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コケ植物に中心体から葉緑体の過渡期をみる

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桜が満開ですね~
今日は仕事で女子大に足を運んだのですが、満開の桜の下で女子大生が楽しそうにお喋りしている姿がとても華やかで、見ているだけでとても幸せな気分になった一日でした 😀 。
と、おじさんのような前置きはこれくらいにして、今回は植物にアプローチ
桜のように私たちの身近にある陸上植物に至るまでには、動物と同じように植物も進化してきました。陸上植物に至る進化の系譜を大まかに捉えると、藻類→コケ類→シダ植物→裸子植物→被子植物となります。水生で生きる藻類からはじまって、ジメジメしたところにいるコケを経て、陸上に進出していく姿は動物と同じですね。きっと植物にも逆境があったのでしょう。(どんな逆境なのか気になるけど。)
この水生から陸上へという進化の中で植物の構造も変化していきますが、細胞分裂や細胞内小器官の配置を司る中心体もその姿を変えていきます。生命誌ジャーナル [1]にとても面白い記事があるので、それを基に紹介したいと思います。


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生命誌ジャーナルさんからお借りしました。
図のように、藻類の段階には中心体が存在しています。基底小体ともいわれますが、中心体は普段鞭毛の付根にあり、中心体から微小管が延びて細胞内小器官の配置を決定つけています。細胞分裂時には中心体を極にして紡錘糸が形成され、染色体を分配されます。葉緑体の有無を除けば、動物と殆ど同じ構造に見えますね。
コケ植物や裸子植物はいったん飛ばして被子植物をみてみると、中心体は存在せず、微小管は細胞壁に沿って一定の向きに並んだ状態で配置されています。細胞分裂時には図のように極のような明確な基点がなく、いたるところから紡錘糸が伸びてくるようですね。
何ででしょう?
これについては、いったん棚上げにさせてもらうとして・・・
生命誌ジャーナルでは、この藻類(水生)と被子植物(陸上)の中間にあたるコケ植物に注目した記事があり、これが興味深かったです。上の疑問にも一定触れられています。

コケ植物は、進化的に藻類と被子植物の中間段階と考えられており、紡錘体のでき方にもそれが見られる。例えば精子では、藻類と同じく鞭毛があり、細胞内には中心体がある。精子をつくる時の細胞分裂では、中心体が微小管形成中心としてはたらき、紡錘体をつくり染色体を分配する。これは、コケ植物すべての精子で見られる。
 また、ゼニゴケなどのタイ類の植物体における細胞分裂では、極形成体と呼ばれる中心体とよく似た構造が見られる。極形成体は中心体の内部にある中心小体は見られないが、中心体と同じように微小管形成中心としてはたらく。細胞内の一点から紡錘体がつくられるという点では藻類と似ているのである。
 ところが胞子形成では、中心体も極形成体も存在しない。ここで、重要な役割を担うのが葉緑体だ。藻類やコケ植物でさかんに分裂している細胞は、基本的に1~2個の大きな葉緑体をもつ。被子植物になると小さな葉緑体が常に多数見られるので、葉緑体を一つしかもたないことは、祖先的な形質であると考えている。ゼニゴケの一種、ケゼニゴケの胞子形成の減数分裂を見てみよう。葉緑体が一つしかない細胞では、それを娘細胞に確実に分け与える必要があるので、核の分裂に先立って葉緑体の分裂がおこるのだが、その時、葉緑体表面が微小管形成中心となってそこから紡錘体がつくられ、葉緑体の分裂を追いかけるように核の分裂が行われるのだ。葉緑体が、動物細胞の中心体のように振る舞い、葉緑体がない細胞ができることを回避しているのである。
 さらに、葉緑体を多数もつセン類の植物体の細胞分裂では、被子植物と同様に明確な微小管形成中心がなく、紡錘体の極はタイ類のものほどはっきりしない。
 コケ植物の紡錘体形成様式には、動物や藻類のように中心体を微小管形成中心とする一点集中型のものから、被子植物のように細胞質に分散した微小管形成中心を持つ分散型のものまで、さまざまな形態のものがみられることがわかった。これは、藻類から被子植物への進化の試行錯誤を反映していると考えてよかろう。

面白いですよね~コケ。精子には中心体があって細胞分裂時には中心体が司令塔になっているが、胞子体には中心体がなく葉緑体が細胞分裂の司令塔になっている。精子に中心体が残っているのは、変異の継承や受精時の細胞分裂の基点としての役割、鞭毛の基底小体としての名残のようですが、胞子の分裂には葉緑体の分配を最重要課題として分裂の司令塔を中心体から葉緑体に移行させたものも現れてきているのですね。文中にもあるように、水生から陸上への過渡期にあるコケの試行錯誤が垣間見られて面白いです。藻類のように動く事も光合成することもできる状態から、陸上に上るに従って愈々光合成に舵をきった植物の戦略だったのでしょうか。そして、1つの大きな葉緑体を持つ原始的な植物から、小さな複数の葉緑体を持つ被子植物にまで至ると、極のような分割もなくなってきたようです。

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