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セミは素数を知っている?

閑さや岩にしみ入蝉の声
 
 
これは松尾芭蕉が山形の立石寺で詠んだ有名な句ですね。
この句からどんな蝉の鳴き声を思い浮かべますか?
松尾芭蕉が実際に聞いたのは
チーーーーーーーーーーー
ニイニイゼミの大合唱です。
(句が詠まれたのが現在7月13日頃であることからニイニイゼミになるようです。)
蝉は夏の季語にもなっていて、日本人にとっては夏の虫といえばセミ。
今回はそんなセミの中でもアメリカ東部にいる13年や17年を周期に発生するセミの話しです。17年セミ(下写真)は土の中に17年いて、成虫になると2週間で死んでしまいます。
200px-Magicicada_fg07.jpg
これらのセミはある地域には13年や17年に一度しか発生しません。
なぜ13年や17年なのでしょうか?
その数字が素数でもあったため数学者も巻き込んだ解明が進められています。
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特定地域に大量発生するのは、圧倒的な数で捕食者が食べつくせないことと、繁殖がしやすくなることで種の保存に有利からではないかと考えられます。現に、ある地域では70億匹という大量のセミが発生し、鳥やトカゲは食べ切れません。
(参照:動画「Cicada Invasion」 [4]
ではなぜ周期が素数なのか?
その疑問に対しては、静岡大学の吉村先生の説があります。
1.大昔、気候は温暖だった。
このときは、大人になるまでに6~9年かかっていた。
2.その後地球は氷河期になり、とても寒くなった。
生物の成長の速度は有効積算温度に比例するので、一般に温度が低くなると成長の速度が遅くなる。
3.それぞれ12~18年周期のセミは、各地にいた。
北の地域はより寒いので、周期の長いセミが多く、南の地域は幾分暖かかったので周期の短いセミが多かったでしょう。(12年蝉、14年蝉、15年蝉、16年蝉、18年蝉は化石として発見されているらしい。どうして化石で年数がわかるかは不明ですが…。それらの種は絶滅してしまったということです。)
4.例えば、北のある地域で、15~18年周期のセミがとなりあって生息しているとします。
すると、下記のような周期で同時に地上に現れます。
15年ゼミと16年ゼミはその最小公倍数240年周期、
15年ゼミと17年ゼミはその最小公倍数255年周期、
15年ゼミと18年ゼミはその最小公倍数090年周期、
16年ゼミと17年ゼミはその最小公倍数272年周期、
16年ゼミと18年ゼミはその最小公倍数144年周期、
17年ゼミと18年ゼミはその最小公倍数306年周期、
また、下の図は、15~18年ゼミそれぞれの最小公倍数を表で表したものです。
17年ゼミの最小公倍数が大きいのが分かります。
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5.そこで、同時に地上に出るとどうなるでしょうか?
そうです、混ざってしまいます。混ざったセミの子供はどうなるでしょう?
6.同時に地上に出ると、交雑(異なるもの同士が交尾をし子孫を残すこと)が起こる。
そして、その子孫は滅んでしまいます。これは、お互いの周期のセミにとって大きなダメージになります。
7.このようなことを何千年何万年と続けていきます。
やがて15や16、18周期のような同時に地上に出やすい(最小公倍数の小さな)周期のセミは滅んで、17周期のような同時に地上に出にくい(最小公倍数の大きな)周期のセミが残ったというわけです。
素数周期ゼミの不思議 [5]」参照)
■交雑は出現年数の分散を招く
アメリカの17年ゼミの集団から突如13年ゼミが出現したことがあるようです。そこから推察されるのは、交雑が起こると出現する年数を複数種類もった子孫が増えていく、つまり、出現年の分散が起きて、各年の数が減っていくのではないかと思われます。限定された地域で毎年のように出現するようになれば、出現できる数は限られていきます。
■13年と17年の違いは、幼虫期間の摂食抑制期間により調整されている。
>13年ゼミと17年ゼミの周期の違いは2齢期にのみ見られる。17年ゼミは2齢期に4年間の摂食抑制があり、13年ゼミよりも長い6年が必要になる。<(アメリカの周期ゼミの部屋 [6]より)
つまり、成長期間を調整し、発生のタイミングを調整している。セミの幼虫は飽くまで成長が完了したらその年のある季節に這い出す。
■13年とか17年とか、セミは年数をどのように認識しているのか。
>17年セミがいる。このセミの幼虫で、15年間を地中で過ごした幼虫をとりだし、1年に2回花をつけるように操作した桃の木の根から栄養を取らせるようにした。すると、セミは1年早く地上に出てきた。<(福岡弁護士会 [7]より)
セミの幼虫は地中で木の根から樹液を吸って生きている。この樹液の量は季節によって変動する。だから1年の周期を認識することができる。
人間が桜を見て春を感じるように、セミの幼虫は樹液の量で季節を感じているのです。

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