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植物の病気って?2

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前回は、植物の病気の原因について、その8割を占める菌類と植物の関係をお話ししました。
今回は、植物が病気に対して、どのように防御しているのかをお話ししましょう。私たち動物界の種とはどんなふうに違うのでしょうか・・・。
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この記事は、明治製菓のホームページなのかにある「Dr.岩田の『植物防御機構講座』」 [4]さまを参照し、主として要約させていただきました。大変有用な内容を公開してくださっています。お礼を申し上げます。
植物の防御機構
植物には病原菌に対する防御機構が、大きく二つあります。
前回の記事で触れた「潜在的な抵抗性(予防的防御機構)」が一つ目、「免疫システム(臨戦的防御機構)」が二つ目です。それぞれを『静的抵抗性』『動的抵抗性』と呼びます。
静的抵抗性
1.物理的抵抗性
植物の表皮の厚さ・硬さは物理的抵抗性の代表です。また、葉の表層にある水をはじく性質をもったワックスなどからなる層は、胞子の発芽や侵入に水を必要とする病原菌に対して物理的抵抗性になります。
2.化学的抵抗性
植物成分の中には、抗菌性を示すものが数多くあります。これを高濃度で含有する場合は化学的抵抗性になります。お茶飲料で有名になったカテキン、ワインのタンニン酸に代表されるポリフェノール性物質だけでなく、ニンニクの臭い成分である含硫黄物質アリシン、カラシナの辛味物質アリルカラシ油なども抗菌作用があります。また、青酸化合物と糖が結合した青酸配糖体は、2000種を超える植物に含まれています。これは、病原菌の侵入などにより細胞が傷つくと、酵素により青酸(=猛毒)が遊離して病原菌の生育を阻害します。(未熟ウメを食べて中毒を起こす事故はこのため)
静的抵抗性のひとつひとつの要素は、抵抗性としては小さなものでしかありませんが、いくつかが組み合わさると病原菌の侵入や増殖・蔓延に影響を与えるようになります。
動的抵抗性
植物は、病原体と接触・侵入を受けると、自分の身を護るため複雑でダイナミックは反応を開始します。この反応は、感染を受けた細胞だけでなく全身におよぶことがあり、ときには形態の変化を伴うこともあります。
現象としては、
1.過敏感反応
2.パピラの形成、
3.感染特異的蛋白質の形成
4.抗菌物質(ファイトアレキシン)の産生
5.細胞壁の硬化

などがあります。
これらの反応は、どれかひとつだけが個別に進行するのではなく、常にいくつもの反応が複合的に進行します。また、活性酸素の生成のように感染後に数秒~数分単位で開始される反応もあれば、抗菌性物質の産生や細胞壁の硬化のように数時間~数日単位を要する反応もあります。
1.過敏感反応 (反応スピード:感染後 数秒~数分)
過敏感反応とは、病原菌が侵入しようとするときに宿主植物が示す急激な生理・生化学的、形態的な変化のことです。
病原菌が侵入を開始すると間もなく、原形質流動が停止し、続いて被侵入細胞が死亡すると共に侵入した病原菌も生育を停止します。これを「過敏感細胞死」と言います。
過敏感細胞死に先立って、主に原形質膜に存在するNADPHオキシダーゼに依存する活性酸素が生成することが知られています。活性酸素は、宿主細胞と病原菌の両方に細胞毒性を示すと共に、防御遺伝子活性化のメッセンジャーとして機能することが報告されています。活性酸素種の生成には急激な酸素消費を伴うことから、この現象は「オキシダティブバースト」と呼ばれています。
過敏感細胞死は、感染を受けた細胞が病原体を道連れに自発的な細胞死をするものです。これは、移動等の危機逃避手段をもっていない植物が体の一部を犠牲にすることで個体全体を護るという、進化の過程で獲得した優れた戦略といえるでしょう。
2.パピラの形成 (反応スピード:感染後 数秒~数分)
表皮(クチクラ)から侵入した病原菌の侵入菌糸のまわりを取り囲むように宿主細胞内に乳頭状の構造物が作られることがあります。これを「パピラ」といいます。
パピラは、宿主細胞の細胞壁と細胞膜の間に、カロース(グルコースが重合した多糖)、フェノール類、珪酸などが沈着して出来たもので、病原菌が侵入するときに急速に成熟することから病原菌の侵入に対する物理的な防御壁と考えられています。
3.感染特異性蛋白質の産生 (反応スピード:感染後 数時間~数日)
病原菌の感染に伴って宿主植物では非常に多くの遺伝子発現か誘導され、誘導された遺伝子に対応する蛋白質が合成されます。これらの中に、感染特異的蛋白質と呼ばれる一群の蛋白質があります。
感染特異的蛋白質には、糸状菌に抗菌的に作用すると考えられるグルカナーゼ、キチナーゼ等の他に、リグニン化(木化)に関与するパーオキシダーゼなどが含まれています。
まだ機能が不明な蛋白質もありますが、感染特異性蛋白質は、病原菌感染に対する抵抗性の一部として機能していると考えられています。
4.抗菌物質:ファイトアレキシン の産生 (反応スピード:感染後 数時間~数日)
多くの植物は、病原菌が感染するときや感染した後に新たに低分子の抗菌性物質を合成し、それを植物体内に蓄積させます。この抗菌物質のことを「ファイトアレキシン」と言います。ファイトアレキシンは、健全な植物には含まれていないという特徴があります。また、植物体内で合成されるファイトアレキシンの種類は植物種で決っています。
5.細胞壁の硬化 (反応スピード:感染後 数時間~数日)
植物に病原菌が感染すると細胞壁がリグニン化や糖蛋白質の架橋形成により硬くなります。硬くなった細胞壁は、物理的な防御壁として病原菌の菌糸伸展を防ぎます。
全身に伝わる感染緊急シグナル
植物は、一部の組織で病原菌の感染を受けると緊急シグナルを全身に発信し、未感染組織に防御体制を準備させることが出来ます。感染シグナルを全身に伝える伝達経路は複数あることが知られています。
最もよく研究されているのが全身獲得抵抗性(SAR)シグナル伝達経路です。SARは、過敏感反応を引き起こすような病原菌が感染すると、感染の局所で生じたシグナル物質が師管組織を経由して全身に移動し、結果として植物が様々な病原菌に対して全身で抵抗性になる現象です。SARでは、植物ホルモン的な成分であるサリチル酸が重要な役割を果します。
SARにおける全身移動性シグナル物質の正体は長い間謎でしたが、2007年にそれがサリチル酸メチルであることがわかりました。感染部位でサリチル酸がメチルエステル化されてMeSAとなり、移動先ではエステラーゼの働きによりサリチル酸に戻ります。
SAR以外の抵抗性誘導シグナル伝達経路としては、抗菌性蛋白質ディフェンシンの蓄積を伴うものや、根における感染刺激が全身に伝えられる誘導全身抵抗性が知られています。これらの抵抗性誘導では、サリチル酸の蓄積は認められず、エチレンとジャスモン酸が関与する共通点があります。ジャオスモン酸は、傷害シグナルの伝達にも関与する植物ホルモンです。
・・・・・・さて、そろそろお腹いっぱいですよね。これくらいにしようと思います。
何か事が起こっても、逃避など移動することが出来ない植物。そのため、私たち動物界の生物種とは違った防御機構を備えていることがわかりましたね。
特に、静的抵抗性は植物に特徴的な適応戦略。免疫機能頼みの適応戦略をとった私たちにはないものです(昆虫は植物と似ているらしい)。植物がもつ動的抵抗性は、おそらく、静的抵抗性を軸に進化していった機能と考えています。
ぞれでは。
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