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細胞分裂の開始とヌクレオチド濃度の関係

細胞分裂を開始するには、遺伝子複製の材料となるヌクレオチド(ATP、GTPなどの核酸塩基)が細胞内に十分蓄積されている必要があります。細胞分裂の準備が出来ているかどうか状況を確認し細胞分裂開始の指示を出す、センサー機能や指令系統あるいは触媒反応はどうなっているのでしょうか?

この画像は臨床研 [1]の「ゲノムの動態解析と細胞機能の制御 [2]」からお借りしました。
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●ヌクレオチド濃度はほぼ一定に保たれる
 細胞周期とヌクレオチド濃度の関係は、ヌクレオチドを先に作って蓄積しヌクレオチド濃度が濃くなったことを判断して細胞分裂が開始されるという関係ではありません。
 細胞分裂が開始されてヌクレオチドが消費され濃度が下がると、ヌクレオチド増産のスイッチが入り、消費された分が増産されるという関係です。
 このヌクレオチド増産スイッチの役割は合成酵素が果たしています。細胞内のヌクレオチド濃度が高いと合成酵素が働かずヌクレオチドの増産がストップし、ヌクレオチド濃度が下がると合成酵素が働きだし増産が開始されるという関係です。
 詳しくは以前の投稿をご覧ください。
  ヌクレオチド(核酸の材料)はどうやって作られるか [6]
  細胞周期とヌクレオチド生産の関係 [7]
 ところで、ヌクレオチドは消費された分だけ増産されるとしても、ヌクレオチドの材料は細胞内に無限にあるわけではありません。細胞分裂の途中で、ヌクレオチドの材料が無くなったらどうするのでしょうか。

●ヌクレオチドの材料はリン酸・糖・アミノ酸
ヌクレオチドの材料になるのはリボース5リン酸です。下図の左側がリボース5リン酸、右側がヌクレオチドの一つであるAMPです。(この画像はウィキペディアよりお借りしました)
D_ribose_5_phosphate.png    AMP_chemical_structure2.png
ヌクレオチドの材料になっている、リボース5リン酸は糖(リボース)とリン酸の化合物です。そこに、塩基と呼ばれる環状の構造がくっついたのがAMPです。塩基はアミノ酸から作られ、窒素と炭素等から出来ている有機物です。
ヌクレオチドの材料は、糖(リボース)、リン酸、アミノ酸といった、生物にとって普遍的な栄養素から出来ていることがわかります。

●細胞分裂開始のセンサーは糖・リン・窒素を監視している?
細胞分裂の際に、核酸の材料になるヌクレオチドは消費された分、増産されるとしても、さらにその材料である糖・リン酸・アミノ酸は外部から吸収して、細胞内にストックしておく必要があります。したがって、細胞分裂の司令塔がセンサーで監視しているのは、糖・リン酸・アミノ酸といった基本的な物質であると考えられます。
さらに、これらの物質は、外から取り入れる必要がありますから、外界に十分に栄養分が無いと材料切れになる可能性が高くなります。したがって、細胞分裂を指示する司令塔は、体内だけではなく外界の糖・リン酸・アミノ酸濃度も監視して、濃度が濃ければ分裂を開始し、薄ければ抑制するという判断をしていると考えられます。
海で発生する赤潮も、リン(リン酸の材料)や窒素(アミノ酸の材料)の濃度が高い、富栄養化状態で発生することは良く知られています。赤潮は海水中にリンや窒素が大量に含まれていることを感知して、プランクトンが大増殖することで発生します。

●センサーは細胞膜に配置されている?
細胞分裂のスイッチは、細胞内と細胞外の両方に十分な栄養があることを感知しているようです。細胞の内外を同時に監視できるとすると、細胞膜貫通型の膜タンパク質が監視役を果たしている可能性が高そうです。
内と外を別々に監視している場合でも、両社が近接して配置され、密接な関係を持っていることは間違い無さそうです。
さらには、細胞膜で感知した情報が、スムーズに細胞分裂開始情報として機能するためには、中心体や中心体原基とも、密接な関係にあると思われます。原核生物の細胞分裂が細胞膜に接した細胞骨格に沿って行われ、その出発点である中心体原基も細胞膜に接していることから、細胞膜のセンサーは中心体原基に直接分裂開始情報を送り細胞分裂が開始されると考えることも出来ます。
原核細胞の細胞分裂は理科ネットワーク [8]さんの原核細胞の細胞分裂 [9]に分かり安い画像があります。

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