- 生物史から、自然の摂理を読み解く - http://www.seibutsushi.net/blog -

生物の起源と進化に学ぶ-5-安定と変異の両立

%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90.bmp
「生物史の起源と進化に学ぶ」シリーズ 回目です
徐々に生物進化史が見えはじめてきましたね。
今回は生物史上最も大きな進化である『分裂・複製システム』について紹介します。

続きを読む前に、応援クリックお願いします
ブログランキング・人気ブログランキングへ [1]
にほんブログ村 科学ブログへ [2]
[3]


生物の生存課題とは?
生物は環境(≒外圧)の変化に適応するためには、多様な適応戦略を生み出してきました。そして、その適応戦略の源泉が、DNA(≒遺伝子)の組み換えによる多様化であり、生物は同類他者=変異体を作り出すことで、環境変化に対する種の保存可能性を高めてきました。
しかし、変異体が必ずしも種の保存に適応的であるとは限りません
生物につきまとう大きな課題の一つが、分裂時の『安定と変異の両立』であり、この課題の高度化こそ、生物の適応可能性の鍵を握ることになるのです。
そして、原核生物から真核生物へ進化を遂げた生物は、新たな『安定/変異システム』を構築していく事になります。それが、「二倍体生物⇒減数分裂⇒有性生殖」という変異システムの構築であり、生物史に残る進化と位置づけられます。
【参考投稿】
安定して変異体を作り出す減数分裂→有性生殖システムが進化を促進した [4]
変異(安定)進化論史① RNAワールド~原核生物 [5]
変異(安定)進化論史② 真核n体~真核2n体 [6]
変異の高度化⇒変異システムの構築
①単純分裂
原核単細胞生物や原始真核単細胞生物の分裂システムは単純分裂であり、変異は分裂時に発生する突然変異又は紫外線・化学物質等による遺伝情報破壊に委ねられます。突然変異の約9割は不適応体といわれていますが、通常細胞内では変異を修復する修復酵素によって、コピーミスや遺伝子の破損は100億分の1程度の確立まで抑えられます。
しかし、このシステムでは変異は不確実な突然変異に委ねられ、外圧に対する適応度という点では必ずしも万全とはいえません(注1)。
※注1 原核生物など細胞内の組織構造が単純な場合であれば、単純分裂によって適応的な変異体を作り出すことも可能でしたが、組織が高度化し、精密な分裂が必要とされる真核生物ではこの変異システムでは適応できなくなる。
【参考投稿】
なんでや劇場「有性生殖へのみちのり」レポート② 無性生殖の高度化(有糸分裂の仕組みとは) [7]
②一倍体単細胞生物の接合と減数分裂
原核単細胞生物や真核単細胞生物の中には、単純分裂以外に外圧適応する生物が存在します。
それが、一倍体(n体)単細胞の接合と減数分裂です(一倍体についてはコチラ [8])。
たとえば、一倍体単細胞生物のクラミドモナスは、飢餓状態におかれると同類同士で接合し、硬い殻を作って休眠状態となります。
合体したクラミドモナスは、外部状況が変化すると再び分裂し、2体のクラミドモナスに戻ります。その際に互いのDNAをシャッフルすることで、分裂後のクラミドモナスは、合体前のそれとは微妙に異なる変異体を作り出し、新たな環境へと適応します。
このように、DNAの組み替え・交叉を行った上で分裂し、元の遺伝情報と「少し違う 」遺伝情報を生み出す分裂を「減数分裂」と言います。
「外圧上昇⇒n体+n体の接合⇒減数分裂」という分裂システムのポイントは、『飢餓という環境変化に対して、同類他者=変異体を「確実」に、かつ「安定」して生み出す』という点で非常に画期的です。
また、生物同士の接合というのは、異なる個体同士が寄り添い合い、DNAを組み替えるという点で、『性のはじまり』と言えるでしょう。
【参考投稿】
大腸菌の不思議(原核単細胞の接合) [9]
二倍体の登場(一倍体真核単細胞生物クラミドモナスの接合) [8]
真核単細胞の接合にも、”性システム”の原型が [10]
③二倍体単細胞の減数分裂
真核単細胞生物の段階になると、一倍体(n体)単細胞生物から二倍体(2n体)単細胞生物へと進化するものが現れます(現存するものではゾウリムシなど)(二倍体についてはコチラ [8])。
この二倍体単細胞生物は、通常状態では単純分裂によって子孫を残します。しかし、これだけだでは安定的に変異体を作り出すことができません。そこで、減数分裂により一倍体細胞を作り出し、同種の個体から発生した一倍体細胞と接合することで、次代の二倍体単細胞生物となります。
一倍体生物と二倍体生物の減数分裂の違いは?というと、一倍体生物の減数分裂は、『安定期(冬眠)と変異期(減数分裂)をずらして成立している』のに対して、二倍体生物の減数分裂は、『単純分裂と減数分裂による遺伝子組み換えを安定して行うことが可能』になったというのがポイントです
この安定の意味するところは、生物が「なぜ一倍体から二倍体へと進化したのか?」という理由と繋がってきます。
一倍体生物が接合を試みるのは、一倍体生物では飢餓状態時に活性化エネルギーの不足を起こし、体内のシステム維持が困難となってしまうからです。その結果、活性化酸素の影響を強く受けたり、ウィルスなどの外敵に晒され、一セットの遺伝子が損傷されて回復できずに死んでしまいます。
ところが、二倍体生物は、遺伝子のスペアー があるので、一方が傷ついても直ちにスペアーを鋳型として複製することが可能です。また一倍体生物に比べて余剰たんぱく質も多く、このたんぱく質を使って膜から膜へ情報伝達していくことができ、外圧適応上「安定的」といえます。
【参考投稿】
10月21日なんでや劇場レポート①「倍数体2n自体が変異実現体である」~多細胞生物への道のり [11]
ゾウリムシの不思議(二倍体真核単細胞の接合⇒減数分裂) [12]
なぜ生物は二倍体になり、一倍体に戻るのか [13]
以上まとめると、生物が外圧に適応し続けるために高度化させた『安定/変異システム』は、

単純分裂変異は突然変異と外的要因による遺伝子破壊に委ねられる
一倍体単細胞の接合と減数分裂分裂時に小変異を組み込み、安定的に変異する(飢餓状態時)
二倍体単細胞の減数分裂単純分裂と減数分裂による組み換えを安定的に実現する( かつ )

となります。また『接合⇒減数分裂』は、異なる個体同士が寄り添い合い、DNAを組み替えるという点で、『性=有性生殖』のはじまりです
その後生物進化の歩みを辿っていくと、この二倍体単細胞生物の中から多細胞生物が生まれます。
多細胞生物は、単純分裂を子孫を残すためではなく「体細胞を作り出すためだけ」に使います。また、減数分裂を「子孫を残すためだけ=受精卵を作り出すためだけ」に使っていきます。
つまり多細胞化(=細胞の役割分化)への布石は、この二倍体単細胞生物の分裂システムにあるのです。
%E5%9B%B3%E7%89%88%E7%94%9F%E7%89%A9.jpg
図は左が一倍体生物の接合→減数分裂を表し、右が二倍体生物の単純分裂→減数分裂を表しています。
前回の投稿「有糸分裂の統合者」 [14]と合わせて読むと理解が深まります


「二倍体生物⇒減数分裂⇒有性生殖」は生物の大進化
「二倍体生物⇒減数分裂⇒有性生殖」という変異システムは、実は生物史上非常に大きな意味を持ちます
多細胞生物以降に生まれるほとんどの生物は、この変異システムを元に進化を遂げていくことになります。それは、私達人類も変わりません。
つまり、遺伝交差という小変異を組み込んだこのシステムは、外圧適応態たる生物の最も重要な適応システムであり、生物の大進化と位置づけられるのです。
改めて、生物のこの巧妙なシステムを見つめ直してみると、私達生物(正確には真核生物以降)は主体的に変異していく存在であるということに気付かされます。現在の生物学会の主流を占める「突然変異・自然選択説」では変異はたまたま起きるというその一点に集約されますが、そうではなくて私達は逆境に対峙した時、自ら変異していくことで新たな適応可能性へと収斂していく存在、そんな気付きを生物の進化から見出すことができます

[15] [16] [17]