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タンパク質を膜に縫い付けるシクミ

こんにちわ。arincoです。今回は、膜タンパク質はどうやって膜に縫い付けられるの?という疑問を追及してみました
キーワードは、「小胞体」です。
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小胞体(画像は、こちら [1]からお借りしました)
 「小胞体」は、脂質とタンパク質の生合成に中心的役割を果たしている細胞内器官の一つです。ほとんどの膜貫通タンパク質と脂質は、小胞体膜で合成されています。また、ミトコンドリアの膜に含まれる脂質も小胞体で生成されています。
 さらには、細胞外に分泌するタンパク質、小胞体内腔、ゴルジ体、リソソームに送られるタンパク質も、まず小胞体の中(以下内腔)に入ります。つまり小胞体は、リボソームで出来たたんぱく質を完成させる為にに非常に重要な役割を果たしている器官なのです。
 では、「小胞体」でどうやって膜タンパク質が作られているのでしょうか?
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 膜タンパク質の作り方を学ぶ前にまずは、一般的な水溶性タンパク質の小胞体への取り込まれ方を整理しましょう。
①まず今までの投稿にもある様にリボソームでたんぱく質の元となるアミノ酸のポリペプチド鎖の形成が始まります。
②このポリペプチド鎖の端部には、N末端アミノ酸のNH2側)とC末端(アミノ酸のCOOH側)という2つの端部が存在します。このうちのN末端には、「輸送開始配列」と呼ばれるアミノ酸の組み合わせが存在して、小胞体膜にある「転送装置」と呼ばれる膜タンパク質に結合します。「転送装置」は、膜貫通方向と側面に二方向のゲートを持っており、一方が開いていると一方が閉じる構造になっています。
③「輸送開始配列」が「転送装置」と結合すると、「転送装置」内の膜貫通方向のゲート(小孔)が開き、ポリペプチド鎖はループを作る形で脂質二重層を通過していきます。この工程は、リボソームによる翻訳と同時進行で行われています。
④そして、リボソームによるタンパク合成が完了するとすぐに、成熟タンパクが小胞体内腔に放出されます。
⑤「輸送開始配列」は、リボソームによる翻訳が続いている間に酵素により切断されます。この時、転送装置のもう一方のゲートが開き、脂質二重層内へ「転送開始配列」は放出されていきます。放出されたシグナル配列は、脂質二重層内に拡散していき、膜内ですばやく分解されていきます。
このようにして水溶性タンパク質は小胞体内腔に取り込まれていきます。
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□膜タンパク質は、どうなってる?
 それでは、いよいよ膜タンパク質の作り方に移ります。
大きな流れは、
①リボソームで合成されたタンパク質を小胞体に縫い付ける。
②小胞体からゴルジ体に輸送する。
③ゴルジ体から膜表面まで輸送する。
という経路で、膜タンパク質は出来上がります。まず小胞体に縫い付けてしまうというのがポイントですね。
①タンパク質を小胞体に縫い付ける。
 最も簡単な1回膜貫通タンパクを小胞体に縫い付ける方法を見ていきましょう。いくつか方法があるのですが、代表的な方法としては、水溶性タンパク質と同じ方法が用いられます。(これが先に水溶性タンパクの方法を見た理由 )
 水溶性タンパク質の小胞体内腔への取り込みと異なる点は、アミノ酸の「輸送開始配列」に加えて「輸送停止配列」が存在している事です。
 この「輸送停止配列」がミソで、タンパク質を膜に固定する役割を果たしています。「輸送停止配列」は、先程登場した「転送装置」の側面にあるゲートを通って脂質二重層に送り込まれます。そして膜貫通部分がαフェリックスという構造となり、膜タンパク質の形態となります。
 「輸送開始配列」が端部にないケースも存在しない。その場合は、「転送開始配列」が「輸送停止配列」の役割を兼任して、膜内に残る事でタンパク質を小胞体の膜に縫い付けます。
 ちなみに複数回膜タンパクはどうなっているかというと、「輸送開始配列」と「輸送停止配列」を指示する配列の繰り返しで複数回膜貫通を行う事で、複数回小胞体の膜にタンパク質を縫い付けます。
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②小胞体からゴルジ体に輸送する。
 小胞体膜からゴルジ体の輸送は、小胞体から分離した「小胞」と呼ばれるもの(要はちっちゃい膜)で輸送されます。
まず小胞体からタンパク質のかご状の覆いを持った被覆小胞が出芽します。
 小胞は、標的膜と融合する前にこの被覆を脱ぎ、小胞同士が融合して、小胞小管クラスターという小胞の塊を形成します。
 この小胞小管クラスターが微小官に沿って、ゴルジ体(トランスゴルジ体)へと移動して融合します。
 始めにタンパク質によって被覆がされるには、大きく2つの理由があります。
1つ目は、膜の特定の部分に特定の膜タンパクを濃縮して小胞膜にし、これによって、輸送する分子を選ぶという機能を持っている点です。
2つ目は、特定部分の被覆タンパクから湾曲したかご状の格子構造を作って膜を変形し、小胞を作りだすという機能を持っている点です。
 また、ゴルジ体ではオリゴ糖鎖が付加されますが、糖鎖を付加する理由はまだわかっていないそうです。
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③ゴルジ体から膜表面まで輸送する さて、ようやく膜表面までたどりつきそうですね。ゴルジ体から膜表面への輸送も基本的には、小胞体からゴルジ体への輸送とあまり変わりません。ゴルジ体では、「分泌小胞」という小胞が形成されます。分泌小胞の表面には膜タンパク質がくっついています。
 この分泌小胞が移動して細胞膜と融合します。こうしてめでたく膜タンパク質となるのです。
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 さて、ここまでタンパク質を膜に縫い付けるシクミを見てきましたが、原核生物には小胞体はありません。それでは彼らがどうやって膜タンパクを縫い付けてたかというと、膜そのものにリボソームが結合する事で膜タンパク質を結合させていたようです。小胞体の起源は細胞膜ですので当たり前といえば当たり前ですね。
 膜タンパク質の作り方から見ても、元々は膜そのもので行っていた作業を細胞内小器官へと専門分化させていった過程を垣間見る事が出来ます。初期の膜は、本当に様々な機能を有していたのでしょうね。
参考:細胞の分子生物学 第4版

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