にはアフリカ大陸の中央が移動してきており、ついで古生代後期までには現在の南極大陸が位置するようになった。
> オルドビス紀後期に始まった広範な氷河作用は、南極に大きな犬陸塊(ゴンドワナ)の端があったことと関係していたらしい。熱容量は大陸では小さいが海洋では非常に大きい。オルドビス紀後期に南極の近くにゴンドワナがあれば、大陸付近の地域で夏の温度上昇率は低くなったと考えられる。海岸地域特有の高湿度が水河の成長に拍車をかけ、地球軌道のミランコビッチ周期(*)変動に起因する冷夏のあいだに水河が発達した可能性が大きい。このモデルから大陸が極から800 km 以内のときは、夏の温度は水点下近くになって氷河が誕生したと推定される。

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 ▲「NATIONAL GEOGRAPHIC> 太古の世界 > オルドビス紀 [7]」より

◆オルドビス紀後期の陸上生物相と土壌◆
>地表はラン色細菌、真核藻類、地衣類におおわれ、これを食べる動物がいた。
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> 現存する土壌ラン色細菌のグロエオテーケに良く似た化石ラン色細菌のエオシネココックスが太古代にいたことから、生物活性のある土壌皮殻がすでにその時代に存在していたと推測される(Wright,1985)。 Retallak(1985)は、オルドビス紀後期の古土壌と、シルル紀後期とそれより若い時代に2箇所の古土壌を比較した。いずれもおそらく季節によって乾燥することがあった半湿性の亜熱帯地域の堆積岩や変成岩上で形成されたものである。若い上壌が構造をよく保存していたのは予想どおりであった。ところが意外にも、オルドビス紀後期の古土壌の構造は、維管束植物が生えていなかったものにしては想像よりずっとよく発達していたのである。
> 最も驚くべき点は、なんらかの動物が存在したという証拠になるような幅3~16mmほどの深い穴が多数見つかったことである。そこには植物の大形化石や微化石(たとえば胞子)はいっさい発見されなかった。したがって、このような穴居性動物は食物源を陸生藻類や地衣類に依存していたのではないだろうか。他にも初期の古土壌の産出地は知られているので、それらの研究が進めば最も原始的な陸上生物社会の性格がさらに明らかになるであろう(Retallack、1985)。

★考察

◆絶滅の原因
大陸氷河の周囲の海域では海水が冷却されて沈下し、その海水が海を循環する。そうすると、(イ)それまで存在していた無酸素水塊が消滅したり規模縮小するか、(ロ)生物に不可欠のリンなどの元素が酸素に富む水塊で除去されて、「海洋の栄養失調」を来たす。
第1回目の絶滅はそれが原因で、無酸素水塊の周辺に適応していた筆石や三葉虫や腕足動物などの遠洋性浮遊生物が絶滅した、とされる。第2回目の絶滅は、黒色頁岩の堆積・希有金属の濃集という事実からすると、氷河が終焉して海進が生じて急速に温暖化したときに無酸素水塊の形成されることが原因、とされる。
<「絶滅古生物学」平野弘道著/岩波書店刊より抜粋>
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◆オルドビス紀末(4.4億年前)の「逆境」とは?
[第1回目の絶滅時:無酸素領域の縮小or部分消滅]
酸素適応が出来ずに逆境を逃れて無酸素領域に生息域を移して放散適応した種は、無酸素領域のにダメージを受けて絶滅。
[第2回目の絶滅時:無酸素水塊]
次いで、酸素適応して制覇種になった種も、氷河が終焉して海進が生じて急速に温暖化したときに無酸素水塊の形成されることによるダメージを受けて絶滅。
相反する「逆境」に共通するキーワードは「酸素」と云えそうである。(リンク [8] )

「オルドビス紀後期の氷河期には、海面は70mも下がり浅海は消滅した。」ということですから、浅海を生息域としていた生物群にとっては、最大級の『危機』であったことでしょう。浅海を食物連鎖における上位者からの逃避域としていた海生植物は、逆境の中で(真水適応をして)汽水領域へ、さらには汽水領域の魚類の外圧を受けて(地上適応をして)上陸へというストーリイが成立するかも知れません。
少なくとも、それまで生物の死骸などの有機物質の沈殿した海底が地上化したということは、水陸の境界領域に(今日でいう)植栽基盤が広域にわたって現出したということが、植物の地上進出の可能性を高めることになったいえるでしょう。オルドビス紀にはすでに真核藻類や地衣類におおわれていたと考え合わせると、シルル期の水陸境界領域には「植物の地上進出」を可能にする環境条件は整っていたといえるでしょう。
しかし、重力に抗する維管束やCO2による光合成能力、世代交代する生殖のシステム、根からの養分吸収能力、などなどを獲得するに至る『強烈な危機的外圧』とは何であったのかは、まだ鮮明にはなっていません。
    つづく     /by びん

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