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人類の進化と脳容量の拡大 6 ~食生活の変化と脳容量の拡大~

こんにちは、NISHIです。
全6回でお送りしてきた「人類の進化と脳容量の拡大」シリーズも、今回でとりあえず最終回。
第6回の今回は『食生活の変化と脳容量の拡大 ~通称『焼き芋』進化仮説』についてお送りします。
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画像はこちらから頂きました。㈱クリヤマ [1]
えっ 焼き芋?
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食生活=栄養素の観点から見たとき、脳には3つの特徴があります。

1.再生能力がない
 組織や臓器は絶えず分解と再生を繰り返して恒常性を維持しているが、脳組織は決して再生されず、一瞬でもエネルギーや酸素の供給が途絶えると回復不能に陥る。
2.大量のエネルギー源と酸素を消費する
 人類の場合、体重のわずか2%に過ぎない脳が、全体の1/4以上のエネルギー源と酸素を消費している。

3.エネルギー源として利用できる燃料はブドウ糖に限られる。

 他の臓器や組織が、脂質やアミノ酸、有機酸など様々な代謝中間物をエネルギー源として利用するのに対して、脳組織は基本的にブドウ糖以外のエネルギー源を受け付けない。

つまり「脆弱で大食漢であり極端な偏食家」と言うのが『脳の特徴』なのです
脳容量の増大と、増大した脳の維持には、大量のブドウ糖の供給が絶対的に必用な条件となりますが、問題になるのが、動物にとってブドウ糖は簡単に手に入らない栄養素であるということです 🙁
ブドウ糖は動物だけでなく、微生物にとっても必用不可欠な根源的エネルギー源で、自然界では植物の光合成によって炭酸ガスと水から合成され、植物中に”でんぷん”と”食物繊維”として蓄えられます。草食動物や雑食動物は植物を食べるので、このでんぷんや食物繊維からブドウ糖を吸収できるように思いますが、動物はいずれもこれらを分解する消化酵素を殆ど持っていません
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光合成の仕組み
画像はこちらから頂きました。家庭教師のあすなろ [5]
動物は、でんぷんや食物繊維の分解の大部分を腸内細菌に依存しています。通常、動物は大腸の上部にある「盲腸」を巨大化させて、そこに繊維類やでんぷんを分解する分解酵素を生息させているのです。しかし、残念ながらこの腸内細菌による分解システムは効率が悪く、脳が必用とするだけのブドウ糖を摂取することは期待できません
その為、動物は植物からブドウ糖を摂取する以外に、アミノ酸などの様々な化合物からブドウ糖を生合成する経路を持っています。食物として摂取したありとあらゆる化合物から、ブドウ糖を生合成する代謝機構(糖新生経路)を駆使して血糖値を高め、脳にブドウ糖を絶え間なく供給しています 😈
つまり「飢えた脳に如何に効率的にブドウ糖を供給できるか」と言うのが『動物の代謝機能進化』の絶対課題だったと言えます。
動物にとって、ブドウ糖を脳に大量供給して、脳を維持するだけでも非常に困難な課題で、脳容量を増大させるなんてことはほぼ不可能なのです
例外的なのは果実を主食とする高等猿(類人猿)です 🙄
果実にはブドウ糖をはじめとして、利用しやすい単糖類、少糖類が大量に含まれており、速やかに消化吸収されて血糖値を高め、脳にブドウ糖を供給することが可能になります 😀
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画像はこちらから頂きましたITIS Travelers [6]
このように高等猿は豊富な栄養源に恵まれていましたが、『人類は木から落ちた猿』です。その栄養環境は極めて厳しい状況と言えるでしょう
事実、700万年前に誕生した最古の人類から、250万年前までの間は、殆ど脳容量の発達は見られません。それが、250万年以降、急激に脳容量が発達していきます。その背景には、どのような要因があるのでしょう?
有力な仮説として考えられるのが『火の利用』です。
先述したように、植物のデンプンや食物繊維からは、殆どブドウ糖を摂取することはできませんが、火で加熱するとデンプンの強固な結晶構造が崩れ、動物の持つ消化酵素(膵液や唾液中のアミラーゼ)で100%ブドウ糖に分解することが可能になります
現在解っている最古の火の利用跡は150万年前と言われていますが、あくまで形跡として確認できている範囲であり、自然火の利用も含めれば、更に50万~100万年前まで遡ることができると考えられます。これは、見事に脳容量増大の時期と一致します
300万年前から地球は最後の氷河期を迎え、地球規模で寒冷乾燥化が進みます。とりわけアフリカ地域では乾燥化が激しく、野火も多く発生したと考えられます 👿
最初は、このような野火によって焼かれた植物の根(特に熱帯地域に多いイモ類。まさに『焼き芋』)などを食べたのをきっかけとして、徐々に火の利用を獲得したことが、植物からの効果的なブドウ糖摂取を可能にし、人類の急激な脳容量拡大を導いた可能性は十分に考えられるのではないでしょうか。
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サバンナにおける野火
画像はこちらから頂きました九州大学Seeds集 [7]
動物は本能的に火を恐れ、野火跡などには近づきません。生存の為の本能的な武器を失った人類にとって、他の動物が近づかない野火跡に存在する植物の根などは、絶好の食料源・栄養源だったと考えられます 😀
当然、人類も動物なので、本能的には火を恐れます。その恐れを克服して、可能性に踏み出すためには『観念機能』が必用不可欠になります。
暗闇の中で獲得した観念機能 [8]によって、火の奥に自然の摂理=物理的法則を見出し、本能的な恐れを克服して、可能性へと収束することが可能となった。
これによって、他の動物にはない、植物(デンプン+食物繊維)から大量のブドウ糖を摂取して連続的に脳に供給する画期的な方法を獲得し、急激な脳容量増大をもたらしたのだと考えられます。

参考:火の人類進化論(林俊郎著)

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