2009-01-04

『のうだま』…脳科学から探る「ヤル気ナイナイ病」への処方箋

あけましておめでとうございます。雅無乱です。

今年初めて読んだ本は、これ。
           51MmTdbl6yL__SS500_.jpg
中学校一年生の甥に贈る本を…ということで本屋で探していたらたまたま見つけた。

「キッパリ!」の上大岡トメ氏と東京大学大学院薬学系研究科准教授の池谷祐二氏の共著である。

池谷祐二氏といえば、脳科学を中学生向けに解説した対話本『進化しすぎた脳』が印象的で記憶に残っている。

トメ氏の漫画でとっつきやすく、字も大きくてページ数も150Pほどなので、30分くらいで読めてしまった。

脳の仕組みから「やる気になるコツ」を解説している本で、なかなか面白かったので紹介したい。

続きが気になる方は是非応援クリックを!
ブログランキング・人気ブログランキングへ   にほんブログ村 科学ブログへ   

 にほんブログ村 科学ブログへ


この手の本の前提にあるのは、世の中一般の「どうも何事もやる気にならんなぁ」「やる気を出したいなぁ」という欠乏の高まりのような気がする。

そもそも’70年の「貧困の消滅」以前、「どうもやる気にならない…」は一部の恵まれた有閑階級の贅沢な悩みだったのだろう。ところが、現在、豊かさが人々に行き渡って以降は、「だるい」「しんどい」「どっこいしょ」としょっちゅう口にする小学生が多数存在している事や、ニートや遅刻・欠勤しても平然としている若手社員が増加している事から言っても、この「やる気ナイナイ病」は日本人の殆どに蔓延してしまっていると言えるのかもしれない。

野生動物は、常に外圧に神経を尖らせ、その変化に即応しないと生きていけない。「やる気が出ない」とか言っていられない。

ところが、例えばえさが与えられる飼いネコは、縁側などで陽光を浴びながら日がな一日ぼーっと寝そべっていたりする。だからと言って、飼いネコが「最近どうもやる気が出ないんだよな」なんて悩んだりはしない。

しかし人間の場合は、やっぱり「やる気のある状態」=「活力あふれる状態」にある人は、人を惹きつけるし、魅力がある。そして自分自身が活力あふれる状態だと、なんか「生きてる!」って感じがする。

私権の強制圧力に反応して無理やり「やる気」を出させられていた状態から、その圧力が衰弱し、何か他に「やる気になるものは無いのかな?」「もっと生きてるって実感がほしいな」という“活力欠乏の高まり”が、最近の脳科学ブームの底流にあるのではないかなぁと思ったりする。

さて、前置きはこれくらいにして、この本の内容で重要なことは2つ。

1.人間は環境に適応して「順化」する。だから、誰でも3日坊主で当たり前。

 
2.脳はとてもだまされやすい。だから、下の「B」「E」「R」「I」を上手く使って、淡蒼球を活性化しよう。

①Body「からだを動かす」 → 脳の「運動野」からスイッチが入る

②Experience「いつもと違う事をする」 → 「海馬」からスイッチが入る

③Reward「ごほうびを与える」 → 快楽によって入る。「テグメンタ」にある

④Ideomotor「なりきる」 → 「前頭葉」からスイッチが入る 

「淡蒼球」をウィキペディアで引いてみると
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B7%A1%E8%92%BC%E7%90%83

GABA系からのインプットがあり、一方で、

>腹側淡蒼球は視床の背内側(MD)核に投射する。MD核からは大脳新皮質の前頭前野への興奮性の投射がある。

とある。「大脳新皮質の前頭前野への興奮性の投射…」これってA10神経のこと?

どうやら、「淡蒼球」抑制系の中枢と興奮性の中枢の結節点に位置し、重要な役割を果たしていそうな感じはするが、具体的な作用機構やメカニズムに関しては、この本ではほとんど解説は無し(残念)。今後の追求課題である。

とにかく、やる気になっているときにこの「淡蒼球」が活性化していることは確からしい

この本はとことん「実践論」に絞って解説してある。とにかく「淡蒼球」を活性化すればいい。では、これを活性化するためにはどうするか?

それが、上に書いた4つのスイッチ、①B(肉体から外圧のインプットで脳を動かす)、②E(状況変化を利用して海馬を活性化する)、③R(充足で脳を喜ばせる)、④I(未来の充足イメージに同化する)というわけだ。( )内は私なりの解釈^^;)

これらに関して、本の“解説”の中から池谷祐二氏の言葉を引用してみる。

<①Bodyに関して>

一般的には「脳」が私たちの最高層にあって、身体は脳の支配下にあると思われがちです。しかし、本当のところは逆で、「カラダ」が主導権を握っています。つまり、「脳からカラダへ」ではなくて、「カラダから脳へ」です。
これは動物たちの長い進化の過程をみればよく理解できます。脳とカラダではどちらが先に発達したでしょうか。もちろんカラダです。(中略)つまり「脳」は、進化の歴史の中では新参者なのです。
私たち人類はとくに脳が発達していますから、うっかり脳のスゴさに目を奪われがちです。しかし、人間だってただの動物にすぎません。人間の脳だけが特別に偉いなんていう考えは傲慢な妄想なのです。
つまり、「楽しいから笑う」のではなくて「笑うから楽しい」、「面白いから前傾姿勢で話しに聞き入る」のではなくて「前傾姿勢で話を聞くから面白くなる」、「ヤル気が出たからヤル」のではなくて「ヤルからヤル気が出る」、私たちの心はそういう構造をしているのです。
だから、頭でウダウダ考えて悩むよりは、まずは何より、身体や環境を自分の目標に合わせてセットする。これこそが最大の近道なのです。


 このあたりは、養老孟司氏がしょっちゅう言ってること。

<②Experienceに関して>

…よほど重要なことでない限り、「海馬」まで情報が届かない…(中略)…これがいわゆる脳のマンネリ化なのです。
…(中略)…逆にいえば、海馬を活動させるためには、いつもとちょっと違う要素を取り入れてみるのがよいということになります。
そうすれば、またその情報は非常事態として海馬にまで届くことでしょう。


 予想できない外圧が脳を活性化する…さもありなん。

<③Rewardに関して>

ごほうび(報酬)が「やる気」を生み出すことは誰もが納得できるところだと思います。ごほうびの喜びはテグメンタを活性化させます。
テグメンタからはドパミンという快楽物質が出て淡蒼球に届けられます。つまり、テグメンタは淡蒼球をダイレクトに活性化させるのです。


 現在においては、「報酬」は、“お金”というより“評価”であったり“共認充足”だったりする。
 そういう時代の変化をしっかり認識すれば、この法則はうまく使っていけるだろう。

<④Ideomotorに関して>

「I」は「Ideomotor(イデオモーター)」です。「観念運動」ともいわれ、いろいろな場面で観察される脳の現象です。
(中略)つまり、周辺の人や物によって、本人が気付かないうちに、「暗示」がかけられて、それに見合った行動を無意識に取ってしまうという現象です。
(中略)「念ずれば通ず」という言葉があります。将来に熱い思いを馳せたり、夢を持ったり、強く願ったりすると、ほんとうに叶ってしまうことがあります。(中略)念じると、無意識のカラダが自然と反応して、目標を叶えようと始動します。
(中略)受験前には合格したところを想像する。スピーチの前に聴衆が感心しながら聞いてくれるところを想像する。料理をするときには彼氏が「美味しい!」と言ってくれるところを想像する。
想像はできるだけ具体的なほうがよいと思います。すると本当にそんな気になってきます。気分ものってきます。


というわけで、なかなか示唆に富んだ内容である。

上からモノを言う古い慣習から抜けきれず、若手をさっぱしヤル気にさせる事ができない上司も、これを読んで意識を転換しておくとよいだろう。

この本のタイトル「のうだま」は、「脳をだましてやる気にさせる」というのと、「脳にあるやる気の玉(淡蒼球)」をかけていると思われるが、どうも自分自身をだまくらかして無理やりやる気になりましょう…といった印象もある。

これからは事実認識の時代である。別に「自分をだます」必用なんてないだろう。視点を「個人」に限定するから、結局は“自己啓発”的な固定観念に絡め取られる。

この本の中にも書いてあるように、やる気になるには、どんどん周りを巻き込む事こそが重要なのではないだろうか。自分をだまして自分だけがやる気になってもしょうがない。この本にある構造認識を使ってみんなをやる気にさせる方がずっと実りは大きいだろう。私権活力から共認活力へと人々の中心意識はすでに変わっているのだから…
       1041362749_72.jpg
        ※画像は → http://www.rui.jp/shop/shop.html?i0=179より

List    投稿者 nanbanandeya | 2009-01-04 | Posted in ④脳と適応1 Comment » 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.seibutsushi.net/blog/2009/01/648.html/trackback


コメント1件

 KAM | 2009.02.20 2:02

びんさん、こんにちは。
「遺伝子の共同体」の記事、興味深く拝見しました。
ご紹介いただき、ありがとうございます。
>全遺伝子群が作り出す、全形質に対して働く
という主張、説得力がありますね。
最近、自然農に興味を持っているのですが、そこでは、機能的に結びついた多様な生物による生態系ネットワークの安定性がベースになっています。
その安定性によって、一種類の虫が増えることが抑えられ、農薬を使わなくても、作物を育てることが出来るそうです。
僕が注目しているのは、自己組織化的に形成された多様性を持ったネットワークが、一般的に、外部からの錯乱に対して非常に安定だということです。
遺伝子共同体にも、そのような「安定性」があるのではないかと考えました。
「遺伝子共同体」という見方は、とても示唆に富んでいて面白いです。

Comment



Comment


*