2009-06-25

インフルエンザとの共生?

インフルエンザウィルスに関する、非常に興味深いレポートを紹介する。
東アジアにおいて変化する鳥インフルエンザ遺伝子プール

『我々が自然と仲良くした場合にのみ、病気は徐々に消え去るだろう』

要約
この10年ほどで、中国南部における鳥インフルエンザの遺伝子プールの性質に大きな変化が見られた。インフルエンザウイルス感染の流れは水鳥から陸鳥に向かっているという見解は広く受け入れられているが、最近になってH5N1型とH9N2型のウイルスが水鳥に逆戻りし、水鳥において再組み換えを起こして、遺伝子型の幅が広がりとさらに明白な組み換え株が出現してきた。
こうした転換の発端となった現象は、養鶏産業の集約化と相まって1997年の香港でのH5N1型の事例にまで遡る。

まだまだ続きます

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インフルエンザ流行の中心――中国南東部
インフルエンザウイルスは自然環境の中に組み込まれており、本来の保有動物である水禽類の腸管に住み着いているが、発病はしない。紀元前2500年ごろに、おそらくは中国南東部においてアヒルが家畜化されたことで、アヒルがいわば「インフルエンザ農園」になった。西暦1644年に始まった清王朝のころから、アヒルは稲作を助ける農法として飼育されるようになり、そのために中国南東部の田園地域では鳥インフルエンザウイルスが一年を通じて豊富に存在するようになった。このように、この地域では大人数の人口と家畜とが密接に同居していることから、鳥インフルエンザウイルスの鳥類間の伝播が増大した。

image079.jpg
写真はこちらからお借りしました。

インフルエンザの世界的な流行と中国とのつながりは、歴史的にはこの一世紀の間は中国南東部に限局していたため、中国南東部がインフルエンザウイルスの世界的な流行の発生中心地だと見なされてきた。
この仮説の鍵となったのが、鳥と動物に対する定期的なウイルス調査である。香港は、中国南東部を含む地域の監視地点になってきた。この香港における中国南東部の家禽のウイルス調査によって、家禽の主要3種である鶏、アヒル、ガチョウのうちアヒルが主なウイルス保有動物であることが明らかになった。鶏からウイルスが分離されることは稀であり、別の地域での経験からすると、ウイルスが分離されれば、特にそのヘマグルチニン(HA)亜型がH5またはH7であったならば、鶏における深刻な疾病流行の前兆である可能性があった。

しかし、中国南東部の状況には大きな違いがひとつあった。他の地域での流行では多くの場合、流行に先立ってその地域への渡り鳥の移動があるのだが、中国南東部では、これらウイルス亜型が家畜アヒル集団の中に一年を通じて症状を見せないで潜伏している。言い換えれば、この流行の根底には遺伝子変異を起こしたH5やH7型(およびその他)のウイルスの恒久的な供給源が存在し、それが(1) 家禽に疾病の原因となっており、(2) ヒトにも疾病を引き起こす可能性を秘めたものになっていた、ということである。他の地域での経験によれば、ヒトは、家禽での大流行を引き起こすものも含めたH5およびH7ウイルスに曝露しており、その結果は感染していないか結膜炎などの軽度の感染になることが明らかになっている。

流行中心説では 、この地域で長期間確立してきた遺伝子プールの中に遺伝子/分子の微細な差異があって、それがヒトの世界的な流行の原因となるような性質を持っているかどうかという問題については、触れていない。そして興味深いことに、中国南東部の田園地域の住人を対象とした血清学的調査では、検査した HA亜型(H1-H13)に対する抗体がすべて存在することが示されており、この地方においては鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染は珍しくないと考えられる。

インフルエンザの出現から感染拡大までの歴史がまとめられたものが、下図。

東アジアの「インフルエンザ農場」からのH5N1型ウイルスの出現
渡りかも               数百万年前
 ↓
家畜化                紀元前2500年
中国東部            「インフルエンザ農場」
中国南部
 ↓
清朝
稲作との隣接化           西暦1644年
 ↓
養鶏の集約化            1980年以降
 ├─┐
 |  ↓
 | 香港のH5N1″鳥インフルエンザ” 1997年
 ↓
東アジアのH5N1          2003-2004年

上記はレポートの抜粋だが、この筆者の一番伝えたかった事は冒頭の一文であろう。
『我々が自然と仲良くした場合にのみ、病気は徐々に消え去るだろう』
鳥インフルエンザウィルスは恐らく鳥類の発生とほぼ同時に存在する、遺伝子(RNA)の断片であり、この筆者の分析よりもはるか以前から存在していたであろう、と推測される。しかし、問題はこのウィルスが異種間感染をした場合にのみ、表れる。
だが、それとて近縁にて生活を営む共存種間であれば、さほど大した被害は発生していない事が確かめられているのだ。これは、自然外圧に対する共生適応の表れであり、特段珍しい事ではないのだと思われる。
参考:
ウィルスで病気になるのはなんで?
しかし、この共生関係も、あまりにも人の都合のみによって歪められた空間が作られた場合には、相互の協働関係の崩壊から、ウィルス・遺伝子レベルにおいてそれはお互いの存在を脅かす脅威にもなりかねない、という事も示している。
その最も極端な事例の一つが、食肉用の養鶏場の姿だ。
次のエントリーで、その問題性を紹介したい。

List    投稿者 kawait | 2009-06-25 | Posted in ⑤免疫機能の不思議1 Comment » 

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コメント1件

 matsu子♂ | 2009.09.01 19:15

繊毛で左右が決まるっておもしろいですね。
生物に余計なものはないってことですね。

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