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免疫機能の進化に学ぶ-3-リンパ系ができたのはなんで

T細胞とB細胞が作られているリンパ系ですが、名前を聞いたことはあっても、その働きやどんな器官があるのか意外に良く知られていません。リンパ系はどのような働きをしていて、なぜ造られたのでしょうか。
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この画像はリンパの働き・リンパの病気 [4]からお借りしました。


■リンパ系って何

リンパ系は血管系を補う、重要な役割をしている体液の循環系です。しかし、全ての動物がリンパ系を持っているわけではありません。リンパ系は脊椎動物の軟骨魚類以降に発達させた器官で、閉鎖血管系の進化と並行して登場します。リンパ系の進化についてはこちらをご覧ください「T細胞とB細胞の進化的起源に関する考察 [5]

閉鎖血管系というのは人間と同じように、心臓から送り出された血液が、動脈、毛細血管、静脈という閉じた血管系の中で循環している体液循環システムです。脊椎動物以外の動物で閉鎖血管系を持っているのはタコ、イカぐらいで、それ以外の動物は軟体動物も昆虫も開放血管系といわれる体液循環システムを持っています。開放血管系は、心臓から送り出された血液が管を使わずにそのまま細胞間に流れ込んでいき、細胞間を通って心臓まで戻ってくるシステムです。開放血管系を持っている生物はリンパ系を持っていません。

リンパ系には3つの主要機能があります。一番基本的な機能は、血管から流れ出た体液のうち、血管に回収しきれずに細胞間に残った体液を、集めて血管に戻す役割です。そのほかに、腸の血管では吸収できない大きな分子の脂肪を吸収する役割もあります。そして、もっとも重要な機能が、B細胞・T細胞に代表される免疫機能です。リンパ系についてもっと知りたい方はウィキペディア:リンパ系 [6]をご覧ください。

■なんでリンパ系ができたの

リンパ系の免疫機能は獲得免疫と呼ばれる最も進化した免疫機能です。その特徴はT細胞とB細胞の働きで、特定の病原菌だけを狙って大量に攻撃できることです。詳しくは獲得免疫の概要 [7]をご覧ください。

なぜ、リンパ系は軟骨魚類以降の脊椎動物に登場したのででしょうか。リンパ系の免疫機能の特徴は選択的大量攻撃機能ですから、脊椎動物以降は体内で病原菌などが大量に繁殖するようになり、それに対抗する必要が高まったことを示しています。なぜ、軟骨魚類以降の脊椎動物は病原菌に感染し、大量に繁殖する危険性が高まったのでしょうか。

■高い運動能力の獲得が、細菌に弱いという弱点を生み出した

軟骨魚類の特徴は素早い遊泳力です。海中の生存競争が激化する中で、高い運動能力を獲得したのが軟骨魚類以降の脊椎動物なのです。高い運動能力を獲得すると、なぜ免疫機能が必要となるのでしょうか。

原因の一つは、運動能力向上に代表される身体機能の高度化のために、神経系と筋肉系を発達させたことが上げられます。身体機能を高度化させることは、様々な情報を細胞同士がやり取りすることであり、細胞同士が情報をやり取りする受容体が増えることになります。受容体は細菌などが取り付く接点にもなりますから、身体機能の高度化は細菌感染の危険性も高めることになります。

さらに、運動機能の高度化のために血管循環系も機能を高め、心臓を発達させ体中に酸素や養分を素早く運ぶようになります。これは、感染した病原菌なども素早く体中にばら撒くことを意味しています。

神経系筋肉系の発達と、血管系の発達があいまって、脊椎動物は高い身体機能を獲得した一方で、細菌ウィルスに弱いという宿命を抱えることになったのです。

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