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最強生物 クマムシ!?

こんにちわ。arincoです。
皆さん、突然ですがクマムシという生物、ご存知でしょうか?
クマムシは、知る人ぞ知る生物で最強生物とも称されており、注目されている生物です。その勢いは、クマムシゲノムプロジェクトというゲノム解析やNASAでも研究が進められている程です。
 
かわいらしい?形態でファンも多いようですが、本日は、このクマムシに焦点を当てて見たいと思います。
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クマムシ 
画像はこちら [1]からお借りしました。
一体何が「最強」なのでしょうか?気になりますよね~。
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さて、まずは、基本情報から整理していきましょう。
分類
 所属部類は、ゆっくり歩く様から緩歩動物門と言う部類に属している無脊椎動物です。緩歩動物には、クマムシしかおりません。その数750種とも1000種以上とも言われています。「ムシ」という語がつくものの、昆虫ではありません。成体でも体長は0.1~1.0mmほどです。ちっちゃい!!
骨格
 キチン質の厚いクチクラで覆われている外骨格生物です。クチクラは、キューティクルとも呼ばれていて表皮を構成する細胞が、その外側に分泌すことで生じる丈夫な膜の事を指します。
 クチクラ(キューティクル)は、様々な生物において表面を保護する役割を果たしており、髪の毛もキューティクルで覆われています。
呼吸等
 クマムシには、幼生期はなく、脱皮を繰り返して成長します。
また、呼吸器系、循環器系はなく、酸素、二酸化炭素の交換は、透過性のクチクラを通じて体表から直接行います。
 口から胃、直腸からなる消化器系を持ち、排出物は顆粒状に蓄積され、脱皮の際にクチクラと一緒に排出されます。
生存場所
 世界中至るところにいます。陸上性の種の多くは蘚苔類などの隙間におり、半ば水中的な環境で生活しています。また、樹上や枝先のコケなどにも住んでいるようです。
 水中では水草や藻類の表面、海産の種では間隙性の種も存在しています。水中で生存している割には、遊泳力はありません。うーん。不思議。
 ここまでは、クマムシが最強と呼ばれる所は見当たりませんね。まあ、通常の特徴です。敢えて特徴的な所を挙げると「どこにでもいる」という事でしょうか。これって意外にすごい事ですよね。
 しかし、クマムシの最強たる所以は、何処にでもいることではなく、(当たり前ですが)クリプトバイオシスという機能を有している事なのです。
 クマムシは、ある種の自然外圧を受けるとクリプトバイオシスに移行するのですが、そもそもクリプトバイオシスとはどのような機能なのでしょうか。
 クリプトバイオシスは、自然外圧の種類により4つに分類されます。
乾燥   :乾眠   (アンハイドロバイオシス, Anhydrobiosis )
低温   :凍民   (クライオバイオシス  , Cryobiosis )
高浸透圧 :塩眠   (オズモバイオシス   , Osmobiosis )
酸素不足 :窒息仮死 (アノキシバイオシス  , Anoxybiosis )
つまり
 クリプトバイオシスとは、自然外圧が高まると、その外圧に適応する為に無代謝状態(乾眠、冬眠等)になる事が出来る機能という事です。 クマムシにとって好適な環境になるとクリプトバイオシスは解除され、再び通常の活動状態に戻ります。
 
 通常、クマムシの寿命は1ヶ月から1年ほどですが、乾眠状態のクマムシは9年間生きのびれます。生物史上初めて宇宙空間で10日以上生存した。という報告もあります。かつては、100年生きられるという話もありましたが、さすがにそれは噂だけだったみたいですね。
 
 クリプトバイオシス状態となると、寿命だけでなく、様々な外圧状況に対して非常に強くなります。以下に乾眠時の耐外圧適応度を示します。
    活動状態     乾眠状態
高温     50℃      151℃
低温    -253℃      -273℃
真空     -       5 × 10-4Pa
高圧    1000 atm    6000 atm
科学物質  耐性なし   アルコールなど
放射線   7000 Gy    7000 Gy
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クリプトバイオシス
画像はこちら [5]からお借りしました。
クリプトバイオシスの仕組
 それでは、クリプトバイオシスは、どのような仕組で実現しているのでしょうか?クリプトバイオシスの中でも特に、乾眠がよく研究されているので、乾眠の仕組からクリプトバイオシスの仕組を見ていきたいと思います。
 まず第一に、クリプトバイオシスはトランスフォーマーみたいに瞬間的に変化出来るわけではありません。乾眠状態には、十数時間をかけてゆっくりと乾燥させなければあっけなく死んでしまいます。つまり瞬間的な変化には、耐えられないと言う事ですね。
 
 乾眠状態のクマムシは、樽(タン)とよばれる特徴的な形態を示し、体内の水分量は1~3%にまで減少することが知られています(活動状態ではおよそ80%)。要するにミイラ化する。という事ですね。
通常水分が無くなると細胞がバラバラになり組織破壊を起こして死に至ります。しかし、クマムシは、死なない。なぜでしょうか?
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乾眠のフロー
画像はこちら [5]からお借りしました。
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通常状態とタン状態
画像はこちら [6]からお借りしました。
 その鍵を握るキーワードが、トレハロースです。
 クマムシは、乾燥状態になると、体内に存在するグルコースをトレハロースに作り変える事が出来ますが、このトレハロースが乾眠する為に非常に重要な機能を有しているのです。
 しかし、トレハロースに関しては、まだ詳しい事は分かっていないというのが現状です。なので、現状考えられてる構造を提示します。
 まず、トレハロースは、グルコースと同じ糖類(二糖)に属し、通常、常温ではニ水和物として存在している、極めて高い保水力を持つ分子です。
 
 この物質は、
①水溶液の粘性が分子の大きさから考えられる値より高い、
②ガラス化温度も高いことと、
③水分子の配置きわめて近い分子構造をもつ
 ことから、
生体由来物質の表面に存在する結合水と置換して、水が少ない状態でも水和構造を維持する事が出来、水分が媒体となっている変化、反応の速度を著しく下げる効果があると考えられています。 
 結果、グルコースからトレハロースに変化する事で細胞内の結合水だけを残して水和水や遊離水が全て取り除かれ、最終的には、酸素の代謝も止まり、完全な休眠状態になります。これで乾眠の完成です。
 トレハロースは、保存の切札として、注目を浴び、研究が進められています。クマムシゲノムプロジェクトやNASAの研究もこの一貫の様ですね。
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画像はこちら [7]からお借りしました
 以上の様に、クマムシの持つ「最強」能力、クリプトバイオシスを見てきましたが、彼らは、体を大きくする事ではなく、様々な外圧に対して活動停止=クリプトバイオシスする事で自然外圧に適応してきたと考える事が出来ます。
 
 環境の悪い時は活動せず、自分達に都合の良い環境になったら活動する。
 
 ウイルスとイタチゴッコをしている我々とは違い、有る意味自然の摂理に適った適応方法なのではないかとも感じました。

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