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群の中で発現する遺伝子

この間微生物の世界について調べてきました。そこで感じる事は、『生命はその始原から群として適応していた』という視点です。
殆どの生物関連の書籍は、『生物は単細胞生物から始まり、その後多細胞化の道を歩んだ』と進化の過程を説明しますが、それは生命原理からみると、非常に誤解を招く表現ではないでしょうか。
『生命はその始原から群として適応している』という認識は、未だ未解明な生命活動・機能を解明していく上で、欠くことのできない認識となると考えます 😀
それは遺伝子についても同様です。

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1.異なる生物間の遺伝子の水平移動
通常の遺伝は親から子へと移動し、親と少し違う遺伝子によって構成された子が新たな外圧に適応していくと考えられています。
しかし原核生物の中には、異なる生物間での遺伝子の水平移動によって、(分裂や突然変異とは異なる)変異を生み出すシステムが存在することが知られています。
(参考投稿)
・ウイルスによる変異
ウイルスと原核生物の共存関係 [4]
・プラスミドによる変異
プラスミドはどこからきたのか?1-プラスミドってなに?- [5]
プラスミドはどこからきたのか?2-不完全な生命同士の遺伝子交換 [6]
原核生物を分類した進化系統図というものが専門書に記載されていますが、各々の生物が共通の祖先から枝分かれしたことを示す従来ツリー型では説明できないほど、原核生物群は遺伝子の水平移動を頻繁に行っていたと推測できます。

2.群の中で発現する遺伝子
単細胞生物群による外圧適応様式は、決して単体で行われるものではなく、バイオフィルム内の微生物共同体内で行われることが知られています。そして、上記『遺伝子の水平移動』もこのバイオフィルム内で行われていると考えられています。
(参考投稿)
微生物から学ぶ生命の摂理 ~生命はその始原から共同体として存在してきた?~ [7]
そして、非常に面白い事に、バイオフィルム内で生息する生物の遺伝子の発現は、決して単体で作動するのではなく、バイオフィルム内の群の状況によって発現可否が決定されるのです生物同士で情報伝達して遺伝子の発現を調整することを「クオラムセンシング」と呼びます

>原核生物は拡散性のシグナル分子を分泌し、近くの微生物がそれを感知することによりコミュニケーションを行っている。オートインデューザーとよばれるシグナル分子がグループ全体の遺伝子発現を変化させる。オートインデューザーは、ある程度高濃度に存在して初めて感知される。遺伝子発現変化を起こすに足るオートインデューザー濃度を実現するためには、狭い領域の中に多くの生物が十分な量のオートインデューザーを分泌する必要がある。
ルーイン細胞生物学より


>「クォーラムセンシング」では、バクテリアは会話をして周囲に自分の仲間がどのくらい存在するかを確認しています。バクテリアは「言葉」の代わりに「オートインデューサー」と呼ばれる化学物質を使って相手とコミュニケーションをとっています。仲間が周りに集まったことを察知して一斉に行動を起こすのですが、病原性菌の場合、毒素の放出などの病原性因子を制御していることがわかっています。つまり、一匹では歯が立たない相手でも、仲間が集まったところで一斉に攻撃を仕掛ければ、大きな相手でも倒すことが出来るという、バクテリアの考え出した知恵なのです。
リンク [8]


原核生物は、バイオフィルム内の生物同士の密度によって、(合成酵素を関与させて)オートインデューザーを生成し、その濃度がある閾値に達すると、バイオフィルムを形成する遺伝子や毒素を放出する遺伝子等が発現するという特徴を持っているようです。
つまり、始原生命である原核生物は、バイオフィルム内で生息する同類同士の位置関係を認識しながら、周囲の状況変化に応じて遺伝子を発現させ、外圧適応しています。
原核生物は、決して単体で生きているのではなく、微生物共同体として一つの生命体を構成し、遺伝子や酵素等の諸機能もそれに連動して作動しているのです。

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